8歩目 飯を食いたきゃまず動け、面倒事はその後だ
狩猟記録一匹目・
デコボコした道でそこそこ多かったのに脚に風を纏ったと思ったら跳んで逃げられた、平坦な道に隠れて孤立した奴を襲ってみたけど仕留め切れなくて逆に追いかけ回された時はよく逃げ切れたと思う。
逃げる時にアサルトステップを試してみたけどジャンプがやりやすくなったくらい、まだ研究が必要そう。
二匹目・
図体が小さくて逆にやりづらい、獅子熊みたいに力一杯薙ぎ倒せるわけじゃないから木の間に飛び込まれた時の厄介さがよく分かった、次からは狭いところに入り込まれないよう短期決戦で行こうと思う。
一応がむしゃらにやって追い詰めれたのはいいけど上から飛んできた鷹もどきに横取りされて水の泡になった、次見かけたら撃ち落としてバラバラにシてやる。
三匹目・猪の死体
見るからに食べかけなのとそこそこ時間が経ってたのが相まってすっごい不味かった、臭かったのに試しで一口食べるもんじゃない。
気がかりなのは周りの木はデカい刃物で切断されたような感じで見たことのない足跡があったこと。気配はなかったけどこの辺りにはやばいのがいる。
四匹目・狸に似た動物
爆睡してるところに遭遇、死んでるのかと思ったら起きてきて二度見された。
腰かなんかが抜けたみたいでじたばたしてたからちょっと罪悪感がすごくて見逃すしかなかった。
そういえばモンスターじゃない普通の動物だったけどこんな場所でよく寝れたな。
五匹目・サイズの小さい獅子熊、改めソルウルス
初めて遭遇したのよりぱっと見若い、戦い方は分かってたから同じように目を攻撃してから喉元にテルジラを撃ち込んでみたけど溜めてないのに心なしか威力が上がってて絵面が酷いことになった。
やっぱ血生臭いけど味がするだけまだいい、流石にないけど塩とかもあるならいつか焼き肉を試してみたい。
振り返ってみるといざ追いかける側に回ったら考えることが結構多い。
ソルウルスは好戦的だから返り討ちにできればいいけど流石に肉食動物が減るのはまずい、草食動物が増えすぎて生態系に影響が出るとか前に読んだし。
相手の動きを見るってのは同じだけど動き自体は別物だ、練習するしかないんだろうけど熊一匹じゃまたすぐに腹が減る、腹が減ったら満足に動けないからどっちにしろまともに狩りができるまで何か考えとかないと。
あの鷹もどきみたいに横取りするのはリスクが高い、小さい獲物ならなんとかなるけどシュトゥルヒリシュみたいな大きいのだと運ぶのに支障が出るかその前に弾き出されるのがおちだ。
狼は本来群れで狩りをする動物だし、他のモンスターの狩りに上手いこと便乗できればいいんだけどそんな都合のいい話は流石にない、むしろそんなことしたら獲物そっちのけで俺に襲い掛かるのがほとんどと思った方がいい。
となるとさっきみたいな食べ残しが一番楽だけど……いや、これは最終手段にしよう。
まだ鼻に残ってる腐った肉の臭いを思い出し、頭を振って忘れようとした時だった。
(うん?)
突然頭に何かが当たり、反射的に上を見る。
そこにいたのは枝の上で硬直している一匹のリス、半開きになった口から木の実が覗いていることと頬が膨らんでることから餌を運んでる途中だったんだろう。
じゃあ今当たったのはうっかり落とした木の実…………そうかこれだ、これならリスクが少なくて済む。
「ルォア!」
助走をつけ、イチゴに似た淡い青色の実がぶら下がる木にスマッシュクロウの要領で掌……もとい肉球を叩きつける。加減はしてたけど予想よりも威力が出たみたいで、幹に肉球の跡ができる。そのくせ本命の木の実自体は揺れるだけで特に落ちる様子はない、何回か繰り返したら落ちそうだけど木が倒れる方が絶対早いな。
何事かとウロから
足元の石と何ら変わらないサイズになっていたそれは寸分狂わず木の実と枝を分断、重力に従って落ちていく青い木の実はさっき仕留めたソルウルスの皮を折り畳んだ上でその辺の葉っぱを敷いた即席のクッションに傷一つなく転がった。
ぶっつけ本番だったけど思ったよりも上手くいったな、あとはこれを繰り返せば小腹くらいは埋められそうだ。
(問題はこれが食べれる物ならいいんだけど……)
昔試しに食べた近所の公園にあったブルーベリーそっくりのよく分からない木の実を思い出しながらいつも通り目に魔力を集中させ、落ちてきた木の実に解析を発動する。
【クラスC:アズルスタ】
【魔素濃度の高い地で育つ果実。実は甘く、料理の素材や微量ながら魔力の回復手段として扱われる】
流れ込んできた文字を反芻する、思っていた以上の大当たりだ。
こンな掘り出し物ちまちま削るんじゃもったいない、どうせならここら一帯の同じ木全てを根こそぎ引っコ抜………………? 俺今何を
「っづぁ!?」
不意に頭に電流のような痛みが走る。解析の時に聞こえたノイズと声が微妙に残ってるのか妙に頭がグラつく、本当になんだったんだ今の。
……まぁ、一先ず食べれる木の実ってのは分かったし、ある程度集まったら零さないように運んでおこう。
即席クッションの位置を調整し、再度テルジラを溜め始めた時だった。
「シギャララララララララッ!!!」
突然森の奥、それほど離れてないところから響いてきた鳴き声に思わず溜めを解除する。
間髪入れず爆発音に木が倒れる音、それと──
「お、おじ様!? まだ追ってきてますよあのモンスター!?」
「随分気が立ってやがったからな! こりゃ簡単に見逃しちゃくれなさそうだ!」
「ってかなんでこんなとこに湧いてるんっすかあの蛇ぃ!!!」
「喋ってる場合じゃないでしょペーさん!」
紛れもない人間、複数の人間の声がした。
最悪なことに音は結構な速さで俺の方に近づいてくる、距離から考えると遭遇は多分避けれそうにないか。
今日ほど耳が良くてよかったと思える日はない、できることなら一生聞きたくなかったけど。
採ったばかりのアズルスタを尻尾で弾いて口に放り込む、口の中に解析の通りの甘酸っぱさが広がった後、体中にじんわりと魔力が行き渡っていく感覚がした。
いつでも動けるように身構えたのとほぼ同時に、木々の合間から件の人間が飛び出してくる。
……なんだこのデカい猫。
獣体人魂放狼記 走る花火 @TEKE_LI_
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