第38話



 それから、さらにワイルドボアを四体ほど仕留めた。

 毎回、閃光手榴弾作戦がうまくいったので、討伐に問題はなかった。


 そんなこんなで午後になり、一度解体場へと戻る。

 俺たちのゴブリンを解体してくれた男性職員が、気さくに片手を上げてきた。


「おう、兄ちゃん。終わってんぞ。解体は討伐証明部位以外はこっちが買い取っていいんだよな?」

「ああ、大丈夫だ」

「んじゃあ、これがそれだ。ゴブリンの右耳が討伐証明部位だからな」


 彼が大きな袋をこちらに差し出してくる。

 それを受け取り、興味本位で見てからすぐに閉じた。見なければよかった。たくさんあった耳を思い出し、少し鳥肌が立ってしまった。


「んでこっちが、買取の金額だ。全部で銀貨十枚だ」

「……そうか」

「まあ、ゴブリンだとそんなに高値はつかないからな。気にすんなよ」


 別に落ち込んでいるわけではないのだが、慰めるように肩を叩いてくる。

 それでも、これがあれば数日は暮らせるんだよなぁ、とか考えていただけだ。 


「そうだった。今日は北の森でゴブリンとワイルドボアを仕留めてきたんだ。そっちの解体を頼んでもいいか?」

「ん? ワイルドボアだって!?」


 驚いたように声を上げる彼に、俺は小さく頷いた。

 あれ? なにかまずったか? 実はこの辺りの神聖な魔物で討伐してはいけないとか?

 いや、だったらそもそも討伐依頼も出してないよな。


「おいおい、怪我してねぇのか? Gランク冒険者だよな!?」


 ……なんだ、俺の体を心配していたのか。

 確かに、Gランク冒険者が挑んだら心配もするか。


「大丈夫だ。元々依頼は受けてなかっただけで、それなりに冒険者活動はしてきたからな」

「……にしちゃあ、ゴブリンの解体もできないのか?」


 ……そこ突っ込まないでほしいわ。


「解体に時間をかけるより、魔物を倒していた方が楽しいだろ?」

「……なるほどな。兄ちゃん、戦闘狂かい。たまにいるんだよな、そういうやつ」


 いるのか。

 どうやらひとまず納得してくれたようで、また奥の部屋へと案内される。

 とりあえず、アイテムボックスに入れていたゴブリンとワイルドボアを取りだしていくと。


「……おいおい、六体も倒したってまじか」

「たまたまな。こいつらの討伐証明部位だけ先に解体してもらうことってできるか?」

「おう、了解だ。それなら対して時間かからないぜ」

「……さっきの袋に入れてくれ」


 俺はゴブリンの耳がたくさん入った袋を渡し、男性はすぐに解体用のナイフを手に持った。


「これ全部つっても、三十分もありゃ終わるから。ちょっと外で待っててくれ」

「分かった」


 かなり分厚い包丁だ。それを巧みに使って作業を開始したので、俺たちは一度外に出る。

 そこで軽く食事休憩をしていると、すぐに男性が戻ってきた。

 先ほどの袋をこちらに渡してきて、にこりと笑みを浮かべる。エプロンみたいなのに返り血をつけながらそんな爽やかに笑われても怖いんだが。


「ほらよ。これで冒険者ランクでもあげてきな。たぶん、EかDランクくらいまで上がるはずだぜ」

「……そんなにか?」

「ワイルドボアを狩れるってやつをわざわざ低ランクにしておく理由がないからな。Dランクともなれば一流冒険者だぜ?」


 冒険者のみで生計を立てられるのが、一流冒険者と呼ばれるらしい。それが、Dランクなのか?


 男性が討伐証明部位がゴロゴロと入った袋を渡してくる。

 あまり手では持っていたくなかったのですぐにアイテムボックスにしまう。

 リアたちとともにギルドへと向かいながら、問いかける。


「……Dランクで一流なのか?」

「冒険者活動だけで生活できる冒険者が一流って言われてるのよ。で、そのラインがDランクね。Dランク冒険者なら、パーティーを組んで戦っても稼ぎはまあまああるしね」


 なるほどな。


「Dランクから上のランクの冒険者もいるんだよな?」

「いるけどやっぱり、圧倒的にDランク冒険者が多いわね。ここから先のランクは、ギルド側の試験を突破しないとだから、昇格が大変なのよね。もちろん箔がつくけど、まあDランクまであればだいたいの依頼は受けられるから必要ないって声もあるわね」

「……まあ、なんか大変そうだな」


 なるほどな。

 Cランク以上は無理に目指す必要はない、趣味の領域なんだろうなぁ。

 俺としても、生活に困らない程度まであげられれば問題ないと思っているので、ひとまずはDランクくらいあればいいだろう。

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