チェンジ・ザ・ヒーロー

小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】

正義と悪、編

第1話 音楽と悪の組織

 〉かつて音楽という文化があった。百年以上も前に滅びた文化だ。我々はその素晴らしき文化を再興させ、世に再び広めることを目的としている。そのためなら手段は問わない。悪人だろうと善人だろうと、金持ちでも貧乏でも、取れるところからは金を取る。そして使うために貯めて、そして使う。正義を名乗るチェンジには、なぜこれがわからぬのか。



「まったくです、クイーン」



 クイーン・エリザベス。我が悪の組織の幹部の一人である。頭はたぶん一生上がらない。とても偉く、尊敬できる人物である。悪の組織だけど。



 〉さて、今日のところは、ここのこの善良なる市民の家の留守中に忍込み、金庫から三百万円を盗んでくることが仕事である。いいな。


「御意に」



 〉詳細はすべて端末にデータやら情報やらを送ってある。確認せい。頼んだぞ



「御意に。魚、御意に」



 謁見を終えた俺は下がって、情報を確認していた。住所とか、とかとか。



 さて、俺はこれからヒーローになる。ヒーローとは、英雄とされ、華々しく活躍し、社会のために動き、皆から拍手されるみんなのためのヒーローのことであるが、しかし、これから変身する俺のヒーローは、悪のヒーローだ。英雄からは程遠く、華々しさはなく、反社会的行為を行い、皆から非難されるようなヒーローである。しかし、ヒーローはヒーローである。変身する以上、それはヒーローなのだ。それが正義のためか、悪のためかという違いである。人の力を超える力を得て、どう使うのかという違いだけである。



 この世界では変身したヒーローのことを「チェンジ」と呼ぶ。「チェンジ・ザ・ヒーロー」を略して「チェンジ」だ。周知の通り、正義と悪の組織が存在する。同じ変身システムを使用してはいるが、目的が違うのだ。同じ武器を使用して戦争している信念や思考の違う国の人間、という説明が妥当か。



「チェンジ!」



 音が鳴る。



 〉change!  the hero!




 手持ちのブラックカードをカードホルダーに差し込んで変身する。そんな格好では目立つだけなのでは? というツッコミはなしである。これは様式美で形式美なのだ。



 善良な市民の家に到着する。アジトからここまでは飛んできた。このチェンジは、翼が格納されており、広げたり、閉じたりして飛ぶことができるのだ。



 家に着くとさっそく、俺はブラックカードをかざして家の鍵を開ける。この時代、家の鍵はすべてスマートロックであるがゆえ、ハッキングして鍵を作りやすいのだ。まあ、これも悪の組織の技術ゆえのことなのだがな。



 留守であることは調べ済み。さっさと入り、金庫を探し、見つけて、鍵をカチャカチャ開けて、現金約三百万円ほどを手に、家をあとにした。完璧な仕事である。これで野望の達成に一歩近づく。



「待て! そこの悪のチェンジ! お前今、そこの家で悪さを働いていただろう! その格好と姿。一目でわかるぞ。おおよそ、金でも盗んだのだろう……取り返す!」



 いきなり男が目の前に現れたと思うと、俺の悪事を一発で見抜いた。只者ではないな、お前。



 音が鳴る。



 〉change!  the hero!




 男の姿がみるみる変わっていく。やれやれ、仕方ないな。


 


 人はなぜ悪と善、不義と正義に別れるのか。二極対立するのか。そんなことはわからない。しかし、自分が悪側にいるということ自体は、そのことだけは間違いなく言える。俺は悪のchange the heroだ。ブラックカードをカセットに差し込んで変身する。鎧というか、甲冑というか、的確には軍艦の空母や護衛艦のような装備を有してヒーローに変身する。悪だけどな。



 悪のヒーローがやることは単純で、社会悪だ。人を騙したり、陥れたりして困らせる。それによって得られる収益を組織に還元する。今回も人を騙し、三百万円の金をせしめた。全く持って順調であった。しかし、そこに現れたのは正義のチェンジ・ザ・ヒーローだ。こちらも、鎧というか、甲冑というか、護衛艦や空母みたいな装備に変身して、戦う。人間よりも身体能力が高くなり、武器を使って戦う。彼らは正義のため。我らは悪のために。



「悪のチェンジ! 奪った金を返せ!」


「今日も威勢がいいな、正義のチェンジ。ちなみに俺の名前はブレイズンだ」


「そうか、ブレイズン。正義の名の元に貴様を倒す」


「ふん、本当に威勢の良い。そんなことより貴様も名前くらい名乗ったらどうだ」


「よかろう。私の名前はタイド・スプリングだ! 覚えておけ悪党」



 正義と悪は紙一重。表裏一体にて、同質にて、そして互いに違う。これは悪のチェンジ、ブレイズンに焦点を当てて物語を見ていく悪こそ正義なストーリーである。



 

 

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