第2話 秘密の部屋
正義のチェンジと悪のチェンジの戦いは長く続いた。互いに剣を使い、削り合うように戦った。どちらも一歩も引かず、互角であった。それはちょうど夕方五時頃まで続き、互いにその時間になると手を止めた。歩み寄って会話をする。
「おい、正義のチェンジ……スプリングよ。実のところうちは定時が五時までなんだ。今日のところはそろそろ引き上げないか?」
「悪のチェンジ……ブレイズン……実はうちのところもそうなんだ。もう定時なんだよ。あまり残業はしたくない。だから、決着をつけよう……!」
「じゃあ、そういうことで。お疲れ様でした」
俺はそう言うと飛んだ。下の方で飛べない正義のチェンジがなにか言って騒いでいたが、何も気にならない。早くアジトに帰って報告して、帰らなきゃ。
アジトに着いて、上司に報告して渡すもの渡すとそのまま俺は帰宅した。変身は既に解いているので、帰りは電車である。通勤の混雑に押されながら、揉まれながら帰っていく。今日も一仕事を無事終えられてよかったと思いながら、帰っていくのだった。
家に着くとスーツのネクタイを緩めながら、テレビをつける。リモコンなんて旧世代のものはなく、壁にネット画面と同時に複数画面が一度に映っている。
そしてそれから視線をとある場所へと向けた。今日も確認しないと気が済まない。それは部屋の片隅だった。
俺の部屋には隠し部屋がある。それは異次元空間につながっている。ヒーローの能力を使って異次元につなげた。俺以外の人間は入ることすらできない。そうやって異次元に繋げないといけないのは、隠さないといけないものがそこにはあるからだ。そう、そこにはシーディー、レコード、エムディー、楽譜、ギターやベース、ドラムからトランペットまで様々な楽器などが並べられている。見つかったら処刑モノの、秘密である。これだけのものを過去から持ち込み、発掘して買い漁ることは大変な苦労があった。だが、しかし、音楽という魅力に取り憑かれ、その文化に涙して、興奮し、愛してしまったのだから仕方ない。今の世の中では長いこと嫌われ、悪とされ、禁句と、禁止とされているが、しかしそんなのは世の中が間違っている。そう思うのだ。たとえ悪人呼ばわりされようとも、悪者だと指さされても後悔はない。いや、自らその悪の道に進んでやると、そう言えるほどには音楽が好きだった。旧世代の遥か過去の時代において音楽は日常に溢れていて、どこでも音楽が聞けて、みんなに愛されて、みんなが音楽を好きであったという。そんなの、そんなこと、ああ、なんて素晴らしいんだ。なんて良い時代なんだ。俺は生まれてくる時代を間違えたなと、素直にそう思う。時代と世の中を憎む。だからこそ俺は悪になる。悪のヒーローとして活躍し、いつの日にか音楽を再興させるのだ。そのためならば、正義だろうとなんだろうと戦うし、善良な市民だろうとなんだろうと、盗むし、騙す。悪になってやるのだ。
俺は酒を飲み、弁当を食べながらこれらを眺めるのが何よりの幸せなのだった。
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