第53話
「……でも、これを伝えて王女様に呼び戻させるっていうのもなぁ」
「……あの王女様自体が何考えてるか分からないしな。下手に情報を伝えて、豊島の迷惑になっても嫌だしなぁ」
「でも、一人だと不安かもしれないし……どうしたらいいんだろうな」
田中と佐藤はため息を吐くしかなかった。
そうして訓練場へとついた二人は、同じく集まっていたクラスメートたちとともに列へと並ぶ。
やがて、騎士団長がやってきた。彼はいつも厳しい表情をしていたのだが、今朝はいつも以上に厳しい顔つきだった。
全員が集合したときだった。騎士団長がいつも以上に表情を険しくし、声を張り上げた。
「この無能勇者どもが!」
罵声が空気を割くように響き渡る。
「……貴様ら勇者たちにどれだけの税金が投入されているのか、理解しているのか!?」
「……」
そう言われても、勝手に召喚しておいて、という言葉しか浮かばない一同。
だが、騎士団長は罵声を続ける。
「毎日、どれだけの騎士が動き、お前たちに経験値を与えていると思っている!? これだけの騎士を稼働させ続ければ、国の財政は圧迫する。なのに、貴様ら勇者たちは優れているからという理由だけで経験値を与えられているのだぞ!? 国の代表として、もっと自覚を持て!」
イライラ。明らかにクラスメートたちに不満の空気が流れ始める。それを察したからだろう、騎士団長が近くにいたクラスメートを殴り飛ばした。
「きゃああ!?」
「いきなり何すんだよ!?」
「黙れ。これからはさらに結果を求めるよう、アイナ様からのご通達が出た。結果が出なかったものは今のように殴られると思え」
「……」
騎士団長の理不尽な言葉に、彼らは頬が引きつった。
ゆっくりと吹いていた風が、一段と強く吹き荒れる。それと同時に、騎士団長が叫んだ。
「それでは、これより訓練を始める!」
騎士団長の言葉によって、訓練が開始される。その日は、騎士たちのいらだちをぶつけるかのような、酷い訓練だった。
訓練を終えた田中と佐藤は、疲れ切った体を引きずるようにして部屋に戻った。迷宮攻略失敗の腹いせに、いつも以上に激しい訓練を強いられ、ボコボコにされた体はあちこちが痛んでいた。
回復用のアイテムなども渡されることがなく、田中と佐藤の全身は鉛のように重かった。
「……マジでやばいな、この国」
田中が、ベッドに倒れ込みながら呟く。彼の顔には痛みと疲労の色が濃く浮かんでいる。
ベッドで横になった田中と佐藤は、それから豊島バーガーを頂いた。
それが全身に染み渡ると、傷がみるみるうちに回復し、ようやく一息を吐くことができた。
佐藤もベッドに横たわりながら、深いため息をついている
「こんな状態で本当に戦えるのかよ……」
「明らか、魔族と戦争するための資金が足りないよな」
「……そのくせ、国の兵士たちはオレたちを痛めつけて楽しむような奴らだしな。ほんと、やばすぎるわ」
お互いに、愚痴をこぼしあい、ため息を吐く。
部屋の窓から差し込む夕陽が、薄暗い部屋をオレンジ色に染めている。
どこか物悲しげなその光景が、まさに今の田中たちの心の絶望感を映し出すようだった。
そんな時、突然部屋の扉が開かれた。
そこに立っていたのは、冷たい美しさを纏った王女様だった。彼女の一挙手一投足には、絶対的な威圧感が漂っていた
王女様の登場に、二人は焦りを覚えていた。彼女は笑顔を浮かべていたが、その笑顔の冷たさには、すでに気づいている。
「お二人とも、召喚魔法陣の前に集合してください。遅れた場合、夜にも訓練を行いますので」
にこり、と王女様がそう言い残し、騎士たちを連れて去っていった。
静かになった部屋にて、田中と佐藤は顔を見合わせ、
「……マジかよ」
愕然と、呟くしかなかった。
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新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。
世界最弱のSランク探索者として非難されていた俺、実は世界最強の探索者
https://kakuyomu.jp/works/16818093086515271194
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