第33話
「今、料理をしていてな。ずっとできたものを召喚していたから、ちょっとは料理もしようと思ってな」
「……なるほど。お肉ですか。とても、良い香りですね。そちらの火を使ったものは、なんでしょうか? 魔道具で似たようなものを見たことがありますが……」
「俺の世界の道具でガスコンロって言ってな。こんな感じで火を出せるんだ。アンナもそっちのコンロで肉を焼いてみるか?」
「は、はい」
このままアンナに何もしないと、味見を始めそうだったので、仕事を振る。
悪いが、三人の食欲を満足させられるようなペースで肉は焼けないんだ……。
俺は早速もう一つフライパンを召喚し、油をしいた。
アンナに見本を見せると、彼女はすぐにガスコンロに火をつけ、小さく悲鳴を上げる。
「……ま、魔法や魔石の力を使わずにこれほどの火が使えるなんて」
「むしろ、俺からしたらこれが当たり前なんだけどな。それじゃあ、あとは肉を焼いていってくれ。料理はしたことあるのか?」
「はい。問題ありません」
そうか。アンナに調理用の箸を渡そうかと思ったが、やめた。トングのほうが使いやすいだろう。
彼女にトングを渡し、肉を焼いてもらう。彼女たちがたくさん食べるんだから、自分の分は調理してもらわないとな。
肉を焼きながら野菜の準備と味噌汁も作って完成だ。
俺がお皿に料理を並べていく。ライス、味噌汁、生姜焼きとキャベツの千切り。これだけあれば、十分だろう。
しばらくして、リアとナーフィがアンナのときと同じように駆け込んできた。
「な、何この匂いは?」
「ん!」
すでに俺たちがうまいものでも食べていると思ったのか、ナーフィが珍しく目を吊り目がちにして声をあげてきた。
「落ち着け。まだ食べてないから」
俺は先ほど召喚した簡素なテーブルを置く。一人用の小さなものなので、どうにか問題なく召喚できた。
確実に、俺の召喚魔法が成長しているのを実感しつつ、食事を並べていく。
「一応肉はたくさん焼いてあるとはいえ……そんなにはないんだからな? 皆で仲良く食べるように」
どちらかというとご飯が心配である。まあ、足りなくなったら召喚するしかないだろう。
すぐに全員分の食事を用意し、皆で食事を開始する。
いただきます、と俺がいった瞬間。
リアたちはもう待ちきれなかったようでフォークを使って食事を始める。
真っ先に生姜焼きにフォークを伸ばし、それを口に運ぶ。
「……うまっ」
「……っ! おいしいです! な、なんですかこれは!?」
「ん」
「生姜焼きって言ってな。簡単に作れておいしいよな」
俺もぱくりと食べてみたが、うまい。
普段使っている肉よりもいいものを召喚したこともあって、かなりうまい。
……いつもは、安い肉ばかり買っていたからな。それらの味を誤魔化すために調味料をたくさん入れていたものだが、これは肉の味もしっかりと自己主張してきてくれる。
リアたちの食べる速度が加速していく。……うん、白米は確実に足らなくなるだろう。
ただ、美味しそうに食べる彼女たちを見ていると、悪い気はしないのだが……料理をする場合は、ある程度時間に余裕を持った方が良さそうだな、とは思った。
足りなくなった肉を調理し、白米は召喚で補っていき、その日の夕食を終えた。
次の日の朝。
ナーフィがまた俺のベッドに侵入してきていた。
ただ、今日は昨日に比べて余裕があったので、色々と柔らかな感触を堪能させてもらい、無事脱出させてもらう。
そうして朝を迎えた俺が三人の着替えの時間に合わせて外へと出ると、ちょうど仕事中の店員に声をかけられた。
「おはようさん」
「ん? おはよう」
笑顔混じりの店員に声をかけられ、何かと思った。
「昨日、おまえさん部屋で料理してたのか?」
「え? ああ、してたけど」
朝。いつものように迷宮にでも行こうかと思っていたら、店主にそう声をかけられてしまった。
何かまずいことがあっただろうか?
「いや……めっちゃいい匂いしてな。夕飯食った後なのに腹減ってきちまってよ」
「そうだったか」
「なんか、うちで料理が提供されてんのかって聞かれてな。ついでとばかりに食堂を利用していく人もいたもんでな。お前さん料理得意なのか?」
「得意ってわけじゃないが、旅をしていると食事は楽しみの一つでな。身についたんだ」
と嘘を言っておく。俺は冒険者だし、疑われることもないだろう。
そんなやりとりをして、去っていった。
ただまあ……あんまり料理とかを宿ではないしない方がいいかもな。
調味料をふんだんに使った料理なんて、平民には縁遠い。
それができる立場なんだと誤解されると、面倒なことになる。
実際はただの異世界の一般人だとしても、他者には俺が大金持ちの貴族に見えてしまうかもしれないからな。
それで、面倒事が舞い込んできたら厄介だ。
隠していることが多いとなんでもかんでも迷宮になってしまうな。
場所を選べば秘匿性が高いんだから仕方ないか。
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