第35話



 張り出されていた依頼の中から、Gランク冒険者でも狩れるものを探していく。

 まずは、やはりゴブリン討伐だ。ただこれはあまり旨味がないので、別の依頼を探す。


 常に張り出されていて、もしも目撃したら討伐してほしい……みたいな依頼は多くある。


 その一つが、ワイルドボアだ。

 依頼書には、北門を進んで行った先の山の麓にある森のワイルドボアが最近増えているので見かけたら討伐してほしい、と書かれていた。


「ワイルドボアって、どうなんだ? 強いのか?」


 俺がリアに問いかけると、彼女は顎に手をやる。


「ワイルドボアだったら、EランクとDランクの間くらいだったはずよ。ちょうど、相手としては申し分ないと思うわ」

「……それなら、腕試しに行ってみるか」

「そうね。アンナたちは何か受けてみたい依頼ある?」

「私は……大丈夫です。ナーフィちゃんはどうですか?」

「ん」


 ナーフィはワイルドボアの依頼書を指差している。

 ……どうやら、彼女の意見も一致しているようだな。


 ナーフィって、文字は読めるのだろうか? そんんなことを考えながら、俺たちは北門をでて、目的地へと向かう。

 森までは……結構遠いが、リアたちとともに食事をしながら移動していく。


「移動がなかなか大変だな……皆って馬って乗れるか?」

「私は……一応経験ありますので」

「ん」


 アンナとナーフィは頷いている。

 おお、頼もしい。


「あたしも、乗れるけど……でも、借りるとしても最低二頭よ? かなりお金かかっちゃうし、迷宮に入る場合は誰かが見張りとして残る必要があるわよ?」

「……だよな」


 狩りの効率がいいと言っても、移動にまでお金をかけるのもなぁ。

 リアが言うように、見張りで誰かが残ることも考えたらあまりいい策ではないよな。


 そんなことを話していると、ようやく森の入り口に到着した。


「とりあえず、中に入る前に休憩するか」


 俺はそう言ってから、アイテムボックスから折りたたみ式の小さな椅子を取り出し、そこに腰掛ける。

 地面の安定している場所を選んで設置したのだが、微妙にがたがたと揺れるのは仕方ない。


 三人の分も用意したのだが、ナーフィはブルーシートがいいようだ。

 仕方ないので、それを取り出すとナーフィはゴロンと横になる。

 それに合わせ、アンナとリアも横にはならないが足を伸ばすようにくつろいでいる。


 ……うん、俺もそっちの方がいいかも。

 ブルーシートをもうひとつだし、俺たちはその場で休み始める。


 ついでにテーブルも取り出し、飲み物などを置いておく。

 今回用意したのはスポーツドリンク。ここまで運動してきたし、これからも運動するからな。

 アンナとナーフィがすぐに反応する。真っ先にナーフィは口に運び、こくこくと飲んでいく。


「ん」


 ナーフィは気に入ったようだ。ペットボトルに入っていたそれを一気に飲み干したので、さらにもうひとつ召喚する

 今度は500ミリリットルサイズではなく、2リットルサイズだ。

 ……アンナもパッと目を輝かせる。


「……これはまたジュースとは違った美味しさですね」

「スポーツドリンクって言ってな。体動かしたときに足りなくなるものとかが補給できるんだ」

「……そうなのですね。そんな便利なものもあるのですか」

「ほんと、シドー様の世界って美味しいものたくさんで羨ましいわね……」


 リアも口をつけ、目を細めている。

 もうすっかりペットボトルで飲むのに慣れた様子だな。


「何か食べたいものはあるか?」

「……何か、甘いものが食べたいわね」

「……私も」

「ん」


 三人が期待するようにこちらをみてくる。

 自分から、積極的に要求も伝えてくるようになるとは、クックックッ。もうすっかり虜だな。


「それなら、今日はドーナツでも召喚してみるか」

「……ど、どーなつ? 何よそれ」

「まあ、食べてみてからのお楽しみだな」


 俺が召喚するものに期待しかないようで、目を輝かせている。

 早速俺は皿を取り出し、その上にドーナツを召喚していく。

 全国にあるミスドーナツだ。こちらから、いくつかドーナツを召喚してみせた。


「甘い香りがするわね……っ」

「こ、この黒いものがかかっているのはチョコですか!?」

「ん……」

「ああ、好きなものを選んで食べてくれ」

「……ど、どれにしよう」

「……私、この白いチョコみたいなのがかかったものにします」

「ん」


 迷いながらも、それぞれ一つずつドーナツを掴んで、食べ始める。


 俺はリングドーナツを手に取り、食べる。……うん、うまい。

 この甘みが最高だ。

 俺が食べ始めると、リアたちも期待した表情とともに大きく一口食べ、嬉しそうに頬を押さえる。


「こ、これもちっとしてるわね!? なにこれ!?」

「え!? わ、私のは結構硬いですけど、甘くて美味しいんですよ!?」

「ん」

「ナーフィのそれ、何!? なんか中から白いの出てきてるわよ!?」

「それは生クリームだな。ケーキとかは分かるか? それが中に入っているんだよ」


 俺がぼそりと解説すると、皆目を輝かせていた。

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