第8話


 バンズは……どちらかというとあまりふわふわ、というほどでもないのでは? というのが俺の正直な気持ちだ。俺がたまに食べるふわふわ食パンなどを食べさせたら、もっと驚くことになるかもしれない。

 どちらにせよ、ハンバーガーは大好評のようで三人ともガツガツと食べていく。


 ……まあ、この世界の食事で調味料を使えるのは一部の富裕層たちだ。

 ジャンクフードは、全体的に濃い味付けになるので、気にいる人は気にいるだろう。

 まさに、シャブ漬けならぬ、ジャンク漬けだ。


「ん」


 ナーフィがおかわりを要求してくる。

 ……めちゃくちゃ、腹が減っていたんだろうな。

 アンナも控えめに手を挙げていて、俺はそちらにハンバーガーを渡す。

 少し指先が触れてしまい、びくりとアンナは体を震わせる。


 ……まだ警戒はされているようだが、食事は満足してくれているようだ。

 そんな彼女たちを、さらに沼へと引き摺り込んでやる。

 マッグシェイクを召喚し、彼女たちの前にすっと差し出した。


「こ、これは何よ?」

「飲み物だ。ジュースとかって分かるか?」

「……聞いたことはあるわよ。果物とかを絞って作るやつよね?」

「まあ、そうだな。それとは少し違うけど、甘いものだ。飲んでみてくれ」


 彼女らは女の子だし、もっと好むものとかもあるかもしれないが、今日のところはこれでいいだろう。

 俺が先に飲んで見せると、毒などを疑うこともなく、彼女たちはごくごくと飲んでいく。

 そして、目を見開く。


「……あ、甘くて美味しい」

「こ、これ……美味しいです……」

「ん」


 すぐに、おかわりを要求してくるナーフィ。

 ナーフィくらい素直だとこちらとしてもやりやすい。


 ……ていうか、リアもアンナもかなり食べるな。

 ナーフィが飛び抜けて食べるとはいえ、リアとアンナもハイペースだ。

 今日食べないと次いつ食べられるかわからないからとかだろうか?


 クックックッ。

 それなら、ここでたらふくジャンク漬けにして、もう俺なしではダメな体にしてやるしかないな……!

 そうして、しばらく色々な味のハンバーガーを召喚してやると、三人で合計五十個くらい食べたところで、ようやく治った。


「……よく、食べるな」

「亜人なんだから、当然でしょうが」

「……え? そうなのか?」

「は? 知らないの? 人間以外の種族は、食事量が多いでしょ? だから……捨てられたりするんだし」


 ……リアは、そういう理由で捨てられたのかもしれない。悲しそうに目を伏せている彼女だったが、しっかりと締めのポテトを食べていた。


 亜人は、そうなのか。もしかしたら、奴隷商で値段の安いグループにいたのは、すべて他種族なのかもしれないな。

 ……購入コストは安くても、維持コストが高くなりそうだもんな。

 ま、俺には関係ない。召喚魔法があれば、そのコストをなかったことにできるからな。


「それじゃあ、ここに来てもらった理由を話してもいいか?」

「……ええ、そうね」


 リアが思い出したようにすっと姿勢を正した。

 それまで食事にうつつを抜かしていたとはいえ、やはりまだ警戒心は持っているようだ。

 ナーフィだけはとても友好的になってくれてはいるが。


「先に言っておくが、これからの話が嫌なら断ってくれてもいいから。さっきの食事代とかを請求するつもりはない。まあ、そもそも俺は魔力さえあれば作れるからな」


 こちらとしても、向こうの警戒心を解くために実際に自分の召喚魔法を教えた。

 目の前でハンバーガーを召喚してみせると、すぐにナーフィが手を向けてきたので、それをすっと渡した。


「ちょっと……」


 真剣な空気が崩れてしまったことをリアが指摘するように息を吐いた。

 ……彼女たちならば、別に誰か話すような相手もいないだろうからある程度情報を明かしても問題ないと思っての行動だ。

 それに、相手の信用を勝ち取るにはこちらも心を開いている、と示す必要があるからな。



「こういうわけで、別にさっきの食事に関してもお金はかかってないんだよ。石鹸とかもな。だから、請求とかは気にしないでくれ」

「……分かったわ」

「それで、俺がお願いしたいのは、俺自身が強くなるためにレベル上げを手伝ってくれる人材を探しているんだ」

「レベル上げ……って、いってもあたしたちそんなに戦うの得意じゃないわよ?」

「その点は大丈夫だ。俺もあんまり戦うのは得意じゃないが、魔物を簡単に倒せる武器は作れる。それを使って戦ってもらうつもりだ」

「……なるほど、ね。それが用意できるから、人手が欲しいってこと? でも、レベル上げを手伝うってことは、奴隷契約をしろってことよね?」


 ……リアは、考えていたよりも頭の回転が早いな。

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