第22話 球技会

五月の最終日、もはや夏と言ってもよい時期になってきた今日、ここ蒼昊そうてん高校では球技会が行われることになった。




梅雨入り間近なこの時期にやることなのか疑問ではあるが、今日は晴天と言って差し支えないような天気であるため文句はない。




嘘だ、暑い。まだ五月だというのに、体が焼けるような日差しだ。




暑いから半袖にしたのに、その暑さの原因のせいで肌を痛める。




こういう時のための日焼け止めだ。




今や男も日焼け止めをする時代。




「女子に応援してもらったら、全力が出せれるんだけどな。」




そう言いながら日陰にいる俺に近づいてきた黒本。




「男女で競技違うから、応援になんて来ないだろ。」




男は外でソフトボール、女は中でバスケットボールを行う。




毎年、球技会の種目は体育委員と生徒会が決めているらしい。




たしか、去年は男が外でサッカー、女が中でバレーボールだったと会長から聞いた。




なんで男が外で女が中みたいになってるんだよ。




変わってくれ、暑い。




「決勝まで行けば、見てもらえるかもな。」




「丸山のチーム負けねぇかな。」




こいつ最低だな、俺は引きながら距離をとる。




というか、やはり女に応援されたいんじゃなくて、彼女に応援されたいだけか。




そんな会話をしていると、クラスメイトに呼ばれた。




球技会は学年ごとに各クラスの代表がくじを引き、同じ色の1,2,3年がチームを組んで戦う。




クラスは全学年7クラス。




色は、桃、橙、赤、紫、青、緑、黄。




俺のクラスである1年1組は紫、黒本の彼女である丸山環のクラスである1年4組は赤、


八神銀のクラスである2年7組は緑、前話した双子姉妹の姉の恋川奏美のクラスである2年3組は橙、妹の恋川奏かなのクラスである2年2組は紫、会長のクラスである3年5組は黄だった。




バスケットボールの方は知らないが、ソフトボールは3学年合わせて5チームに分かれる。




基本的に2,3年が2チームずつ、1年が1チームだ。




だから、1年は人数が非常に多い。




1年1組は男が19人であり、球技会のルール上全員に出番を与えなければならないため、1番が打席に立ってから、次の順番が来るまでに18人分も待たなければならない。




ほとんどの人はソフトボールや野球の初心者だ。クラスに2人いる野球部が活躍する機会が減り、打線が2,3年と比べて弱くなってしまうが仕方がない。




チーム数を奇数にしないと勝敗が付かない可能性が出てくるからだ。




「解説はここで区切らせてもらう。」




「なんでリーダー面なんだよ…。」




俺がクラスメイトに大まかな解説をしていたら、クラスメイトの野球部である浦上うらかみ正久まさひさが呆れたようにツッコミを入れた。




もう一人の野球部の奴が寡黙であるため、練習はこいつが中心となって行った。




「別にリーダー面はしてないだろ。期待してるぞ、ピッチャー。」




「とはいっても全力では投げられないけどな。」




先ほども言ったように、ほとんどの人は初心者だ。




野球とソフトボールの投げ方が違うと言っても、やはり野球部が投げた球はなかなか打てない。




とはいえ、ソフトボールや野球の経験者が投げないと、真っ直ぐに投げられずに、試合にならない。




だから、経験者に力を抑えてもらったうえで投げてもらうのだ。




戦うとは言ったが、あくまでも楽しむためのものだ。




打つこと前提、守備でどうにかすることを主としている。




ちなみに、この学校にソフトボール部はない。






早速試合が始まる。広いグラウンドを4分割して同時に試合を行う。




4分割したグラウンドはA,B,C,D分けて呼ばれている。




Cでの1回戦は赤の2年2チーム対紫の1年チーム。




1回表、赤の攻撃。




俺たちのチームの半数が守備につく。ピッチャーは浦上、キャッチャーは俺だ。




黒本は日陰のベンチでくつろいでいる。




審判には、試合をしていない野球部が抜擢された。




浦上が緩く投げる。左側に行ってしまったか、審判からボールだと言われた。




二球目、球はまっすぐとこちらに向かってくるが、打たれた。




球は高く上がる。センターフライだった。まずは1つ。




続く2番3番と出塁を許してしまい、1アウト1,2塁で4番の野球部が出てきた。




経験者に対しては、手を抜かなくてもいいと言われている。




だが、やはり投げ方の差異や、そもそも浦上はピッチャーではないといった要因から、




2球目で強打を放たれてしまい、3点を取られた。




しかし、意地を見せて続く5,6番からはアウトをもぎ取り、1回裏に変わる。




1番は俺。




正直な話、浦上のキャッチャー練習に付き合わされて、打つ練習をしていない。




だけど大丈夫。




何度も言うが、ほとんどの人間は初心者なのである。




フライを打ったところで、取れない。




練習して取れるようになった奴もいるとは思うが、今日は晴天だ。




上を見た時、太陽の眩しさで球が良く見えないだろう。




俺は1球目から打ち上げた。




球は高く上がりセンターに落ちていく。




普通はフライだが、この状況下で捕れるわけが、




「アウト!」




当たり前のように捕られた。




何とも言えない顔をしている俺に、浦上は淡々と語りかけてきた。




「あいつ、野球部だぞ。」




先言えや。








3回表。赤が5点、紫が2点。




ピッチャーは寡黙な方の野球部に変わり、キャッチャーは黒本が行う。




俺は、サードを守ることになった。




今までの結果から分かったが、球技会のソフトボールは、一,二塁に来るか、強打を放って全員帰ってくるかの二択である。




つまり、サードは暇だ。




そう思った瞬間、何かがとてつもないスピードで俺の顔の方に飛んできた。




俺はそれを左手につけたグローブで受け止める。




なんだ、ただの球か。




「ア、アウト!」




若干、動揺が感じられる声で審判が声を出す。




これで3アウト。




次は攻撃か、そう思っていたら、黒本と浦上が声をかけてきた。




「大丈夫だったか?」




「よく止められたな。」




どうやら、心配してくれているらしい。




俺は平気であることをアピールして安心させた。






1回戦は俺たちが勝った。




試合には制限時間が設けられており、それを過ぎたら強制的に終わってしまう。




結果として、赤6点、紫10点で、4回表の途中で終わった。




後半の打線強くないか?俺のチーム。






5回戦まで終わる。赤が1勝、紫が3勝、引き分けが1回であった。




このまま、あと2グループと戦い、戦績の良かった2チームが1位を決めるために午後から戦う。






毎試合のことを言われても飽きてくるだろうから、3グループと戦った後の結果を言うと、全勝だった。




このまま、午後の決勝にコマを進める。






昼休み、教室で弁当を食べていると、浦上が教卓の前に立ってクラスメイトの鼓舞を始めた。




「午前の試合、俺たちは全勝できた!!このままの勢いで一位取るぞ!!!」




「「「「「「「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」」」




クラスの男子の半数以上が声を上げる。




俺は黙々と弁当を食べていた。うるさい。






弁当を食べ終わると、2試合目でボコボコにした八神を煽るために2年7組の教室に向かう。




いねぇし。




こういった行事でも、変わらず階段にいるのかよ。




仕方がなく、階段に向かおうとしたところを呼び止められた。




空波からなみ君、もしかして私に会いに来てくれた感じ?」




振り返ると恋川奏愛が体を揺らして、ニヤニヤしながら近づいてきていた。




「いえ、まったく。」




「つれないこと言わないでよ~。クラスの男子が言ってたよ。1年1組が強くて助かってるって。女子も頑張ってるから総合優勝目指そうね。」




甘ったるい声で話しかけてくる奏愛。




なぜか馴れ馴れしい、まだ話すの2回目なんだが。




恋川姉妹はどちらも八神に恋をしている。




俺が八神と仲がいいのを利用して、間を取り持ってほしいと懇願されたことがあったが、断ったはずだ。




もしかして、まだ諦めていないのか。




そう思いながら、俺は気になっていたことを聞いてみる。




「女子の方はどんなルールなんですか?」




「バスケットボール自体のルールはそのままだよ。5対5で戦ってる。


あ、でも男子と違って、グループごとに全チームがまとまっているわけじゃなくて、一つ一つのチームが別々で戦ってるって感じかな。次の試合も紫の2年1チームと紫の1年3チームが戦うことになってるし。」




なるほど、同じグループ内で他のチームが弱くても1チームだけが強ければ、そのチームは勝ち進めれるわけか。




男子もそうして欲しい奴らは、いるだろうな。




そのルールで総合優勝を目指そうと言っているのなら、紫グループはどのチームもかなり強いのか。




つき見里なしが足を引っ張っていないかは心配だが、この様子だと問題ないのだろう。








午後、決勝戦。紫対青、1回戦。




紫1年対青3年2チーム。




1回表、ピッチャーは寡黙な野球部、キャッチャーは黒本。




俺はここでは休憩だ。




日陰で休んでいると、月見里がやってきた。




「お前、試合は?」




「負けた。」




淡白に返してくる。




月見里は運動は好きだが、苦手だからな。




「そっちは勝てそう?」




「もちろん。」




月見里は真面目なキャラを演じている。




客観的に見て、真面目ではない俺と仲良くしているところを学校内で見られたくないと言っていたが、こ


うして話しかけてくるぐらいには、落ち込んでいるらしい。




とはいえ、午後は試合をしていない人が多く、人が試合を見るため集まっているため、俺たちの会話を見ている奴なんていない。




色々話している間に、1回表が終わる。2点取られたようだ。




「打ってくるから、見とけよ。」




そう言い残して、俺はバッターボックスに立つ。




先程までの試合でコツはつかんだ。




特に野球部の打ち方は参考になる。




1球目は見逃す、2球目も。




1ストライク1ボール。




3球目、真ん中に来た。




俺は、力強く球にバットを当てる。




芯を捉えたようだ。球は遠くに遠くに飛んでいく。




ホームランだな。そう思いながらゆっくりと走り始める。




周りからは歓声が上がった。




その間も球は遠くに遠くに、あれ?飛びすぎ、




そう思った瞬間、甲高い音がしたかと思うと、校舎4階の窓ガラスが割れていた。




一時の静寂に包まれる。




その後すぐ、辺りがざわついてきた。




窓ガラスが割れるの初めて見た、あんなに飛ぶものなのか、そんな声が聞こえてくる。




そして、先生が俺の方に向かってくる足音も。




この後、かなり怒られたが、球技会なのでこういうこともあるだろうと、なぜか上機嫌な校長に助けら




れ、難を逃れた。






表彰式。男は3位が黄、2位が青、1位が紫だった。




中でも、紫の1年は全勝だったということにも触れられ、クラスメイトは上機嫌だった。




女はグループ別だと3位が赤、2位が黄、1位が紫だった。




チーム別だと3位が緑3年2チーム、2位が黄2年3チーム、1位が紫1年2チームだった。




1位のチームは松下が入っていたはずだ。あいつバスケはうまいのか。




こうして、総合でも1位を手に入れた俺たち紫グループは、上機嫌になりながら、その日を終えた。


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