第7話


 このベルトリアも治安がいいとはいえ、治安の悪い区画もある。

 ……この世界だとそれは当たり前のようだ。どこの街でも多かれ少なかれ生活できない人たちがいるそうだ。

 だから俺は、その治安の悪い区画へと足を運んでいた。


 なるべく顔は見せないようにしながら、俺はその区画を歩いていた。

 念の為、少しボロめの外套を購入して羽織っているので決して金を持っているようには見えないだろう。


 道の隅で寝ている人もいれば、無気力な様子で座って視線だけを向けてくる人間。

 ……あまり、長居したくはない場所なのは確かだ。

 この中から奴隷になって戦ってくれる子を探し出すというのは、結構骨が折れる作業かもしれない。


 そんなことを考えていると、エルフと思われる女性たちを見つけた。

 年齢は俺と同じか、少し年下だろうか? 耳の先が尖っているのでおそらく、エルフなんだろう。


 ……三人で一緒に座っているようだ。姉妹、というには容姿が全然違う。

 二人は普通のエルフと思われるが、青髪の子は少しダークエルフっぽさもある。


 ただ、彼女たちは、ここまでで見てきた人たちとは少し違うように感じた。


 雰囲気から、まだ生きようという気力が感じられる。

 第一、三人とも容姿的には良い方だ。

 赤い髪のツインテールの子と、青髪の子は非常に胸が大きい。

 ……もう一人、黒髪の子もスレンダーではあるが可愛い顔つきをしている。


 どうせ……毎日見ることになるんだし美しい人たちの方が目の保養になるだろう。


 ちょっと、声をかけてみようか。


「ちょっと、いいか?」

「……え? ……何よ」


 彼女がこの三人の中でのリーダーなのか。赤色の女性が鋭い目をこちらに向けてきた。

 黒髪の子はかなり臆病な性格なのか、少し警戒した様子でこちらを見てくる。

 いきなり、奴隷になってくれないか、と話すのはまずいだろう。

 ただでさえ警戒されているので、俺はまずはそこを解くために話し始める。


「今ちょっと、冒険者をやってくれる仲間を探しているんだ。衣食住を提供するから、一緒に戦ってくれないか?」

「……は? ど、どういうことよ?」


 完全に女性は困惑している。ぎゅっと身を寄せ合うようにして、こちらを睨んでくる。

 とりあえず、詳しい話をしようと思っていたのだが、そのときだった。

 ぐぅぅぅ、と俺と話していた女性の腹がなった。


「……とりあえず、詳しい話をしたい。食事を用意するから、ついてきてくれないか?」


 食事、と聞いたところで俺と話していた子以外は目を輝かせた。

 警戒はされたままだったが、三人ともひとまずはついてきてくれた。



 ……とりあえず、どこに連れていくにしても今の格好のままだとまずいので、公衆浴場に行ってきてもらい、それから俺が用意した服を渡した。


 ……地球製のもので、その質感に驚かれたが別にいいだろう。

 完全に俺好みの可愛らしいメイド服を着させてやった。

 サイズに関しては、彼女らを思って召喚すれば自動で合ってくれたので便利だ。


 ここでいい思いをさせておけば、もしかしたら奴隷契約を結んでくれるかもしれないからな。

 クックックッ。

 甘い蜜でドロドロに溶かしてやろうじゃないか。


「……さっき、石鹸も貸してもらったけど、良かったの?」

「別に構わない。ちょっと借りている宿で話をしたいから、ついてきてくれ」

「……わ、分かったわ」


 まだ、リアには警戒されているようだ。道中で彼女らの名前は聞いている。

 ずっと俺と話をしている強気な赤髪の女の子が、リア。

 おとなしめの性格で、俺に常に怯えた様子の子がアンナ。 

 何を考えているのかリア本人もよくわからないという青髪の子が、ナーフィというらしい。


 エルフということもあり、三人ともかなりの美少女だ。

 それらを連れているのだから、俺はどこかの貴族のように思われているかもしれない。


 ちょっとした優越感に浸りながら、ひとまず宿へと連れていく。

 自分の部屋についた俺は、彼女ら三人をベッドに座らせ、俺は備え付けの小さな椅子に腰掛けた。


 そして、三人の少女たちの目の前にテーブルを運び、それからアイテムボックスに入れてあったビッグマッグを渡した。


「とりあえず、話をする前に約束通り食事だ」

「……な、なによこれ?」

「こうやって食べるんだ」


 俺は見本を見せるように、包装をはがし、ビッグマッグを口に運ぶ。

 うん、うまい。今日もできたてのまま保管されていて、肉がジューシーだ。


 リアはまだちょっと警戒していたが、ナーフィは何を考えているかわからない様子ですぐに包装を剥がして食べ始めた。


 そして、バクバクと食べると、片手をさらにこちらに出してくる。


「おかわりか?」

「ん」

「ほらどうぞ」


 俺が渡すと、またすぐに食べ始めた。

 ……ナーフィ。

 体つきもかなりいいのだが、それはこの食欲が理由なのかもしれない。


「ん」

「……おう、早いな。ゆっくり食べるんだぞ」

「ん」

「……ま、またおかわりか?」

「ん」


 ……い、いやちょっと?

 ナーフィはどんどん食べていき、それに合わせるようにリアたちもぱくりと食べた。

 そして、目を見開いた。


「え!? な、なにこれ!? 美味しい!?」

「そうだろ? 俺の故郷で自慢の料理なんだよ。おかわりもあるからな?」

「お、美味しい……っ! とてもしっかりと味がついていますね……っ! それにふわふわ……っ!」


 アンナとリアが嬉しそうな声を上げている。思わず出てしまった声という感じだ。

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