第31話




 それから何度かウッドマンを倒して、休憩というサイクルで戦闘を行う。

 ちょうどその時、アンナが声をあげた。


「あっ、レベル14にあがりました」

「あたしも、レベル15ね。ナーフィは?」

「ん」


 ナーフィは、両手で10を作った後、指を7本立てる。

 17だ。


「俺はレベル16だな、結構いいペースだな」

「結構、どころかかなりよ。やっぱり、食事に経験値効率とかあげる効果があるのよ」

「……それならいいんだけどな。ほら、また休憩で……次はチョコでもくうか?」


 問いかけると、三人は力強く頷いた。

 食べ過ぎないようには注意しつつも、この三人が本当に美味しそうに食べるものだから、ついつい上げてしまう。

 ……今の所、まだ太ってはいないようだが……まあ、一日二日で体重が一気に増えることはないよな。


 ……あとで、電池と体重計でも召喚して、三人の記録をちゃんととっていこうかね?

 お菓子を食べているときがどうやら一番の幸せらしく、エルフの耳を上下させている。

 まるで犬の尻尾のようだ。


 俺はじっとリアの耳を見ていると、彼女が恥ずかしそうに耳を隠した。


「な、何よ? 何かある?」

「いや、ピクピク動いてたからな。……そのエルフの耳って結構自由に動かせるのか?」

「動かせるけど……勝手に動いちゃうときもあるのよ。あんまり見られると恥ずかしいわよ」


 ちょっと恥ずかしそうに右耳の耳たぶあたりを触っている


「そうなんだな。食事しているときはだいたいいつも動いていたけど、あれは勝手に動いていたんだな」

「……あんまり見るんじゃないわよ、まったく。ていうか、そんなに見るもんでもないでしょ?」

「いや、どうだろうな? 俺の世界って、人間以外の種族いないからな。珍しいんだよ」

「え!? い、いないの!?」

「ああ……そうだな」

「……それは、いいわね。種族ごとの差別とかってないんでしょ?」


 ……この世界だと結構種族ごとの立場というのは違ってくる。

 一番人口の多い人間が優遇されている部分はあるし、亜人は差別されやすい。

 もちろん、亜人しかいない国などもあるが、リアたちが亜人という立場で苦労してきたのはなんとなく想像できる。

 だから、俺の世界に対しての憧れはあるようだが、悪いがそれは否定せざるをえない。


「……いや、そういうこともないな。生まれた国によってとか、肌の色とかで差別している人もいるし……」

「……そうなのね。案外、難しい問題ね」

「……確かに、エルフでもダークエルフとエルフは仲悪いですもんね……」

「そうなのか?」


 ナーフィは……たぶん、純粋なエルフではない。ダークエルフとまでは言わないが、他二人よりも肌は濃い。

 それでも一緒にいたから、特にそういうのはないものだと思っていた。

 アンナはこくりとゆっくり頷く。


「はい……私のいた故郷とかでは、特にそういうの強かったです……私は、あんまり気にしてなかったんですけど……」

「……あたしも、同じような経験あるわね。ダークエルフの家の子にだけは負けられない、みたいなのはよくあったわよ。あたしも、正直そういうの気にしてないけど」


 二人とも、ナーフィに向けてそう言っているように感じた。

 そのナーフィはというと、少し落ち込んでいるように見えた。

 いつもよりも元気がなかったので、彼女の頭を撫でると、俺の膝の上に頭を乗せてきた。

 犬みたいだ。


「……ナーフィってもしかして少しダークエルフの血が入ってて大変な思いをしたのか?」

「……ん」


 ナーフィは控えめにながら頷いた。

 また元気がなくなってしまった。あまり、深く聞くようなことではなかったな……。


「ああ、悪い。別に俺は気にしないから。ナーフィはナーフィだからな!」


 嘘偽りなく、今のナーフィが一番だと思っている。

 元気づけるように声をかけると、ナーフィはこくりと頷いた。

 ……やはり、彼女達の過去について触れる場合は、慎重になった方がいいだろう。




 Eランク迷宮での戦闘を終えたのは夕方だ。それからギルドに戻り、所持していた魔石を換金した。


「す、凄い量ですね」

「……ま、まあEランク迷宮は結構余裕に戦えたな」


 ギルド職員に驚かれたので、そう言っておいた。

 ……この魔石の量は、結構異常だったのかもしれない。


 しまったな。あんまり目立つようなことはしたくなかったんだよな。

 俺たちの稼ぎに反応してか、周囲の冒険者たちが伺っているのを感じる。


 ただでさえ、エルフ三人の奴隷を連れている冒険者は目立つので、変なところで目をつけられなければいいんだが。

 とりあえず、何かトラブルが起こるようなことがあれば、別の街への移動も考えないとな。


 俺たちはあくまで一つの冒険者パーティーとして活動していければいい。


 王城で頑張っている勇者たちのような英雄譚はいらない。


 淡々と経験値を稼ぎ、俺のできることを増やしていく。その先が、日本に戻るための手段に繋がっていると信じてな。

 

 魔石の売り上げは銀貨50枚ほどになった。……一日中ひたすら狩っていたからな。

 魔石がちょうど、供給量が減っていたため、買取金額が増えたというのも理由の一つだろう。


 これなら、正直金に困ることはない。日銭を稼ぎ、レベルを上げていくのも問題なく行えるだろう。

 なんなら、これを維持できるなら宿のグレードをもう少しあげてもいいくらいだ。


 無事宿に戻ってきたところで、俺たちは昨日同様公衆浴場へ向かう。

 昨日はリアたちが出てくるのを待っていたが、今日は先に戻ると伝え、そこで別れた。

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