第48話
ジェニスが二つの魔石を取り出し、そのうちの一つをこちらに差し出してきた。
「この魔石を持っていってくれ」
「……これは?」
「遠くとやりとりをするときに使う魔道具だ。連結させている魔石同士だと通話が可能でな。魔力を込めてみてくれ」
言われた通り、魔石に魔力を入れてみると、
『声が聞こえるか?』
「おお、聞こえるな」
『そういうわけだ。何かあれば、連絡をくれ』
「分かった」
ようはトランシーバーみたいなものだろう。
なくさないようにしたいが、収納魔法にしまっていたら声も届かないだろう。
いつ連絡がくるかも分からないので、ポケットに魔石をしまっておいた。
俺たちは、ジェニスから地図を受け取り、すぐに村を出発した。
……ゴブリンリーダーが発見されている場所は全部で五ヶ所。全部で七体いるそうだが、残り二ヶ所はまだ見つかっていないようだ。
とりあえず、今回の目標はこの五ヶ所のゴブリンリーダーを仕留めるのが目的だ。
そして、気をつけることとして、ゴブリンたちの進化が早いこともある。
『もしかしたら、こうしている間にもリーダーは増えているかもしれない。気をつけてくれ』
とジェニスからだ。
確かにそうだよな……。
そんなこんなで受け取った地図を見ながら、南の森へと進んでいく。
この村からさらに南には森が広がっており、そこを超えた先には別の国の国境があるらしい。
……ただまあ、この森は広大らしいので、森を通るのは現実的ではないそうだ。
ちゃんと、道が開拓されているのでそちらを通っていく方がいいだろうとのことだ。
俺たちは第一の目撃地点へと向かう。場所は川の近く。俺は用意していた双眼鏡で覗いてみると、確かにゴブリンたちがいた。
……一丁前に家のようなものもあるな。木と木を合わせ、大きい葉を合わせた簡素な家だが……家は家だ。
家は一つしかなく、そこにゴブリンリーダーが座って休んでいるようだ。
側には、メスのゴブリンなのかね? ゴブリンリーダーが二体のゴブリンを添い寝させ、休んでいる。
部下のゴブリンはかなり多くいて、今もどこかで狩ってきた魔物が運び込まれ、火を使って魔物の肉を焼いている。
……本当、かなりレベルが高いな。
ゴブリンの数は……ざっと五十体くらいか? 確かに、あれを全部仕留めるのは無理だな。
ただまあ、固まっているし、手榴弾を何個か投げれば大半は仕留められそうではあるんだが。
まあ、今回はゴブリンリーダーを仕留めれば良いだろう。
「アンナ、狙撃を頼めるか……?」
「……は、はい」
アンナは少し緊張しているように見える。
リアが心配した様子で声をかけようとしていたが、俺はすっとチョコレートを取り出した。
匂いにつられたのか、ナーフィが顔を寄せてくる。こら、今はアンナの分だ。
「アンナ。そんな緊張するな。さっきと同じようにやればいいんだ」
「……そ、そうですね」
チョコを彼女にあげると、幸せそうに口元を緩める。
「これで、さっきよりもバフ効果のおかげもあって集中できるんじゃないか? それで、さっきよりも近いゴブリンリーダーなら、余裕だろ?」
「……そう、ですね」
俺の言葉に、アンナは納得した様子でスナイパーライフルを構える。
場所が少し悪いので、立ちあがったままゴブリンリーダーを見ている。
……立ったままなので、さっきよりも難しいとは思うのだが、アンナの集中力は凄まじい。
俺も、双眼鏡でゴブリンリーダーの様子を確認する。
おうおう、気持ちよさそうに眠っているな。メスのゴブリンの胸を寝ながらもむなんて、かなりのモテゴブリンリーダーじゃないか。
そのまま、何も知らないままあの世にいくんだな。
俺が視線をアンナへ向けると、ちょうど引き金を引いた。
銃声が響いた次の瞬間、ゴブリンたちの集落から悲鳴が上がる。
双眼鏡を覗くと、気持ちよさそうに眠っていたゴブリンリーダーの頭がトマトを踏み潰したように汚くなっていた。
……完璧だな。
「見事だな、アンナ」
ほっと息を吐いていたアンナはそれから嬉しそうに笑った。
「……ありがとうございます」
「……ご褒美のチョコ、食べるか?」
「食べます」
嬉しそうに耳をぴくぴく動かした彼女にチョコをあげた。
……さすがに上げすぎたからか、ナーフィが不服そうに頬を膨らませたので仕方なくナーフィにもあげる。
リアをちらと見る。「別にあたしはそんな子どもみたいに要求してないけど?」という感じで見てきたが、めっちゃ食べたそうにしている。
とりあえず、リアにもあげると、彼女も嬉しそうに口へと運んだ。
ゴブリンたちの方からは悲鳴があがる。
まあ、ゴブリンたちはどこからどう攻撃されたのかも分からないまま、リーダーが死んだのだからびびっているだろうな。
双眼鏡で見てみると、恐怖したゴブリンたちが悲鳴のようなものをあげて逃げ惑っている。
それがさらに周りのゴブリンにも伝染している。必死に宥めようとしている奴もいて……ああいうのはちょっと厄介になりそうだな。
「アンナ、ついでに何体か射抜いてみてくれ。まだみんなを宥めてる比較的優秀そうな奴らをだ」
「分かりました」
彼女はそれからスナイパーライフルを構え、さらに数体を仕留める。
……動いているゴブリンにも正確に当てられてるな。
まだ気づかれていないようだが、あまり長居をしているとバレる可能性もある。
ゴブリンたちに謎の恐怖を与えることはできたようなので、俺たちは次の狙撃ポイントへと移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます