第32話


 これなら、リアたちもゆっくり汗を流せるだろう。

 ご主人様がいないところで、ご主人様に対しての愚痴の一つもこぼしたくなるだろうしな。


 それに、風呂とはいわずとも、ゆっくりしたい気持ちもあるはずだ。

 プライベートの時間というのも大切だ。奴隷としてつきっきりにさせてしまっているわけで、多少なりとも自由になれる時間を与えてあげたほうがいいだろう。


 ……そういえば、もうすぐこの世界での休日が来るな。

 読み方は違うらしいが土曜日、日曜日が来るのでその時は休みにしてもいいよな。


 俺は、自分のステータスを改めて確認する。


『シドー・トヨシマ レベル20 召喚魔法 収納魔法』


 だいぶ、レベルも上がってきたな。

 さすがに王城にいる勇者たちと比べたら成長は遅いのかもしれないが、別に王族の後押しがなくてもなんとか生活はできそうだ。

 まあ、一応初期費用を支払ってくれたあのドS王女様には感謝しておこう。一応な。


 それに、追手とかが来る様子もない。

 俺が問題なく生活できているところを見るに、恐らく俺への興味は完全に失せてくれたんだろう。


 あとは、王城に残る勇者たちが魔王を倒してくれることを願いつつ、こちらはこちらで生活を整えていくだけだ。


 ひとまずは、ショットガンを使って魔物を倒していけばいいとは思うが、次に挑戦するとしたらDランク迷宮の魔物か。


 ……うーん、大丈夫か? ちょっと防具とかも購入した方がいいかもしれない。

 防刃ベストとかを身につけていれば、多少は身を守ることもできるだろう?


 あとは、盾か。向こうの世界にも色々と盾もあったよな。

 盾をうまく並べて、その後ろから射撃……みたいなことができれば、より安全に戦えるかもしれない。


 それか、ショットガン以上の武器を手に入れるか。

 使い勝手の良さでいえばハンドガンよりもアサルトライフルの方がいいだろう。

 今のうちのパーティーだと射程の問題もある。

 距離を重視するならスナイパーライフルか。他にも、ロケットランチャーとかもあるか……。


 まだ、さすがにそこまでのものは召喚できないとしても、いずれはそれらを召喚できるようになるだろう。


 そんなことを考えつつ、ひとまず召喚したのはガスコンロだ。

 ……ずっと、出来上がったものばかりを召喚していたからな。

 たまには、自分で料理がしたかったからな。


 というか、今までだって余裕があれば料理をしたかった!

 だというのに、なかなかそういう暇がなかったし、落ち着ける場所がなかった。


 あと、単純に三人の食欲だ。

 リアがいない今のうちに、ゆっくり料理を楽しもうと言う作戦だ。


 まずはお米の準備だ。暇な時間に研いで水につけておいた米の入った土鍋をガスコンロに設置し、火をつける。

 土鍋で米を炊くのなんて久しぶりだ。昔、学校の授業でやったことがあるくらいだ。


 ここからしばらくは火を通す必要があるので、その間に別の料理を作る。

 こちらも、迷宮にいた時に準備済みだ。大きな袋に大量の豚肉を入れ、それを生姜焼きのタレにつけておいた。

 準備しているときはそれこそ給食でも作っているかのような気分だった。


 すでにつけ終わった肉をアイテムボックスから取り出し、ガスコンロに乗せたフライパンに油をたらし、焼いていく。


 いい音と匂いだ。宿の店主に聞いたが、「別に料理とかは自由にしてもいいよ」とのことだった。一応窓を開けて換気しているのだが、いいと言われたからにはいいだろう。


 この世界にもガスコンロのようなものがあり、それを持ち込む冒険者もいるそうだしな。


 しばらく肉を焼きながら、土鍋の様子を見るともうふっくらと出来上がっていたので、火を止める。あとは蒸らしておけばいいだろう。


 やはり、ご飯は炊きたてに限る。いくら、これまでどこぞのお店のご飯を召喚していたとはいえ、やはり出来上がったものには負ける。


 今回用意した豚肉もすべて最高級品だし……楽しみだ。

 焼き終わった肉は、どんどんタッパーに入れひとまずアイテムボックスへ。

 冷めないように配慮して、次の肉を焼いている。


 すると、何やらバタバタとした音が廊下の方か聞こえてきた。

 ちょうどその時だった。俺の部屋がノックされる。


「ご主人様! 今戻りました……!」

「ああ、了解。ちょっと待ってくれ」


 肉に入れる火を弱めつつ、アンナを迎える。

 アンナは何やら慌てた様子だった。……今は、一人のようだ。


「リアたちはまだシャワーか?」

「はい。リアちゃんが、ナーフィちゃんを洗ってくれるそうなので、先に戻ってきましたが……さ、先ほどの匂いはなんでしょうか?」


 ……アンナも、男性が苦手と言っていた割にはぐいぐい来るようになったな。

 彼女はゆったりとした服装だ。俺が渡していた着替えだ。

 アンナはパーティー内でもっともスレンダーな体型をしているが、よく似合っている。

 その顔は赤い。風呂上がりだからというよりは、何かに興奮している様子だ。


「そんなにしたか?」

「はい。外でも人が集まっていましたよ」


 ……ええ。

 ちらと窓の外を見てみると、確かに人が集まっている。まさか、この部屋の匂いに釣られてじゃないよな? そうではないと願いたい。


 今後、街の中では料理をしないほうがいいかもしれないと思いつつ、俺は残りの肉を焼いていく。

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