第15話


 解体を覚えて一生懸命やっていったとしても、その道のプロになるにはどれだけの時間がかかるか分からない。

 魔物によって解体の仕方も違ってくるだろうし、色々考えたら死体を持って行った方がいいだろう。

 ……まあ、アイテムボックスの制限など色々と問題もあるのでおいそれと大量に持っていくわけにはいかないんだけど。


「今は律儀にゴブリンの死体も回収してるけど、もしかしてゴブリンくらいなら解体しても大して金にならないか?」

「これだけ綺麗な形で死体も残ってるし、それなりのお金にはなると思うわよ。角、牙、爪は武器などの素材になるし、目や睾丸は薬の材料にもなると聞いたことがあるわね」

「……え、こ、睾丸って何に使うんだ?」


 気になってつい問いかけてしまった。

 リアも、特に意識していなかったのか、俺に改めて問われると少し恥ずかしそうに頬を赤くする。

 ていうか、睨まれた。理由を知っているのか、アンナもあわあわと顔を赤くしていく。

 あれ、これってセクハラになるのだろうか?


「精力剤よ……。オークの方が効果は高いらしいけど、ゴブリンのものでもそれなりに効く……みたいよ。知らないけど」

「……な、なるほど」


 ……だから、ちょっと恥ずかしそうだったのか。

 ナーフィは特に気にしていないが、他二人はかなり気にしている。


 ……こ、これからは質問するときに気をつけよう。


 ゴブリンの睾丸が加工された商品をあまり想像したくはなかったが、別に地球でも珍しいことじゃないよな。

 睾丸が食べられる動物もいるわけで、実際にクジラとかのは食べられていたこともあるらしいし。


 睾丸、と言われるから意識するだけだ、別に普通に出されて、あとで種明かしされても分からないだろう。

 まあ、あとで種明かししてくるような奴がいたら先に言えとどつくが。


「戦闘をしていて、どうだ? 問題なさそうか?」


 リアとナーフィはなんだかんだ交流があるのだが、アンナだけは俺から動く必要がある。

 なので、問いかけてみると彼女は少しびくっと背筋を伸ばしてから微笑んだ。

 頬のあたりがちょっと引き攣っているのは気のせいではないだろう。


「アンナは別にシドー様のことが嫌いだからとかじゃなくて、単純に男性が苦手なのよ。だから、あんまり気にする必要はないわよ」


 リアがそう俺をフォローするように言ってきてくれたが、それはそれでどうしようかと迷う。

 あまり無理に関わらないほうがいいのだろうか? と思っていると、アンナはすみませんと頭を下げた。


「そ、その……私兄弟がいて……その兄たちに凄いいじめられてたもので、……すみません」

「いや、無理に話さなくてもいいから。気にしないでくれ。……戦いで問題なければ、それでいいんだ」


 ……三人とも、スラムで暮らしていたのだから何かしら理由はあるだろう。

 リアは、スラムで暮らしていたとは思えないほどに知識や落ち着きがある。……生まれは、それなりにいいんじゃないかと感じていた。


 アンナも先ほど話していたように今のような性格になった理由があるんだろう。


 ナーフィも物静かだが、人懐こいので決して悪い子ではない。

 ……ただまあ、そこは本人たちにも思うところはあるだろうし、深くは突っ込まないでおこう。


「私は……大丈夫です。戦うのが大変だとは思っていましたけど、このハンドガンなら、バンバン倒せます。これなら、低ランクの迷宮とかも問題なく攻略できると思いますね」

「迷宮……? 冒険者たちが話しているのを聞いたことはあるが、この街の近くにもあるのか?」


 道中の旅でそういった話は聞いていたが、それがどんな存在かまでは聞いていなかった。

 やはり、俺も男なので迷宮などといったものを聞くと、昂る心があるわけで一度は行ってみたい。


「あったと……思います。……ありましたよね、リアちゃん?」

「ええあるわね。低ランクの迷宮だし、確かに今みたいにあてもなくゴブリンを探すよりは効率いいと思うわよ」

「……そうなのか。俺は迷宮に入ったことないんだが、稼げるのか?」

「稼ぎはまあ、運にも左右されるわね。でも、野生の魔物と違って迷宮が一定時間で魔物を生み出してくれるから、レベル上げの効率だけは確実にいいと思うわよ」

「それはいいな」

「ただ、迷宮から生み出された魔物たちは魔石と稀に素材をドロップするだけよ。だから、基本的に稼ぎは少なくなっちゃうかもしれないけど……まあ、ゴブリン狩りよりは効率いいんじゃないかな、って感じ?」

「……なるほど」

「迷宮によっては素材のドロップがいい場所もあるから、そこらへんは詳しく調べてみないとなんとも言えないわね。あとは、運の良さも関係するわよ」


 ……運には、あまり自信がないんだよな。

 いやでも、この三人と巡り会えたことを考えれば、俺の運はいいのかもしれない。

 逆に、ここで使い果たしてしまったという可能性もなくはないか。


「それなら、明日からは迷宮に行ってみるかね」


 今日はどっちみちリアたちにハンドガンでの戦闘に慣れてもらうつもりだったからな。

 ……まあ、そんな心配は不要と思えるほどに、三人のセンスは良かったが。

 もしも、これが異世界人の一般的な戦闘センスなのだとしたら、俺たち地球人が多少チートをもらったとしても魔王討伐なんて何十年先になるんだという話だ。

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