[新作]アサルトライブ
来賀 玲
エピソード0:多分ここが始まり
第0話:プロローグ+怪人たち+バグった世界=多分スーパーヒロイン物
2113年、長く続いた第3次世界大戦の終わりは、
科学技術の発展の末に引き起こされた、大災害によるものだった。
日本国内で行われた新技術『物質電送技術』。
物質をデータ化し、別の場所に伝送して再構築するという西暦の世の古くより構想のあったそれは、
第6回目の公式実験の失敗によって、
地球全土がデータへ一度変換され、不完全な伝送が起こってしまった。
地球は壊れた。物理的にではなく、その存在の情報たるデータそのものが破損したのだ。
壊れ方が問題だった。
ただの『欠損』では終わらなかった。
記録上は遥か昔に絶滅したはずの生き物が蘇り、ありえない場所であり得ない気候の大地が広がり、物理法則そのものが大きく乱れている。
世界は、バグっていた。
データが破損したまま復元されたと言う表現が似合うほどに。
ヨーロッパ諸国は、モザイクのような姿となり時間が止まり事実上の消滅。
アフリカは『全てが壁や地面に埋まって』機能不全。
今や動物達と、もっと昔の動物達の楽園となっている。
日本の東北地方から上は常に冬の気候となり、関東はかろうじて前と変わらない生活はできるものの絶滅したはずの植物と太古の生物が暮らす恐竜時代の気候へ変貌した。
残りの大地もまともとは言えない。
あるはずの古代の遺跡の位置が入れ替わり、火山が突然出現し、海の生物相も変わっていた。
時代も、場所も、あらゆるものがチグハグな地球。
だが、その程度で済むはずも無かった。
より深刻なバグは、人々の知られざる場所で増殖し、
より致命的な欠陥を生み出していたのだ。
噂があった。
『怪人を見た』『恐竜じゃない怪物を見た』
『───そして、
怪物と戦う、テレビのヒーローの様な物を見た』
と。
***
「やーだー!
今日はもう寝るのー!!」
「そこをなんとかしてよぉ、ライちゃん大明神様ぁ〜!!
これで!これでなんとか!!」
茨城県、霞ヶ浦湖畔、某所秘匿施設
「じゃあ3つ!!」
「3つぅ!?
……わかった!!3つ!!全部違う味ででしょ!?」
ツナギを着た女性の目の前にいる女性らしきナニカは、頭の上に生えた機械の長い耳を立てベーと舌を出しながら駄々を捏ねていた。
「そうだよぉ
私に無理にお仕事させるならそのぐらい貰うのが当たり前なんだからぬぇ〜〜〜???」
そしておそらくはだいぶわがままな要求を通ったとなると、おそらく黙っていれば絶世の美女の顔を歪め、舌をペロペロ出しながら変顔で顔を傾げながら人差し指をグリグリと片方の女性に押し付けてきていた。
そこだけ見ればただの『わがままな女』に見えるだろう。
長くピンと伸びた、本当に頭蓋から生える機械のような耳。
ぺたんと地面に座っているその脚は、金属のブーツと一体化している……それも足の裏には蹄鉄に似た物がついていた。
「このウマ女めぇ〜……!!
なまじ否定できないからって調子に〜!!」
ウマ女。
そう言われれば確かにそう捉えられる謎の存在の頬を守莉と呼ばれた女性は怒りに任せて揉み込んでいた。
「────駄馬の調教は順調のようですね、
ふと、この空間の入り口のドアから、細く身長の高いメガネ姿にオールバックな髪型の男が声をかけた。
「あ。
「辞めなさいライトニングライオー。我慢を覚えない駄馬をいつでも拘束できる立場なのが私なのですよ?
理解ぐらいはしなさい」
「アンタが出迎えかよ
案外、人間以外でも部下思いな面があるよなアンタも?」
守莉……苗字は今呼ばれた高元という彼女の言葉に、表情ひとつ変えずただメガネの位置を直す男こと、
「当然です。重要な作戦の前に再度圧力をかけるのも管理職の役目でしょう?
私のキャリアの汚されでもしたら困ります」
「そりゃ困った話だわね。
ま、要はいつも通り捕まえればいいわけでしょ、このライちゃんの力で」
ベロベロと舌を出しながら秋葉という男に対して不快感を隠さない謎の美女を『ライちゃん』と呼び、守莉はため息混じりに言う。
「国の方も大変だわな。
こっちのライちゃんみたいな『バグズグリーズ』、この厄介なヤツらをどうにか確保しないといけないってのは」
「あなたもその厄介者の一人なのをお忘れなく。
それどころか10年前の事件の原因でもあるのですから」
一瞬、守莉の脳内に浮かぶ嫌な光景。
全てが光のデータへ変わる光景。
全てが─────大切な人も、見知らぬ誰かも何もかもを破壊してしまった…………
自分の手、自分の力。
最悪の怪物の力。
────バキッと秋葉のすぐ横にあったコンクリートの壁が蹴り破られ、その音で現実に戻る。
「やっぱムカつくお前」
いつのまにか、ライちゃんと呼ばれた女の強靭な脚が壁を貫いていた。
ブワッと遅れて風圧が秋葉を襲うが、表情一つ彼は変えない。
「辞めなよライちゃん!」
「フッ……元気で結構。駄馬は駄馬らしく走って飛んで蹴ってれば良いのですよ、ライトニングライオー。
まだ競走馬だった頃の思い出が抜けない愚かな怪人にはそれぐらいしかできないでしょう?」
「やっぱこいつ蹴ろうよ!?」
「ダメ!!アンタも煽んなよ室長!!
その気が無くても死ぬかもしれないんだぞ!?」
「その気が無くて死ぬ程度の加減もできない駄馬なら近づいてはいません。
まして隣にはあなたがいるでしょう?止められない程度の実力ではないでしょうし、10年前のなどさせない、しないと普段から言っているのが誰かお忘れで?」
「……褒めてんのそれ?」
「なんとでも思いなさい。私は誰であろうと平等に差別しますので。
……それより、あの貧乏性の金を出さない財務省に相当無理をしてまで予算を確保して作った『超高級DXオモチャ』、使えるんでしょうね?」
秋葉が視線を送った先に守莉達も目を向ける。
ライトに照らされて現れる白い塗装。
大型のスーパースポーツタイプのオンロードバイク。
まるで……ヒーローが乗りそうなカッコ良さと機能美が備わった物。
《───起動確認。
自己識別診断開始》
そのバイクが突然、誰も触れずに前輪を動かしてバランスを勝手に取りピンと姿勢を正した。
《俺の名前は、『サイクロンチェイサー』。
試験型データ兵装搭載型AI付き大型2輪車。
だが……どうやら試験ではないようだが?》
バイクから聞こえてきたのは、低めの良い男性の声だった。
「ああ、チェイサー。
実戦だよ」
今ではどのバイクもそうだが、ホイールタイヤ内蔵のリニアモーターが駆動して180度旋回し、ライト近くのカメラを守莉達に向けるバイク───サイクロンチェイサー。
《速いな。まだ不具合も見つかっていない俺には実践が早い。
そう言うのが、お前達の常識ではないのか?》
「現実舐めんな。
何事にも、良い悪い抜きで『特例』がある」
《特例……か。
俺はその言葉を嫌いになるかもしれないな》
再び180度旋回し、バック走行で守莉の隣へ来る。
「それでも乗せてくれるのかい?」
《俺に選択肢はない。
あるのは使命だけだ。
バイクとして生まれた俺の使命は、バイクとしてお前と走り、お前と共に戦う事。
そうじゃないのか?》
「そうさ。でもそう言ってくれるのは嬉しいね」
ふと、守莉は自らの懐からあるものを取り出す。
それは────マニアは「ベルト」と言うだろう。
あるいは『バックル』、『ドライバー』と。
「いつ見ても、子供のおもちゃにしか見えませんね?」
「これのプラットフォームが生まれたのって、2000年代でも最初の方らしいぜ?
つまり、この形が100年以上経った今でも使い方が分かりやすいってこと!
さも当然のように腰の前に装着。
自動的に伸びたベルトが伸び、守莉の腰を一回りしてその胴回りにフィットし装着される。
そして、即座にライちゃん───ライトニングライオーが、左の二の腕にあった丸い何か───いわゆる『変身アイテムの入れる方』を守莉へ投げた。
流れるようにキャッチし、円形の外周のスイッチを慣れた手つきで押す。
《LIGHTNING!》
やはり、音声が流れた。
同時にそれの正面、液晶のような面に電とウマをモチーフにした黄色のエンブレムのようなものが浮かぶ。
「……仮にも兵器にこの煩い音声はいるのですか?」
「意外と、咄嗟に何持ってるか分かんないんだよね」
当然のように腰のベルト、正面の窪みにそれを入れる。
《GET SET. READY?》
軽快な繰り返しのリズム。
それは『待機音』。
「んじゃ、いつものやろっかー」
「おっし。タイミング合わせてね」
いつのまにか守莉の左にやってきたライトニングライオー。
お互い一呼吸し、お互い対称になるよう片腕を腰で組み、もう片腕を外側へ指までピンと伸ばす。
そのまま弧を描くよう腕を動かし、二人の腕が交差した瞬間、
「「アサルトアップ!!」」
そう叫び、くるりと交差したお互いの拳を回して握り、素早く腕を下ろす。
そして、守莉のみこの瞬間ベルトに装填したアイテムを一瞬横へ押し込んでいた。
《INSTALLIVE.》
ベルトの中央の丸い液晶、ウマと雷を模した絵が黄色く光り輝く。
瞬間、守莉の様子が変わる。
睨むような目の白目が黒く変わり、血のような赤い瞳が現れる。
涙に似た頬に現れた赤い線。
一瞬、元の人間だった姿の面影はあるような怪物に似た雰囲気を見せる。
《THOROUGHBRED
+
PIEZOELECTRIC MUSCLE
+
LIGHTNING》
それで終わりではない。
ベルトから溢れ出す、と言うような様子で機械が、機械基盤が異形の顔を見せる守莉の身体を蛇のようにうねりながらまとわりつき、機械と人工繊維のパワードスーツを形成していく。
その横でライトニングライオーの身体から、と言うより守莉へまとわりつくスーツからレーザーのような細い光が照射され、
当たった場所から消えていく。
いや違う。
レーザーの出ているパワードスーツが、灰色と銀色の無機質な色から白馬のような白と電の黄色へ着色されていく。
異形の目と紋様の顔を、拘束するようヘッドギアが装着され、バイザーが黄色く輝き、全身から稲妻のような放電が一瞬放たれる。
《STARTING!ASSAULT-RIBE.
RUNTIME = LIGHTNING-TRIBE》
響くファンファーレ。競馬の曲に似た音楽。
まさにそこには、子供の頃テレビにいた存在が立っていた。
「……不思議とこのポーズ決めると、
『やっぱり、瞬間心重ねてってヤツかも!』
自らの腕、そして視界の情報を見て言う守莉の言葉に、パワードスーツに『変換された』ライトニングライオーが答える。
「相変わらず派手ですね、
「嫌味じゃなくて、わざわざヒーロー名っぽく言うとは思わなかったよ室長?」
「ヒロイン、です。
アナタが何を思おうと、今はアナタがこの国を救うスーパーヒロイン。
さ、我が同盟国の米軍がピンチです。
日本のスーパーヒロインとやらの力を見せつけてきなさい」
はいはい、と軽やかにサイクロンチェイサーへとまたがる守莉。
「けど、
やってることだけ見れば救助にかこつけた火事場泥棒じゃないか」
「ヤツを初観測したのは我が国です。
米国は安保を理由に情報だけ貰って先にうまく捕獲したようですが、相手はゾウほど可愛い生き物ではない」
「アタシと同じ、そしてアタシのせいで生まれた怪人達────バグズグリーズ」
バッテリーによる電気モーター駆動から切り替えて水素エンジンを起動。
やはり、何かを燃やしてタービンを回す方式は良いと守莉は振動を感じながら思う。
「情でも湧きますか?」
「私を舐めんな。
情が湧いても、やることはやる」
外へのシャッターが上がり、クラッチを握ってニュートラルからローへギアを足で入れる。
オートマ限定が当たり前のこのご時世で、この最新科学の推を集めたサイクロンチェイサーがマニュアルなのは守莉の趣味だった。
「頼もしい限りですが、味方の到着を待つ手もありますよ?
ティルトローター機です。残り20分程度ですが」
「遅い。
チェイサーなら新グローバル空港までいくらで行ける?」
《曖昧な質問だ。それは最高速度での話か?》
「当たり前でしょ」
「笑えない冗談です」
《4分だ》
「な!?! 正気ですか!?
行き先全ての国道を封鎖するだけでなく、家屋倒壊の補填もしろと!?」
「窓ガラス程度さ、割れてもね」
『ねー、コイツ私の能力忘れてないー?
やっぱ蹴り入れてから行こうよ!!」
「クッ!
窓ガラス程度で抑えなければ許しませんからね!?
さっさと行きなさい!!アナタも書くことになる書類が山ほどあるんだっ!!!」
「……任せな」
守莉のサムズアップに、舌打ち混じりにしっしと手を振る秋葉。
クラッチを徐々に放し、動力が伝わるホイールがチェイサーのボディを進めていく。
ブロロロロロロロッッ!
時刻は日没後。ライトを点灯。
敷地の出口までの緩やかなカーブを降り、地元の警察の誘導灯と封鎖された車線へ出る。
「…………一度、
公道へ出ていくバイクのライトを見ながら、秋葉はそっと守莉へ聞こえずとも……あるいは聞こえているかもしれないが、つぶやく。
「国一つ、私のキャリアもまとめて救ってみろ全ての元凶……!!
ラビットバグズグリーズ、高本守莉……!」
***
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