第5話

 レベルアップするたび、確かに体が一段階進化したように感じる。

 錯覚ではなく、動体視力などもあがっていて、ハンドガンの扱いもさらに上がったようだ。

 レベルアップするときに使っていた武器とかの扱いが上手くなるとかあるのだろうか? 熟練度的な。


 ハンドガンの扱いにもだいぶ慣れてきて、ゴブリンなら問題なく倒せるようになった。

 足、というか腰を狙うと、多少逸れても足付近に当たり、移動に制限をかけられる。

 それから、ゆっくりと心臓だったり頭なんかを撃ち抜けば勝利だ。


 とりあえず今は問題ないが、今後堅い魔物が出てきたらどうするかだな。

 まあ、色々と召喚できるわけだし、なんとかなるかね? 安全第一。無謀な相手には挑まないことが一番だろう。

 街に戻りながらハンバーガーとコーラで腹を満たし、奴隷商へと向かう。


 奴隷、か。

 正直言って、購入に関しては多少迷いもある。

 ……人身売買なんて、ありえない! という常識的な自分がいるのも確かだ。


 美少女を自分のものにできるんだぞ! という悪魔な俺もいる。そちらに傾きかけている自分もいる。

 とはいえ、郷に入りては郷に従え、という便利な言葉もある。


 別に本当に奴隷を奴隷のように扱う必要はない。

 鞭を持ってペチペチ叩きつける必要はないしな。


 人並みに扱って、経験値を稼いでくれる人間、として扱う分には別におかしくはないだろう。

 会社で人を雇うみたいなものだ。俺という会社が、儲かる(レベル上げの)ために人を雇って(奴隷を買って)こきつかう。

 なんらおかしくはない。


 ちゃんと扱えば、日本のブラック企業よりもよほどいい立場になるかもしれないしな。

 わずかにあった自分の中の迷いを、そんな理由で打ちこわした。


 悪魔がね。美少女を求めているんだ。仕方ない。


 奴隷商はいくつかあったが、ひとまずは大手っぽい大きい場所に来た。

 ……ここなら、大きくぼったくられることもないんじゃないだろうか?

 金額も高くなるかもしれないが、そこは仕方ない。


 緊張しながら、俺は店の扉を開いた。

 店の玄関にはベルがついていて、俺の入店を告げるように音が響く。

 中へと入ると、男性がすっと頭を下げてきた。


「お待たせしております。お客様、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 奴隷商なので、奴隷を買いに来た……と思ったが、ああ、売る人もいるか。


「奴隷を購入したいと思ってる。俺は冒険者で、共に戦える者が欲しくてな」

「かしこまりました。すぐに、担当のものをお呼びしますので、そちらでおかけになってお待ちください」


 男性はそう言って微笑を浮かべると、受付カウンターのところにあった魔石と口元に当て、ぼそぼそと話を始めた。

 ……あの人は受付か。それでもって、奴隷の商売を行っている店員は別のところにいるのか。

 今も他のお客様の対応中なのかもしれない。


 どのくらい待たされるだろうか……なんか奴隷商の中で待機しているというのは少し恥ずかしいぞ。

 ここで知り合いになんて会ったとなれば、なんと思われるか。


 いやいや。奴隷を買う理由だって様々だろう。別に美少女奴隷が欲しいというわけじゃないし……。


 あくまで、仕事上使える奴隷が欲しいだけだし。


 他意なんてない。

 そう、この異世界で生き抜くためには、俺一人では大変だ。俺の立場を理解してくれる人間が必要なのだ。

 俺はそう自分に言い聞かせていると、


「お待たせしました。こちらの奴隷商の管理を任されている、ゴーツと申します」


 ……店員がやってきた。

 管理を任されている、ということはここの店長さんか?

 スーツ……とまではいかないがそれに似たフォーマルな服装をしている。

 隣には……奴隷の男性もだろうか? なんとなく、雰囲気的にそう思ってしまった。扱いは悪くないのだが、ゴーツに付き従っている様子がそう見えた。

 ガタイがいいので、護衛のようなものなのかもしれない。

 警戒されている……というわけではなく、仕事上常に護衛をつけているんだろう。


「よろしく頼む。シドーだ」


 こっちの世界だとこの名前の方が受け入れやすいし、苗字だって貴族でなければ持ってないのが基本だ。

 それに、この方が強そうだしな。魔王って感じがするだろう。それだとクラスメートたちに討伐されてしまうか。


「早速ですが、シドー様は冒険者としてともに戦える奴隷が欲しいんですよね?」

「ああ、そうだ」


 冒険者は敬語とかをほとんど使わないと言っていた。

 それは学がないからであり、俺は別に問題なく使えるのだが、わざわざ使うつもりはなかった。

 普通の人と違うことをすれば、悪目立ちする可能性があるからな。

 そこから、もしかしたら俺が異世界の勇者ということが発覚する可能性だってあるわけで、下手なことはしない方がいいだろう。


 長いものには巻かれろ、というだろう。今回はちょっと使い方が違う気もするが、周りの冒険者同様、粗暴に振る舞った方がいいだろう。


「冒険者に求めている魔法はありますか?」

「……魔法か。値段はどのくらい変わるんだ?」


 まさか、魔法持ちのほうが安いということはないだろう。

 もちろん、あった方が何かと便利なのはわかっているが、大金払って獲得したいわけでもない。


「魔法にもよりますが、回復系魔法持ちとなるとかなり貴重でそれだけで値段は倍近く上がりますね。攻撃系魔法は、まだ回復魔法よりは貴重ではありませんが、あるとやはり値段も上がりますね」

「……だろうな。とりあえず、動ける奴隷を見せてほしい」

「分かりました。冒険者希望の奴隷たちがいるフロアにご案内しますね」


 ゴーツとともに階段を上がっていく。

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