第49話


 そうして、同じように二ヶ所の狙撃ポイントの敵を撃ち抜いたところで三ヶ所目にきたのだが……ここは、洞穴が根城にされているようだ。

 人間のように入り口に見張りを立てていて、ゴブリンが出入りを繰り返している。

 ……これは、ちょっと厄介だな。奥の方にゴブリンリーダーがいるのかどうかも分からない。


 もういっそのこと、もう少し近づいて手榴弾でも放り込むか?

 そんなことを考えていると、スコープを覗いていたアンナがぽつりと呟いた。


「中にいると思います。何か、嫌な魔力が感じられますので」

「そうか。……狙撃できそうか?」

「……さすがに、感覚だけでは難しいです」

「それなら、雑魚を殺して様子をみてみるか。まずはあの見張り二体を狙撃してみてくれ」

「分かりました」


 チョコレートを一つあげると、アンナはそれを美味しそうに舐め溶かしてから、スナイパーライフルを構える。

 そして、慣れた様子で見張りの二体を射抜いた。すぐにゴブリンたちはパニックになったようで、悲鳴が上がる。

 それを聞いてか、洞穴の奥から体の大きなゴブリンが姿を見せた。


「……おっ、リーダーっぽいな」

「狙います」


 もう、すっかり職人だ。

 双眼鏡で様子を見ていると、すぐにアンナが構え直す。

 撃ち抜かれた二体の死体を見て、ゴブリンリーダーは顔を顰めている。

 そして、すぐにアンナがゴブリンリーダーへと弾丸を放った。


 狙いは……完璧だ。一撃で仕留め、さらに悲鳴が上がる。

 よし、ここも問題ないな。そう思っていた時だった。

 ジェニスから受け取っていた魔石から声が聞こえた。


『聞こえるか、シドー!?』

「ああ、聞こえる。何かあったのか?」


 ジェニスの声はどこか慌てたようなものだ。だが、それ以上に彼の後ろの方から騒がしい声が聞こえてきていた。


『村に向かってゴブリンたちの群れが迫ってきているんだ! そっちの状況はどうだ!?』

「こっちは……今、三体のゴブリンリーダーを射抜いたところだ」

『……そうかッ! 厄介なことに、ゴブリンたちを率いているのが、ゴブリンリーダーだけじゃなくて……オークもいるんだ! すぐにこちらに戻れるか!?』

「ああ、分かった」


 魔石での通話を終えると、ナーフィが眉間を寄せていた。


「んっ」


 彼女は慌てた様子で腕を引っ張ってくる。いつもとは少し違う様子の彼女は慌てているように感じる。

 確かに、さっきの話を聞いていたらそういう反応にもなるな。


「……急いで村に戻るぞ!」

「そうね……っ」


 持っていた装備をすべて収納魔法へとしまってから、俺たちは全力で村を目指して走り出した。



 まだ村から離れているにも関わらず、その音は響いていた。

 ゴブリンたちと人間たちの交戦する声だ。距離はまだあるのだが、ゴブリンと人間で戦っている。

 人間たちは村の外壁を使い、侵入を防ぐように戦っていて、かなり有利そうには見えるが……ゴブリンたちは数の暴力で攻め込んでいる。

 ……ゴブリンリーダーらしき個体はもちろん、それを従えていると思われるひときわ大きな魔物の姿もあった。

 脳裏に、先ほどジェニスが話していた言葉がよぎる。

 あれが、オークか。


「結界魔法は使っていないのか?」

「結界魔法は発動してると思うわよ。でも、あくまであれって魔物を弱体化させるだけなのよ……!」


 ゴブリンたちには魔法を使える個体もいるようで、少しずつ防壁が破壊されていく。

 ……このままでは、いずれ村へと侵入されるだろう。

 ジェニスを中心に村の入り口で戦っているのだが、それもどんどんと押し込まれている。


 状況は、あまりよくない。ゴブリンたちはノリノリで、人間側は少し押されている状況だ。

 それらの指揮を行っているのは、オークであり、やつは後方からニタニタと微笑んでいる。


「……アンナ、オークを狙撃してくれ」

「……分かりました」


 ……現時点でやるべきことは、リーダーの排除。

 先ほど、メルトロウたちが話していたように、このゴブリンたちは賢く、群れで動いている。

 俺たちが気づかれていない今、先にリーダーを潰す方がいいだろう。

 それに、俺たちの狙撃について、ジェニスたちは知っている。


 オークを狙撃できれば、ジェニスたちも俺たちが戻ってきたことに気づき、士気が上がるかもしれない。


 だからこそ、俺は即座にアンナに指示を出しながら、アサルトライフルを構える。

 リアとナーフィもアサルトライフルを構えている。

 アンナが先ほどゴブリンリーダーを射抜いた時と同じように構える。

 そして……弾丸放った。その瞬間だったが。

 オークがばっとこちらに視線を向けた。


 完全に、こちらと目が合った。

 ――気づかれた。

 オークは、事前に話でも聞いていたのか、すかさず体を屈めた。

 頭を狙っていた弾丸は、そのまま宙へと向かっていく。


「があああ!」


 オークが咆哮をあげ、持っていたハンマーのようなものをこちらに向けてきた。

 同時に、後方にいたゴブリンたちが一斉にこちらへと振り返り、駆けてくる。


「ナーフィとリアはゴブリンたちをどんどん撃ってくれ。俺は二人がリロードしている間に援護する。アンナは……もう一度オークを狙ってくれ」

「……ご、ごめんなさい……ご主人様、私のせいで……!」


 アンナはさっきまでの自信がなくなってしまったようで、申し訳なさそうに頭を下げている。

 ……この彼女を作り出したのは、おそらく彼女の過去と関係しているのだろう。それは別になんでもいい。

 今の彼女が、明るく振る舞えるようにするだけだ。

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