エッチに至る100の情景_004「ぜーんぶ、あんたのせい!」

 「やっぱり、女子も自慰はするのでしょうか」

 その日、高校二年生の山城 廉太郎は、幼馴染で唯一の女友達である呉井 彩に、スマブラをしながら素朴な質問をした。

 彩はプレイを一時停止して、普段からシカメっ面と言われる顔を更にムッとさせて答えた。

 「しないけど」

 「えっ、『ジョジョ』の六部でもやってましたよ?」

 彩は引き気味の表情で答える。

 「あんた、物事を『ジョジョ』で考える癖は直せよ。今それをやっているの、ラッパーの般若くらいだよ」

 そう言って溜息をつく彩に「でも……」と廉太郎は食い下がる。

 「それじゃ女の人は、性欲はどう処理してるのです?」

 「だから……」

 綾が完全に引いた顔になった。それでも廉太郎は諦めない。興味があったし、どうせ皆にキモがられている。何より彼女に『貸し』がある。彼は女子との接点が基本的にない。唯一、話せるのが彩なのだ。隣の家の幼馴染。兄弟のように遊んで、昼寝して、ご飯を食べて、「おやすみー」と別れる日々を送って来た。高校生になった今も、スマブラでワイワイできる仲だ。

 「廉太郎、さすがにキモいよ。私だからイイけど、他の子なら法廷だよ」

 「でも彩だって、前に同じこと聞いてきたじゃないですか」

 「うっ……」とうめき声を漏らし、彩が視線を逸らす。窓の外は綺麗な夕暮れだ。

 彩が廉太郎に男の自慰事情を聞いたのは事実だった。数日前、ふと彩は男の体に興味が湧き、廉太郎に尋ねた。

 「あんたもオナニーってするの?」

 廉太郎はパニックになりながらも、

 「し……しますね」

 そう答えた。すると彩はそこから、「何を使って? やっぱオナホなるものを使うの?」「え? 素手? 徒手空拳? どうすんの?」「いつムラっと来るの?」事細かに尋ね、廉太郎は答えた。

 ちなみに彩も、廉太郎以外に男子との接点がない。

 「あの時、僕への仕打ちは、それこそ法廷に出てもおかしくない」

 もっともな指摘だった。正論だ。だから彩は、

 「男のシコりと、女のそれを一緒にするのは違うから」

 誤魔化すことにした。

 「その論法はズルくないですか?」

 もっともだ。だから彩は、この話題を力技で誤魔化そうと思った。

 「ズルくない!」

 一方的に宣言して、彩はスマブラを再開する。慌てて廉太郎もプレイに戻った。


 彩は帰宅後、夕食と風呂を済ませ、黒フレームのメガネを外し、ベッドに入った。小柄で痩せた体で布団にくるまる。

 しかし、悶々として眠れない。

 「……自分でするとか、ないない」

 自慰。そんなものは選択肢に浮かんだこともない。やる人がいるのは知っているが、自分は違う、性欲が生まれついて希薄なのだ、そう思っていた。

 「自分でしたって、どうにもなんないだろうし……」

 布団をギュッと掴む。けれど悶々とした疑問は、頭から離れない。やがて疑問は好奇心に変わり――。


 数日後、彩は再び廉太郎の家を訪れた。

 「目の周りのクマが酷いですけれど、寝不足ですか?」

 廉太郎が聞いたが、彩は「平気」と答えた。

 そしてスマブラを始めて、数十分。

 「前に聞かれたことだけどさ」

 「何でしょう?」

 「あれよ、あれ。あの……自分でどうこうって話」

 「ああ」

 「ああじゃないよ。あんたが聞いたんじゃん。で、あんたに聞かれた日に、気になって……ちょっと、自分で……して、みました」

 「へ?」

 廉太郎が間抜けな声を出す。彩はスマブラを止める。

 「あんたのせいで、あたし、自分でするようになって、ここ何日、ずっと、でも、それじゃ足りなくなって……あたし! こんなんじゃなかったのに! 全部あんたのせい! 責任を取れ!」

 「責任を取るって、どうやってーー」


                                     終 

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