第54話



 二人が急いで召喚魔法陣がある部屋へと移動すると、遅れてよろよろとクラスメートたちが現れた。

 合計三十名のクラスメートたちは、皆昼の訓練や迷宮攻略を失敗した人たちなわけで、全員の顔に疲労がにじみ出ていた。


 顔にたんこぶのようなものができた人たちもいて、皆が平等に厳しい訓練を課せられたことはありありとみることができた。


「皆さん、召喚魔法陣の前へ来てください」


 王女様は微笑みながら命じた。その笑顔には、有無を言わさぬ威圧感があり、王女様の言葉に従うしかない。


 半ば強制的に召喚魔法陣の前へと連れて行かれた。巨大な魔法陣は、赤く妖しい光を放ちながら俺たちを包み込む。

 その光景は、まるで地獄の入り口のようだった。


「それでは、始めましょうか」

「な、なにを始めるのですか!?」


 クラスメート、序列一位の橋本が声を張り上げる。

 現在、クラスメートたちにはランクがつけられていた。

 今朝の迷宮へ挑戦したのは、序列一位から六位の六名だ。

 橋本は、現在一番王女様と親しくしていたのだが、王女様の視線は冷たい。


「勇者様方の強化ですよ」


 笑顔ではあるが、言葉には棘がある。

 同時だった。橋本の体に、魔法陣から生み出された光が集まっていく。


「ぐ!? ああああ!?」


 橋本は即座に悲鳴をあげ、その場でのたうちまわる。

 王女様は、どこか楽し気にその様子を見ていて、全員が顔を引きつらせる。

 やがて、光が収まったとき、橋本は息も絶え絶えな様子でその場で白目を向き、意識を失った。


「あら……意識を失ってしまっては、強化ができたのか分かりませんね」

「な、なんなんですかこれは!?」

「……もう、理解力が足りない人は困りますね。召喚魔法には、召喚したものを強化する力があるんですよ。それを使って、あなたたちの力の底上げを行うことにしました。ただ、先ほどみたいにかなりの激痛があるようでして……まっ、我慢すれば強くなれるんです。楽でいいですよね? ほら、次はどなたが行きますか?」


 王女様は涼しい顔で言う。その声は冷徹で、まるで気にしていない様子だった。


「も、もういや!」


 そう叫んだ三木が悲鳴をあげて逃げ出そうと走り出す。それに続くように数名の女子が涙を浮かべて走り出すと、入り口には騎士たちが立ちふさがった。

 どん、と彼らが三木たちを突き飛ばし、その手に持った首輪をはめていく。


「な、なによこれ!?」

「それは強制的に奴隷化させるための魔道具ですよ。魔族たちの間で使われているものなのですが……まあ、魔族を倒すために魔族の力を借りるというのも面白いでしょう」


 くすくすと彼女が笑い、騎士たちが次々に首輪をつけていく。


「これから強化を施したとしても、ここまで強制的に働かせれば、あなたたちが反逆する可能性もありますからね。強くなる前に、奴隷にしておこう、という計画ですよ」


 にこり、と王女様はあっけらかんという。その倫理観のない彼女の発言に、全員がすぐに騎士たちに抵抗しようとする。

 しかし、騎士たちが命じると、先ほど首輪をつけられた人たちが立ち上がり、武器を構える。


「抵抗してもいいですが、彼女たちを殺せますか?」

「……っ」


 あまりにも卑怯な王女様の言葉に、全員が絶望する。

 がたがたと震えたまま武器を構える、クラスメートの女子たち。その首元の奴隷の首輪が妖しく光、抵抗できないことを物語っている。

 涙を流し、必死に首を振る女子たちを、攻撃することはできなかった。


「多少能力は下がってしまいますが、これなら迷宮内で怯えようとも無理やり戦わせられます。あなたたちが、ビビって本領を発揮できないようですからまあトントンくらいにはなるんじゃないですか?」


 王女様の笑顔は、まるで悪夢のように心へ焼き付いた。

 全員が、ただ奴隷となることを無力に受け入れるしかなかった。



  オークたちとの戦闘から数日が経過した。

 騎士団によるゴブリンの巣の殲滅作戦も終了し、すでに残党のほとんども狩られていた。

 しばらくは村の警備のために冒険者たちで交代していたが、それももう不要そうだ。 


「それじゃ、準備はいいか?」

「こっちは大丈夫よ。アンナとナーフィは?」


 リアが二人に問いかけると、アンナたちも「はい」、「ん」と頷いた。

 大丈夫そうだな。

 少し古びた宿屋の扉を開ける。僅かに軋むような音をあげた扉をくぐり、俺たちは村を歩いていく。


 晴天だ。天気の良い空に、心地の良い風が吹き抜ける。

 この村に来たときには感じられなかった長閑な空気が生まれていた。


「あっ、シドーさん! おはようございます!」

「おはよう」

「もしかして、迷宮に行くんですか!?」

「ああ、そうだ」

「気を付けてくださいね」


 笑顔とともに、村娘に声をかけられる。とても嬉しそうな彼女の笑顔に、俺も自然と口元が緩んでくる。

 村で魔物たちを仕留めたことで、特に俺たちに対しての評価はうなぎのぼりだった。


 ……まあ、俺が戦ったというよりはリアたちのおかげの部分もかなりあると思うのだが、それ含めて俺が評価されていた。


 まだ村に残っていた冒険者たちにも同じように尊敬のまなざしとともに挨拶をされる。

 これはこれで、悪くはないかもしれない。


 誰かのために戦って、それで感謝される。当たり前のことだが、その当たり前があるだけでどれだけ嬉しいことか。

 俺にばかり言われるのだから、リアたちには俺がちゃんと伝えないとな。


「リアたちのおかげで、皆から感謝されるな」

「あたしたちって何もしてないわよ」


 とはいうが、リアの表情はどこか嬉しそうだ。

 ……立場的には仕事のパートナーのようなものだ。彼女らに不満が溜まらないようにしてやらないとな。


「俺よりも巧みに武器を使って戦ってるだろ? それだけで十分だ。ありがとな、皆」


 そういうと、ナーフィが頭を擦りつけてくるので、軽く撫でる。まるで犬のようにすりすりとしてきて、リアとアンナがじとーっと見てくる。


「ナーフィ、ちょっと距離近すぎるわよ」

「ん」


 リアがそう言ってナーフィを引きはがすと、ナーフィは少し嫌がるように声をあげたが、一応リアに従った。

 ……確かにナーフィはスキンシップが素直すぎるからな。


 だというのに、体は豊かなわけで俺としては色々と刺激が激しい……。

 アンナがじーっとこちらを見てきている。もしかしたら、俺の下心がバレてしまったのかもしれない。

 いかんいかん。意識しすぎないようにしないとな。

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俺の召喚魔法がおかしい 〜雑魚すぎると追放された召喚魔法使いの俺は、現代兵器を召喚して無双する〜 木嶋隆太 @nakajinn

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