エッチに至る100の情景_003「オタサーの清廉なる姫」
川田 太陽は自分を普通のオタクだと思っていた。進学を機にアニメ研究部に入り、自分に似合った、灰色の生活を送るつもりだった。ところが入部したアニ研には姫がいた。しかもそれは、あまりにも姫だった。
その日、太陽は全部長会議にて「きわどい表現の多い作品を見ているアニ研に、部費を渡すのもいかがなものか?」と吹っ掛けられた。すると姫が、倉橋 梨沙子が立ち上がり、
「オタク趣味というのは白眼視されて致し方ない部分もあります。もはやオタクは少数派ではなく、18禁と全年齢の境界線の上で成り立つ魅力があるのも事実です。しかし、だからこそ、我がアニメ研究部の部員たちは己を律し、振る舞うように努めます。問題点があれば話して、妥協点を見つけましょう。ですから、ここにいることを認めてください。お願いします」
アニ研の姫にして部長、梨沙子はそういって深く頭を下げた。身長171センチ、56キロ。白磁の如き白肌に、漆のような黒髪。厳かな美を持ち、瞳には強い情熱と信念を宿している。そして誰もが彼女のことを認めざるをえない、高貴な魂を持っていた。それは些細な所作と言葉に宿り、周囲を魅了する。
梨沙子の反論で議場の空気が変わる。それを見ながら副部長の太陽は思う。
「オタサーの姫って、こういうことだっけ?」
会議を終えて部室に戻った梨沙子と太陽は、部室の模様替えをすることになった。
梨沙子は議論の落とし所を見つける手腕も秀でている。今回は「部室内のポスターが見えないように改装すること」「防音の徹底」これらと引き換えに部費の継続を認めさせた。部室内のポスターには、男性向け・女性向けを問わずセクシーなものがあり、観賞する作品も同様だ。18禁ではないが、苦手な人がいるのも分かる。好きな作品だが、争いごとの種にするほどではない。太陽にも理解できるし、納得できる妥協点だった。
そして部室の模様替えを始めて数時間。部員たちは各々の理由があって帰っていき、やがて太陽と梨沙子の2人になった。2人でポスターの位置を調整して、机を運び出し、部室の窓とドアの小窓に遮光カーテンを装着、ついでに部室内の掃除もする。すべてが終わって、ピカピカになった部室を太陽と梨沙子は並んで見渡す。「頑張った」そう素直に思えた。
「完璧ですね。お疲れ様です、太陽くん」
綺麗になった部室を眺めると、太陽は誇らしくなった。部室の模様替えなんて、大したことじゃない。それでも胸が躍る。自分はこの素晴らしい姫と一つのことを成し遂げた。そして疲労を心地よく思う自分に、太陽は驚く。ものぐさだった自分が変わった。梨沙子と出会ったからだ。そんな想いが、
「部長、いつも思うんっすけど……何故、そんなに姫なんですか?」
いつも抱いている疑問を口に出させた。すると梨沙子は笑って、
「『そんなに姫』って、どういう意味でしょう?」
「いつもシッカリしてるじゃないっスか。だから、姫だなぁって」
「そういうことですか。だって普段きちんとしてた方が、快楽墜ちした時にエロいじゃないですか」
「なるほど、確かに……えっ?」
太陽は梨沙子を二度見した。
「昔から夢見ていたんです。快楽堕ちした姫になりたいって。それで普段から自分に厳しくして、その日が来るのを待っていました」
梨沙子は少し頬を染め、
「この話を誰かにしたのは初めて……貴方になら快楽堕ちさせられても構わない。いや、むしろ……副部長が、私の右腕だった男の裏切りの快楽調教……くぅぅ、最高にグッと来るっ!」
「え? え? 何そのこだわり?」
動揺する太陽を尻目に、梨沙子が素早く遮光カーテンを閉めて――
終
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