第43話


 ジェニスは俺たちの食べ方を見ながら、見よう見まねでビッグマッグにかぶりついた。

 そして、目を見開き、満面の笑顔を浮かべる。


「う、うまい……!? なんだこれは……! 柔らかいパンに肉もとろけるようだ……!」

「それは良かった」

「え? ……それそんなに美味しいのか?」

「……美味しそう」


 ……俺たちの様子を見て、他の冒険者たちも集まってきた。

 おいおい、皆期待するように見てきてるな。ここでジェニスにだけあげて、他の人にあげないというのは色々不満が出るだろう。

 こちらをじっと見てきた彼らへ、皿を用意してハンバーガーを渡していく。


「ほら、食っていいぞ」


 そういうと彼らは顔を見合わせてから、興奮した様子で食べ始めた。


「え!? 何これ!?」

「うお!? めちゃくちゃうまい!?」

「え、これチーズ入ってるの!?」

「うえ!? 食べちゃっていいの!?」

「ああ、大丈夫だ」


 冒険者たちはバクバクと食べていくが、それでも人間の冒険者はそこまで食事量は多くない。

 今回は、リアたち以外他種族はいないので、別に大した量にはならないが……まあそれでも一人三つくらいハンバーガーを食べていったよ……。


「……いやぁ、うまかったよ。ありがとう」

「こんなうまいもん食べたら……もう普通の食事に戻るのがきついな……」


 ジェニスや他の冒険者たちがそんな話をしている。

 ……まあ、それは俺も同意だ。この世界の食事は王城で何度か食べていたが、王城での食事のレベルでなんとか及第点という感じだったからな。

 この世界の安い食事なんて、申し訳ないが全く俺には満足できないだろう。


「ジェニスが一番食ってたな」


 体が大きいからなのか、その見た目通り食欲もあるようでハンバーガーを五つ食べていた。

 リアたちは十個を超えていたので、別にそんなに驚きはなかったけど。

 俺の指摘にジェニスは頬をかいていた。


「いやいや……。そのお詫びじゃないが、夜の見張りはオレたちでやるから、四人はゆっくり休んでくれ」

「そうか? それは助かるよ」


 夜はゆっくり眠りたかったからな。

 食事を終えた俺は、ブルーシートを敷く。

 そして、今回はそれだけではない。


 そこにマットレスを敷いた。あまり値段の高い質の良いものは召喚できなかったが、安価なものであれば問題なく召喚できた。

 安価なものでも、この世界基準だとふかふかなので、四人とも喜んでいる。

 あとは布団を用意し、枕も準備すれば寝床の完成だ。

 それを合計四つ。正方形になるように並べておいた。


 あとは、テントでも準備すればいいのかもしれないが、それはさすがに目立つので今回はパスだ。

 この世界にも簡素なものならあるかもしれないので、物を選べば納得してもらえるかもしれないが……まあ、別にそこまではしなくていいか。


 俺たちが寝床へ向かうと、リアが困ったようにこちらを見てきた。


「どうした?」

「いや、シドー様のおかげで夜の晩をしなくていいって言われたけど……あたしたちは何もしていないし、って思っちゃってね」

「別にいいんじゃないか? 奴隷の手柄はご主人様の手柄でもあって、その逆もあるってことだろ? それに……今日の戦闘を見た感じ、俺たちとジェニスが万全の状態で動けるようにしておいた方が良さそうだしな」


 戦闘を見た限り、多くの冒険者が魔法などを持たず、武器での戦闘を行っている。それは俺たちも同じなのだが、俺たちの武器は敵を一撃で葬り去る力がある。

 ジェニス以外は、そこまで強くなかったので……俺たちが休めるならその方がいいだろう。

 リアもその状況を思い出したようで、ひとまず納得したようだ。


「……そうね。戦闘の時に皆を助けられるようにすればいいわよね」

「そういうことだ。そういうわけで、おやすみな」


 俺が声をかけると、アンナがぺこりと頭を下げる。


「はい。おやすみなさい、ご主人様」

「ん」


 目を閉じ、布団を被る。

 ……初めは風の音や焚き火の燃える音が響き、少し気になっていた。

 なので、耳栓を召喚し、それを耳につけて眠る。

 何かあったら大変かもしれないが、そこはジェニスたちを信じようじゃないか。




 体を揺さぶられ、目を開けるとジェニスがいた。

 ……何か話しているようだが、よく聞こえない。俺は耳栓を外すと、ジェニスが首を傾げてきた。


「何を入れていたんだ?」

「耳栓だ。もう出発か?」


 夜は冒険者同士で話をしていたので、耳栓をつけて眠っていた。

 冒険者としてはダメかもしれないが、寝られるときに寝ておかないとな。

 隣には、ナーフィがいた。おい、せっかく用意したのに使ってないのかい。


 空を見ると、わずかに明るくなってきている。少し肌寒いので、この時間は長袖にした方がいいかも。ナーフィのおかげで、寒くはないのだが……。もしかしたらナーフィもいつも寒くて潜り込んできているのかもしれない。


「陽が出たからな、出発だ」

「分かった」


 リアとアンナもすでに起きていて、ナーフィを引き剥がしてくれた。

 用意しておいたマットレスなどをすべて収納魔法にしまい、すぐに馬車へと向かった。

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