第6話


 奴隷たちはいくつかの部屋で暮らしているようだ。……皆、想像していたよりも身なりがよいな。


「奴隷って、思ったよりもしっかり管理されているんだな」

「各国での奴隷の扱いは最低限度の生活が提供されていれば良い、とされています。その最低限度の判断は奴隷商ごとに変わってきます。私の場所では、価値を高めるために身なりや栄養状態含め、気を配っております」


 ゴーツがすっと頭を下げてきた。……確かに、これだけ整った環境となると、奴隷たちも輝いて見える。

 ……馬車にいた奴隷の子たちは、まさに奴隷という感じだったからな。


「……これなら、奴隷たちもすぐに売れていくんじゃないか?」

「まあ、その時々によって、ですね」

 

 この奴隷商は、少なくとも俺たち買い手にとってはいい奴隷商だな。

 ここで生活している奴隷たちがどのように考えているかは分からないが、俺ならここで一生商品としていたいもん。

 そんなことを考えながら、いくつかの部屋へ案内される。

 すべて、奴隷たちが暮らしている部屋だそうで、現在の時間は文字の読み書きなどを教えている教室のような部屋もある。


 ……年齢層は幅広い。俺よりも年下の子から、明らかなおばあちゃんまで。

 というか、さっきから案内される部屋たちがすべて女性しかいない。

 あれ、もしかして俺の下心見抜かれてる? いやいや、下心なんて持っていないんだから見抜かれるようなものなんてないはずだ。


「全員、女性ばかりだな」

「やはり、女性の方が良いかと思いまして」


 それは……そうだが……。いかんいかん。のせられては。

 そんなことを思いながら部屋を見ていると、おっぱい!

 ではなく……胸が大きく同い年くらいに見える美人な女性がいた。

 ちょっと気になったので、ゴーツに聞いてみる。

 別に胸、ではなく……立ち居振る舞いがしっかりしていたからだ。戦えそうに見えたからで、他意はない。


「あちらの女性は金額はいくらになる?」

「金貨百二十枚になりますね」


 たっか! 思わず声に出そうになってしまう。俺と目が合うと女性は微笑を浮かべてから、勉学に励んでいた。


「金額の基準はなんだ?」

「容姿、年齢、レベル、使用可能な魔法、あとはその他細かい部分ですね。こちらの女性は人の好みもあるとは思いますが、容姿はなかなか整っています。レベルが25あり、冒険者としての経験もそれなりにあります。年齢は23と少し老けてはいますが、火魔法が使えますので戦闘はもちろん、日常生活などもで活躍する場面があるでしょう。何より、人間の奴隷は珍しいですから」


 ……年齢も、俺からしたらまったく問題ないとは思うが、この世界の寿命や結婚年齢を考えると多少価値は下がるのかもしれない。

 人間の奴隷は珍しい、か。確かに、人間以外の種族が結構いたよな。

 ってことは人間以外なら、もう少し値段は抑えられるのかもしれない。


 ……それにしても、金貨百二十枚、か。

 今の俺の所持金からすれば高いが……人間の一人の価値と言われたら安い、よな。

 この世界で暮らすには一ヶ月に金貨五枚程度あれば問題なさそうだ。もちろん、人によって生活費の違いはあると思うが

 つまりまあ、二年分の生活費で人間が買えてしまうのだから、そう考えると安いな。


「種族にこだわりはない。レベルも別に低くてもいい。戦う意志があるなら俺のほうで育てる。あと、魔法に関しても所持してなくてもいいな」

「分かりました。容姿などの要望はありますか?」

「容姿、か」


 おっぱい……っ、と喉まで出かかった言葉を抑える。


「とりあえず、別の種族を見せてもらってからまた判断したい」

「かしこまりました。目安の金額はいくらくらいがいいでしょうか?」


 ……あまり、手持ちの金額を伝えるのは良くない、と思っていたのでこれまで伝えていなかった。

 しかし、明らかに金が足りないように感じる。


「金貨二十五枚ほどで買える奴隷だ」

「なるほど……それですと、少し……ご案内が難しいですね……最低でも金貨五十枚はないと」

「……そうだったか。済まない、事前に確認してからのほうが良かったな。……旅の途中で聞いたところ、このくらいで買える奴隷もいると聞いていたが」


 冒険者たちが話していたんだよな。だから、俺もいけるかと思ったが、奴隷商はこくりと頷いた。


「……確かにそういった奴隷商もあります。孤児などを痛めつけ、奴隷契約を結ばせる悪徳業者であれば安く購入可能です」

「……そういうことだったのか」

「そういったお店では、安く購入できてももともと際どい商売をしていますので、後で違法なことが発覚して最悪捕まることもあります。できれば、奴隷商は国の認可を受けている場所で購入した方がいいと思います」

「……なるほど、な。奴隷紋というのは簡単につけられるものなのか?」

「お互いの承諾があれば可能です。なので、無理やり力で言い聞かせて、という場合もあります」

「……納得し合えば、か。例えば、俺が友人のレベル上げを手伝いたいからということで、一時的にその友人の奴隷になるとかの場合、奴隷紋は頼めば入れてもらえるものなのか?」

「ええ。可能ですよ。そういった場合、奴隷契約の内容などもかなり緩いものになりますね。貴族の方なかでも実際にそういうことはありますし、こちらでも一人金貨一枚で対応しますので、ぜひご利用ください」

「……分かった。そのときはまたお願いしよう」


 色々といい話を聞けた。

 もしも、お金に余裕が出たときは一人くらいはここで購入しようかと思った。

 奴隷商を後にした俺は……それから少し考える。


 奴隷を用意したかったのは、楽にレベル上げができるからだ。

 その数を増やせれば、いずれは何もしないで奴隷たちだけの稼ぎで生活できるようになるはずだ。

 そんな夢の生活を送りたいと思っていたが、なかなかどうしてその夢にはお金が必要なようだ。


 そういえば、不労所得で生活する、というのも不動産買ったり、株を買ったりとそもそもそれらを買う元手がかなりいるみたいなんだよな。

 それでも、まだ俺にはもう一つ策がある。


 お金をかけずに奴隷を手に入れる方法……それは……スラムにいる人に声をかけることだ。

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