2章
第19話 双子姉妹
中間テストが終われば、高校生活に慣れたという感覚が不思議と湧き上がってくる。
そろそろ席替えか、松下と頼政の隣は嫌だな。
昼休み、廊下を歩きながら俺は色々なことを考える。
八神が会長のことを好きなのはわかったし、それを応援しようとも思っているが、会長から見て八神は恋愛対象になり得るのだろうか。
仮に、絶対に恋愛対象として八神のことを見ないのであれば、早めに知っておきたいところではある。
もう、5月も半分が過ぎ、気温も安定して高くなってきた。
高くならないでほしい。
今はクラスメイトと、八神、会長ぐらいとしか仲良くないが、せっかくならもう少し広げたいところだ。
1年生の他クラスの人と関わる機会があればいいのだが。
そんなことを考えていたら、目の前に人が現れた。
邪魔だな、そう思いながらよけて通ろうしたところで話しかけられた。
「君さ、ちょっといい?」
面倒くさいと思いながらも顔を見ると、俺は驚いてしまった。
目の前に立っていたのは2人。どちらも女だ。
その2人の女は容姿が完全に一致していた。
服は制服だからもちろん同じ。
身長も同じ、見た目だけだがおそらく体重も。
髪の長さも色も、髪型も同じ。
顔も同じで、胸も…でか。
「聞きたいことがあるんだけど、今時間大丈夫?」
声まで同じなのかよ。
それにしても俺に聞きたいことね。
これは、もしかして恋をしているのか?
それでなぜ、見ず知らずの俺に話しかけてきたのか。
答えは簡単。俺に恋をしているからだ。
気づかない間に出てしまっていたか、魅力が。
2人には悪いが断らせてもらう。
「なに?」
俺が返事をすると2人は声をそろえて言った。
「「八神銀君と仲いいよね?」」
あいつかよ。
「まぁ、良い方だな。」
俺は興味をなくしたようにぶっきらぼうに答える。
「良い方って、八神君2年の中だと誰とも話さなくて、ミステリアスな王子様として有名なんだよ!?」
「そんな八神君と仲がいいのはすごいことだからね。」
ヤガミミステリアス?
知らないやつだ。多分貧乏神か何かだろう。
「ところであんたたちの名前は?俺は
名前を聞くときはまず自分から、みたいな面倒くさいことを言われる前に名乗っておく。
「私は2年の
「私も2年で
先輩、それも双子か。容姿がそっくりな時点で双子なのは予測できていたが。
「それで、何の用?」
「先輩だと分かってもタメ口…。」
「まぁ、良いんじゃない?」
なんで自分たちが先輩だと分かるのか。
「敬語がいいなら敬語にしますが。」
「敬意を全く感じないけど、別にいいか。」
「敬語に敬意を込める相手なんて、実際には数人いればいい方でしょ。」
「確かに~。」
意外と話しやすい。
奏美と奏愛の区別がつけばもっと話しやすくなりそうだが。
わざと人を騙そうとしているだろ、と言いたくなるぐらい似ている。
髪型や身につけているものは変えてもいいはずだが。
それとも、区別がつく相手を選別しているのか?
だったら八神は駄目だろ。あいつは会長以外の女に興味がないから、絶対区別なんかつかないぞ。
「それで、どうして八神のことを聞くんですか?」
俺の問いに奏美が答える。
「それはね、ほら、わかるでしょ?」
「実は、私達八神君のことが好きなの。だから紹介してもらいたいなぁ、みたいな。」
奏美の後に続いて、奏愛が理由を口にした。
知ってた。
八神に関わりたい女なんていつもそうよ!
自分の気持ちじゃなくて、八神の気持ちを考えてあげたらどうなのよ!
「わかりました。今から八神を呼びますね。」
俺は八神の気持ちより自分の気持ちを優先するが。
今ここに八神がいた時に3者の表情が見たい、面白そうだから。
俺は、八神に【1分以内に2年2組の教室前に来なかったら、会長にお前の気持ちをばらす。】と書いたメッセージを送る。
するとすぐに八神が走ってきた。
「空波お前!どういうつもりだ!」
俺の耳元で静かに声を荒げてそう言ってくる八神。
「早く来てほしかったんで。この2人が八神に会いたいとしつこいから追っ払ってくれませんか?」
俺はてきとうなことを言って、八神と双子姉妹の会話を始めさせようとする。
八神は俺の言葉を受けて、つまらなそうな目で双子姉妹を見る。
こいつ、会長以外の女相手だとこんな目をするのか。わくわく。
八神が口を開こうとしたとき、なぜか先ほどから震えていた2人が俺の両手を引いて、顔を赤くさせ声にできない悲鳴を出しながら走って八神から逃げた。
「なんで逃げたんですか?せっかく呼んだのに。」
体育館裏まで来ていた。逃げすぎだろと思う。
「だって急に現れたら」
「心の準備が。」
息を切らしながら、奏愛と奏美が2人で言葉を紡ぐ。
だからと言ってなぜ俺まで連れてこられたのだろうか。
「八神の視点から見れば、話しかけようとした瞬間に逃げられたわけで、かなり印象悪くなってると思いますけど。」
もともと、会長以外には印象が悪いが、八神の恋のために障害となりそうなことは排除しておきたい。
この2人が八神にアピールをしているのを会長が見たら、勘違いしてしまうかも。
俺の言葉を聞いた2人は、絶望しているような表情を浮かべていた。
「君のせいだからね!!」
「八神君に嫌われた…?」
八つ当たりしたり、悲観的なことを言ったり、恋をした人間はどいつもこいつも面倒くさいな。
俺はさっさとこの場を後にしたが、後ろから「協力してもらうからね!」と声が聞こえてくる。
八神め、いろいろな意味で許さん。
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