だいはちわ 君のこと

鬱陶しい雨が降りつける

テレワークに馴染んだ身体にはだるくて仕方なかった。

ガサッ

傘同士がぶつかる

「…す、すみません」

「いえ、こちらこそ」

疲れた顔をした女。何かあったんだろうか。

何か妙に気になるのでつけてみることにした。

猫背で長い髪もぼさっとしている。途中コンビニに寄った。

酒が多いな…食べ物もろくなものを買っていない。

アパートについた。一人暮らしに最適な広さが想像できる。


俺は何をしているのだろう。

ふと我に返る。これじゃストーカーじゃないか。自分にドン引きしながら帰路につく。


それからその女がずっと気になっていた。

7時にベランダに出ると彼女はうちの前を通勤しているようだった。

なんとなく写真を撮ってみる。

やっぱり疲れた顔をしているな…


仕事の合間に彼女のことをしらべてみた。

会社、アパートの部屋、合い鍵も作った。

いろいろと骨が折れたが、ほとんどの彼女の情報を入手できただろう。

そのころには自分はストーカーだという自覚があった。


一室に彼女の写真を貼り、使い終わった化粧品をゴミから漁ってきたり、美容院でばれないように髪の毛を盗んだりした。これはかなり大変だった。

部屋が多幸感であふれていく。それだけで満足だった。


彼女は長いロングヘアーをボブカットにして、前とはだいぶ印象が違ったけどすごく可愛かった。美容院での盗み聞きによると、彼氏に振られたらしい。

あぁ、あの顔面に画鋲を刺してあげた奴か。彼女は頬に痣を作っていた。


それからというもの特に彼女をひっそりと追う以外に進展があるわけでもなく、ただただ彼女を遠くから愛していた。

それだけでよかったはずなのに。


ある日彼女はかなり飲んだくれた様子で家に帰ってきた。

家には監視カメラをつけたので彼女の動向は毎日眺めていた。

彼女は家にあった精神安定剤に手を付けた。

お酒も飲んでるのにすごい量を飲み干した。

本当に心配になってしばらく様子を見ていたが、とりあえずは大丈夫そうだったので見守り続けた。

このカメラがばれたらまずいからだ。


彼女を保護しなくては。

そんな考えが浮かんだのはこの日からだった。


自分でもよくない考えなのはわかっていた。

危ない橋なのもわかっていた。

でも、それでも、彼女に惹かれていた。

自分はどうなってもいい。

彼女を保護しなければ。


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