八.メッセージ
……そのころ、地球では、すでに四日が経っていた。
お母は時折、外を歩いてきては、ピーチ少年の帰りを待っている。
「もう帰らないのかも、二度と帰ってこないのかもしれない」
そんな思いが頭をもたげるたび、不安で仕方がなくなってしまう。居ても立っても居られないのだ。
そんな中、兄・桃太郎は、一人で熱心に修行に打ち込んでいた。が、しかし、最も重要な技である、川上大海の祖父・妖海の超大技「天空飛翔」の術は知らないのである。今、その技を成し得るのは、ピーチ少年の他にはいないのだ。
しかし、その他の技の数々においては、一寸の狂いも見せぬほどの実力を、桃太郎は獲得していたのである。
特に、ピーチ少年の手によって復活した「合わせ身の術」は、とてもスマートなものとなっていた。もう大地に大穴をあけなくとも、一人に戻ることができるようになっていた。つまり、溶岩の火柱に、熱い思いをする必要もなくなっていたのである。
そんな熱心な修行のさなか、もうじき昼飯となるころのことだ。桃太郎が庭の石に腰かけて、休息をとっていると、かすかながら、ピーチ少年の気配を、空の彼方から感じ取ったのだ。
「な……何で、こんな雲もないような空の上から、ピーチの気配を感じるんだ?」
桃太郎には不思議だった。が、ピーチ少年の気配を感じ取っただけでも、桃太郎は嬉しかった。
「ピーチはどこかで生きているよ。さっき気配を感じ取ったんだ。あれはたしかにピーチの気配だった」
桃太郎に言われて、お母は、
「それなら、今日の午後にでも早速、ピーチを連れ戻してきてくれないかい?」
「それが……」
桃太郎は少し口ごもった。
「……それが、ピーチの気配を感じた方向は、この空の上なんだ」
「空の上?」
お母も不思議そうであった。
*
……ピーチ少年こと川上ピーチは、地球からどんなに遠くにあるのかもわからないような、小さな天体の上にいた。そして、その天体の住民の一人に救われ、今、医者らしきその住民に、ただひたすら餅を食わされていた。まだ眠っている。
しかし、意識は次第に戻りつつあり、夢など見ているのだった。
(……ウサギの餅はおいしいなあ。まだまだ食べるぞ!)
現実そのままの夢を見ているせいか、目覚めかけても、また眠ってしまう。医者も困ってしまうが、そこは医者である。ピーチ少年が目覚めるのを、辛抱強く待った。
するとピーチ少年、寝言などを言い始めた。
「……もぐもぐもぐ、ゴックン。こんなにおいしい餅は初めてだ。……ムニャムニャ」
さすがの医者もすっかり困り果てて、ピーチ少年をベッドに寝かせたまま、その診察室らしき部屋から、出て行ってしまった。
餅の供給が止まると、夢の中の餅もなくなってしまったが、
(……ふー、たくさん食べたし、眠るとしようかな……)
夢の中で眠ってしまい、つまり現実も眠ってしまった。
ここで川上ピーチは不思議な夢を見る。圧倒的なる力を誇る、謎の人物の技のすべてを。その人物は遥かな時代を超えて、ピーチ少年に言うのだ。
「月にウサギを取り戻すのだっ、急げ!」
「ハッ……!」
ピーチ少年はやっと眠りから覚め、自らの使命に、宿命に、運命に、何か重大なことがあるのを悟り、その能力を発揮するべき時が、今なのだと知る。
それは偉大なる御先祖・川上妖海からの、時空を超越したメッセージなのであった。
ピーチ少年の寝ぼけた頭は、自分が小さな天体の上で倒れたことを思い出した。ベッドの上で起き上がり、その小部屋の中を見回すと、なぜ、そんな所に寝ていたのかと、不思議に思った。
そこへ、先ほどのウサギそっくりの姿をした、医者らしき住民が戻ってきた。
そのウサギは、ピーチ少年が目覚めているのを確認すると、ホッとした様子であった。それを見て、ピーチ少年は気が付いた。
「そうか……、きみがぼくを助けてくれたんだね。おいしい餅をたくさんありがとう。もう満腹だよ」
ピーチ少年は、ウサギの医者と握手すると、外へ出た。そして「天空飛翔」の術で地球のある方角へと、飛んで行ったのである。
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