第1話:アンキロサウルス+女騎士+空港占拠=必殺のチェイサーブレイク











 世界が全てバグってしまってから、

 10年の混沌の時を経て、


 2123年の東京都、

 東京湾に面する『新東京湾グローバル空港』内




 世界にとって、最も深刻な異常バグが現れていた。













『────滑走路内、大型草食『恐竜類』の誘導を完了!

 光学識別可能です!近距離レーザー誘導開始!』


『誘導弾発射、弾着‪……‬今!!』



 ズドォン、と滑走路の真ん中にミサイルが着弾した。

 直後、炎と爆音に怯えたあり得ない生物たちが歩き出す。


 それは、ゾウのようなサイズで亀の甲羅‪……‬というよりは、大型ショッピングモールなどにあるシュークリーム屋のクッキーシューのようなウロコを持つ生き物たちだった。


 そう書けばどこか可愛いと思う人間もいるが、その生物は今存在してはならない生き物。


 爬虫類、主竜系下網、『恐竜上目鳥盤類』に属する、曲竜下目の代表的な生物。


 ご存知『鎧竜』、

 アンキロサウルス。


 7500万年も前に、すでにの生物が、空港の滑走路を我が物顔で歩き、逃げていた。



『効果確認。

 ‪……‬‪……‬冗談だろ、対艦ミサイルだぞ今のは!?』




 ───ミサイルが着弾した場所に、騎士がいた。


 西洋の鎧姿の何者か、おそらく2mはある長身の『騎士』が。


 陥没し、復旧までかかる日数を考えたくはない滑走路のえぐれた穴の底から、ゆっくりと着実な足取りで進んでいく。



『クソッタレ‪……‬!日本の悪役ヴィラン代表ってか?怪人カイジン女め!』




戦闘指揮所CP、こちらサーペントリーダー。

 攻撃は効いていない。見ればわかるか?』



『こちらCP。予定通りだ。

 オペレーション『グリルドサウルス』を開始する。

 サーペント各隊、バッテリーを用意しろ』



 ズン!


 巨大な鎧の女騎士のような怪人が、燃えていない滑走路へ一歩踏み出す。

 重い一歩がその身の異常な質量を表し、恐竜の足跡の化石のような跡を滑走路へ残す。




 ───ボフッ!


 その怪人のすぐ近くに、何か柱のようなものが刺さる。


 一瞬、それを見た怪人。


 瞬間、振り向きもせず何もない背後を掴み、持ち上げる。



「グァ‪……‬!!」



 バチバチと音を立てて、人型に歪んだ空間が色を取り戻し、全身を覆う黒いアーマーとフルフェイスヘルメットの兵士が現れる。


 米軍の所属を表すマークとチームのエンブレム、

 米軍のサイボーグ化特殊部隊の屈強な兵士が、首を掴まれ持ち上げられもがいている。



「ウロチョロと何をしている?」


 怪人の口から漏れた声は、低い女の声。

 言語は分からない、が意味は通じていた。



「クソッ!!見えてやがるのか!?」


 瞬間、サイボーグ兵士はその手に持つ対サイボーグ制圧用を改造したスタンバトン怪人の首に叩き込む。


 最高出力でやれば、現行のサイボーグも機能停止する電圧だ。



(─────だってのによぉ!?!)



 その鎧の隙間に、その首に見えた肌色の部位に差し込んで使っているにも関わらず、


 怪人は、不動。



「こんなもので何をする気だった?

 舐められたものだなッ!!!」



 未だ電圧がかけられてスパークするスタンガンなどないように、総重量160kgはあるサイボーグボディを地面へ片手で振り下ろす怪人。


 とっくに臓器も人工物の身体の兵士は、内臓の悲鳴が聞こえ視界が暗転しかけた。



 キュイ、キュインッ!!



 その背後に撃ち込まれた弾丸。

 周りを囲んでいた別のサイボーグ兵士たちは、専用の同じ敵を殺す為の特殊ライフルを撃った。


 12.7×99mm旧NATO規格弾。


 設計は古いが、昔から対装甲用傾向ライフルの弾丸の範囲で最強の物。


 なんならば、発射する為の火薬は通常の3倍の量かつ、弾頭は特殊な装甲貫通用の特別性。



 音で分かった。

 貫通せずに弾かれたと。



 外傷なし。注意をこちらに向けただけ。



「何かやったか?」




「はぁ、はぁ‪……‬うわァァァァ!?!?!!」


「ふざけんなチクショォォォォォォォォッッ!!」



 効かないと分かっていても、機械化した身体の長年の相棒のライフルを撃つしか知らない。


 ドドドドドド!!


 カンッ!チュインッ!!


 注意をこちらに向けたが良いが、まさに戦車のような歩みと防御力でこちらに歩いてくる姿は恐怖。


 なお、最新式戦車でも当たりどころが悪ければ撃ち抜ける弾丸の雨が降り注いでいる。



「人間どもが‪……‬!!良い加減鬱陶しい!!」


 怪人の鎧のような足が、近くのコンクリートを蹴り上げる。


 コンクリートの塊が案外正確な狙いで吹き飛び、ライフルを撃っていた兵士達に飛来して二人を吹き飛ばし押しつぶす。





「ダニエル!JJ!!!クソ、クソ‪……‬!!

 ちくしょう予定通りだ!!!隊長ぉッッ!!!」


 最初に叩きつけられた兵士が立ち上がれずもなんとか這いながら『その場所から逃げた』兵士が叫んだ瞬間、あの空から落ちてきた何かが開いて光り始める。



「───仲間の敵だ!

 『トーチ』を起動しろ!!』



 開いた何かの背後に現れたサイボーグ兵士の言葉と共に、同じく現れた他の兵士が太いケーブルを接続してスイッチレバーを下げる。




 バチチチチチチチッッ!!!




「何を‪……‬がァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!?!」



 瞬間、怪人の周りを囲んでいた何かの間に光が満たされ、一瞬でその中の空気が歪み鎧が赤熱化するほどの熱量が発生する。



「全員退避しろ!!コイツはサイボーグも一瞬で溶かす電気炉らしい!!!」


「隊長は!?」



「この、小賢しいマネをぉぉぉぉぉッッ!!!!」



 一人、隊長と呼ばれた細身のサイボーグ兵がその高熱の炉の近くに残る。


 当然炉の隙間から熱された怪人の腕が伸びるが、それを蹴り上げて再び炉の中に戻す。



「残りたいなら良いが、コイツと心中する覚悟を持て!!

 ブリーフィングを思い出せ!!コイツの身体は全てが炭化タングステン装甲だ!!!


 6332℉ (3500℃)でじっくり焼かなければ無力化は難し、」



「ここから出せェェェェェェェェェッッ!!」



 再び隙間から出てこようとした怪人に隊長と呼ばれた相手の頭が高熱かした指で掴まれる。


 瞬間、ヘルメットを外し───同時にまとめていたゴムが外れた長い髪を振り回して、『彼女』を蹴りを入れて相手を炉に押し込む。




「それとも、女がBBQするのは邪魔か?

 石器時代の考えだな」



 そしてクールに、部下へそう問いかけるのだった。



「ええ、ジン隊長。僭越ながらBBQは男のスポーツであります。

 どうした鉄屑野郎ども!!タマついてるならビビってないで肉をよく焼きやがれ!!」



 部下の一人がそう声を声をかけて、炉の周りの隙間から相手が出てこないように取り囲み、あくまで深追いせず外に出ないよう殴る蹴るで相手を押し込む。


 ジンと呼ばれた彼女へ部下の大男が小走りで近づく。


「なんで気づいたんですか?

 ヤツが俺たちを見えてるって」


「お前もブリーフィングを忘れたな?

 相手は恐竜だ。トカゲと、鳥の仲間。

 紫外線が見える。光学迷彩は、」


「クソ!赤外線と可視光だけってやつか!!

 エリア88のクソども、俺たち切り刻んだ癖にそう言うとこ抜けてやがる」


「あの電気炉も彼らの作品らしいが。

 よっぽどがない限りは壊れないと聞いたが、このままいけば無力化を‪……‬」



 突如、炉を構成する地面に刺さった機械を掴む両腕が見えた。


 メキメキと音を立てたと思えば、それは徐々に地面から引き抜かれていき────



「ああ、よっぽどが起こっちまった‪……‬!!」



 ブンと投げられた炉の一部。


 慌てて避ける米軍達と、投げた勢いで炉の一部だった物は空港の施設の一角に刺さる。



 ズン、という足音と、ジューという何かが焼ける音。




「貴様らァァァァァァァァァァァァッッ!!!

 殺してやる!!!!私が受けた苦しみをお前らにも味合わせてやるぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」




 歩くたびにアスファルトが溶ける温度でまだ原型を保つ鎧姿の怪人が、怒りに満ちた声を鎧の下から震わせて吠えるように吐き出す。




「そりゃ、生きたままBBQされたら怒るわな‪……‬!!」


「全員退避!!」


 各々、効かない武器を放ちながら、急いで距離を離そうとする。

 米軍の作戦が失敗した瞬間だった。



「隊長この後どうしますか!?」


「逃げるだけだ!本部の指示はまぁ聞ける範囲で命優先だ!!」


「あんた指揮官として最高だよ!愛してる!!」


「喜ぶのは早い!!

 HQより指令‪……‬は?」



 その時、全員の脳内に備えられた情報が短いチャットでアップロードされ、妙な指令を受ける。



「30秒後に援軍?

 対ブラスト姿勢??」





          ***



 ────茨城県、千葉県、そして東京湾の空港を繋ぐ『新国道354号線』。



「渋滞な上に真ん中の車線使うなってどういう事ぉ!?進まないんですけどぉ!!」


「くそー!せめてトイレに行かせろー!!」



 車の中の悲痛な叫び、止まないクラクション。


 普段も車の多い場所だが、この日は異常だった。

 長い6車線区間は東京方面の道路のみ真ん中が使用禁止され、車線が狭い区間も片側通行のみ。


 JAF、警察、その他道路関係の団体総動員で、1車線のみが開けられていた。




「いったいなんだって‪……‬ん?」


 ふと、カタカタと言う揺れが、354号線の車に観測される。



「地震か、うわぁ!??」


 突然、すさまじい衝撃波が車を襲い、ぐわんぐわんとサスペンションが左右上下に揺れて、一部の車のガラスにひび割れが入る。



「今なんか通り過ぎたか!?」






           ***





 4分前のサイクロンチェイサーのエンジンの調子は良かった。


 サード、トップ、この時点で既に200km/hまで加速している。


 まだ田舎の道が、高速で過ぎ去っていく。


『走れてないのに風が良い〜!』


「オーバートップじゃないんだけど?」


《この改修後にオーバートップを使うのは初めてだ》



 オーバートップへギアを変える。

 静かでそれでいて凄まじい加速力で、速度計が400を超えていく。


 このヒーローじみたパワードスーツ───正確にはそれへ変換されたライトングライオー自身の防護がなければ今頃空気の力を嫌な形で味わっているだろうと守莉は一瞬考える。


 ────考えても見れば自身も人間ではないのであり得ない話だと自嘲し、前を向く。



「理論上カーブが一番緩やかな直線道路だけど‪……‬!」


 そろそろ本来渋滞のゾーンだ。

 左右に誘導され、某宗教の海を割る神話のように車をかき分けてできた一本道を進む。


「でもここで、音速越えるって言うのは勇気がいるぜマジで‪……‬!!」


 クラッチのあるハンドルグリップ左。

 嫌な赤い色のカバーを親指で上げ、スイッチを入れてアクセルを全力で回す。




 ────マフラーに見る後部座席のパーツのファンが展開し、本来の機能である『ターボファンエンジン』の、つまりジェットエンジンの機能を解放させ、さらに燃料を追加して『推力増強装置オーグメンター』による火を吐き出す。



 キィィィィィィィイイイイイイイイッッ!!!



 重めのサイクロンチェイサーの速度が一気に限界を突破し、地上で音速に近づき始める。



「衝撃波は最小限か。

 いけっかなそんな細かい制御!?」



 そこで、守莉がアサルトライブへ変身した際にパワードスーツとして融合したライトニングライオーの能力が‪……‬怪人、バグズグリーズの異能が発動する。


 本来、断熱圧縮により生まれる衝撃波、強烈な熱、何より常にかかっている圧力、その全てを電気エネルギーに変え、自らを駆動させる。


 余剰なものは、衝撃波ではなく放電として排出。

 その身にバチバチと電撃を纏わせ始める。



 明らかに物理に反した現象。

 この力により最後の加速と周囲の衝撃波の緩和を行い、いよいよ陸地を抜け最後の橋にかかる。



「『チェイサーブレイク』、行くぞ!」


《超音速でぶつける気か。

 良いだろう。ライオーのトライブを読み込ませろ》



 座席とハンドルの間、本来は燃料タンクのキャップのある位置に存在する液晶部。

 そこへ、ベルトに装填されたあの変身アイテム───ライトニングライオーの『トライブ』と呼ばれる物を近づける。


 赤外線通信のような光が走る。



《TRIBE ABILITY AUTHORIZE.

 LET‘s BUSTER TIME!》



 チェイサーの低い男の声による、『今から必殺技を放ちます』という意味の確認音声が響く。

 放電現象がより強くなる。

 そして、オーバートップの上のギアを踏み入れる。



《 《EX-DRIVE.》 》



 ベルトとチェイサーの音声が重なり響く。

 同時に今まで溜め込んだエネルギーを電気へ変え、


 発生した雷を車体に、アサルトライブ自身に纏い激しくスパークさせる。




「チェイサーブレイクッ!!」



 それは、技というには極めてシンプルな物だった。


 地上で超音速まで加速し、ほぼ点の目標へ駆け抜けて────ぶつける。


 インパクトの瞬間より前にスロットルを捻る。

 するとスパークする電気エネルギーが、前面に収束する。













「本部!対ショック姿勢ってどういう事、」



 この時米兵達は、何かの光を見た瞬間に無線の返答を待たずに姿勢を低く出来た事を後に幸運だと語った。




 ズギャァァァンッ!!!



 雷鳴そのものの音が至近距離で響き、爆風のような衝撃波が背後を掠めた。


 何事かと爆心地を見れば、文字通り鎧が四散し、人型に見える素肌を晒す目標の女騎士怪人と、


 高く前輪を上げる白いバイク、それに跨る白いパワードスーツに身を包んだ『ライダー』がいた。









 キュキュ、とチェイサーのタイヤが地面を掴み、急ブレーキをかけて車体をドリフトさせながら止まる。



《───冗談だろう?》


「アンキロサウルス・マグニヴェントリス。

 白亜紀の草食恐竜で、ティラノサウルス級の顎の力でも噛み砕くのが辛いクソ硬草食恐竜‪……‬


 の、バグズグリーズっていう事前情報はあった。

 なんだったら前に近縁種のエウオプロケファルスのバグズグリーズ相手にした時を基準に攻撃選定したんだぞ?



 だからチェイサーを超音速でぶつけたんだ。

 超音速で────ぶつけたんだよな??」





 ズン、と重い一歩を踏み出す。



「〜〜、貴様ぁ!!

 我が鎧の‪……‬一層目を‪……‬!?」



 案外美人の金髪の癖っ毛に包まれた彫りの深い顔。

 守莉の相棒、ライトニングライオーと同じ、人間っぽさが強いタイプのバグズグリーズだ。


 パキパキボロボロ‪……‬崩れる鎧の下にも、似たような西洋鎧の様な物をあらわにする。



 まさかの、鎧が二層目。





「硬すぎんだろ‪……‬ノドサウルスかよ、親戚の」




 案外美人の相手───仮称、アンキロサウルス・バグズグリーズは、キッと怒り心頭の目でこちらを睨みつける。




「何者だお前はッ!?」



 恐らく、周りにいた米軍サイボーグ部隊ですら抱いた質問だろう。


「‪……‬‪……‬なんせ米軍にもほぼ秘密だったしなぁ‪……‬



 ふぅー‪……‬‪……‬では、お教えしよう!」




 古い時代の伝説のヒーローのセリフの改変をこの場で使うことになるとは、と思いつつも守莉はバイクを降りる。





「アタシは、日本国内閣官房直属、対バグズグリーズ特務機関、


 まぁ正式名称は長ったらしいから、『デバッグ』とでも呼んでくれ。


 そこの、多分アンキロサウルス型のバグズグリーズ‪……‬


 そう、アンタみたいな、10年前の物質電送実験失敗で生まれたトンデモ怪人どもを捕まえる役目を追った、アンタらと同じバグズグリーズだ。


 戸籍上の名前と、バグズグリーズ名は省略。


 呼ぶならこう呼びな、」




 そこまで行って、くるりと一回転し、少々格好をつけたポーズを取って人差し指を仮称アンキロサウルス・バグズグリーズへ向ける。





「アサルトライブ。それがアタシの名さ!」






           ***

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