第18話 短編集①

《カレーピラフ》




「料理ですか?」




休みの日に何をしようかと悩んでいたら、十七夜かのうが俺の部屋までやってきて、料理を教えてほしいと言ってきた。




「理由を聞いてもいいですか?」




十七夜さんは自炊をしていないらしいが、なぜ急に。




「実は、サークルの友達に自炊してないって言ったら、すごく驚かれて、料理はできるようになった方がいいって言われたの。」




料理ができる方がいい、か。俺もそう思う。十七夜の食生活が今になって心配になってきたし、ここは一肌脱ぐか。




「わかりました。俺に任せてください。」




俺がそう言うと花が咲いたような笑顔でこちらの顔を見上げてくる十七夜。かわいい。




「初心者ということなので、簡単なものから作りましょうか。」




「あ、でもその前に食材を買いに行かないと。」




十七夜の冷蔵庫の中には食材なしか。




「大丈夫ですよ。俺が持ってるんで。作り終えたら一緒に食べましょうか。」




「うん!そうだね。」




というわけで、俺の部屋で料理教室が始まる。




「今ある食材だと、カレーピラフなんかは簡単に作れますね。」




冷蔵庫の中を見て、十七夜さんに作ってもらう料理を決める。




「まずは、米を研いでください。」




「こんなの朝飯前だよ。空波からなみ君!」




「晩飯前ですけどね。」




米を研ぎ終わり、いつでも炊けるように炊飯器にセットする。




「今回は炊飯器で作っていきましょうか。」




「あ!私それ知ってるよ。動画で見たことある。」




どうやら履修済みらしい。料理の勉強目的で見たのかは知らないが。




「ではまずは牛のひき肉をですね…。」




俺がそこまで言うと、十七夜は炊飯器の中にひき肉をすべて入れた。




何してんのこいつ。




「十七夜さん。ひき肉は先に炒めてから入れるんですよ。」




「え。ご、ごめんね。」




まだ、引き上げれるか。俺は炊飯器の中のひき肉をすべて取り出す。




水でべちゃべちゃ。少し多いけど今日全部使うか。




十七夜にひき肉を炒めさせて、再度炊飯器に入れる。




「次は野菜ですね。とはいっても冷凍のベジタブルミックスを入れるだけでいいです。その後はカレー粉を入れて、炊飯を始めれば終わりですね。」




「本当に簡単なんだね。これなら私でもできるかな。」




すでに解凍しておいたベジタブルミックスを十七夜に渡す。




「量はですね…。」




俺がそこまで言うと、十七夜は全部入れた。




は?




さらにカレー粉も入れていく。




俺は炊飯器を見る。




明らかに多い。一人暮らしだから炊飯器がそこまで大きくないのを考慮すると、さらに多く感じる。




これはどうにかして…、十七夜がスイッチを押す。




無情にも炊飯が始まる音がする。




あの量で炊飯していいのか?




炊飯器って途中で止めていいものなのか?




一人暮らしを始めて、初めての不安が押し寄せる。




まてまて、落ち着け。こういう時のためのインターネットじゃないか。




【炊飯器 入れすぎ】




ここまで入力すると、【炊飯器 入れすぎ 爆発】という文字が見えた。




爆発!?




今までの人生で一番の難所に入ってしまったかもしれない…!








色々調べてみたが、ひとまずは大丈夫そうだ。




炊飯が終わるまで残り20分。胃が痛くなる。




「楽しみだなぁ。」




のんきに笑う十七夜。ふざけんなよこいつ。








炊き終わった。十七夜が炊飯器のふたを開けると、絶望したような表情を浮かべる。




「炊けてない…。」




どうやら米が完全に炊けていないものがあるようだ。




「ど、どうしよう。」




「落ち着いてください。こういう時は、そうですね。フライパンで炊きましょうか。」




間違えてバカでかいフライパンを買ったのが、ここで生きてくるとは。




フライパンにカレーピラフを入れ、水を少し加えて炊いていく。




しばらくすると完全に炊きあがったようだ。




皿によそい、二人で食べる。




「おいしい~。」




十七夜は満足したようだ。




カレーピラフでここまで手こずるとは、十七夜の料理の道は険しいものになるだろう。


というか、ご飯に対して具材が多すぎるだろ…。












《イケメン先輩の通学路》




俺の名前は八神銀、どこにでもいるわけがない非凡な高校生だ。




俺は学校まで電車で1時間半の場所に住んでいる。




今日も駅のホームで、まだ重い瞼を懸命に開けながら、電車が来るのを待っている。




反対のホームに腕を骨折している高校生ぐらいの女がいた。三角巾をつけて腕を固定してる。




この時間は満員だから乗るのは大変だろうな。そう思っていると、彼女が手にICカード?切符?を持っているのが見えた。




俺は目がいい方ではないから、詳しくはわからないが、とにかく彼女は手に持っているものをしまおうとしているのがわかった。




その腕だと鞄にしまうのも大変だろうな、そう思っていたら三角巾の中に入れた。




そこに入れるのかよ…。








電車に乗り大きな駅に向かう。




そこで乗り換えをして学校の近くまで行くのだが、どうしても電車内で寝たい。




そのためには他の人よりも先に入らなければならない。




幸いにもここが大きな駅ということもあり、電車は折り返しのものに乗るため、乗っていた人は全員降りる。




もちろんその分、入る人も多いのだが、ここで日本人の心理を突く。




朝方、急いでいる人ばかりだろう。


すぐに次の行動に移したいはずだ。つまり階段近くの出口から降りてくる人が多い。




だから、その反対側から乗れば…。




電車が来た。人が降りる。若干だが、俺がいた側の方が先に降り終えた。




素早く電車に乗り、座る。




今日も良い一日になりそうだ。そう思いながら瞼を閉じた。








「八神君!学校まで一緒に行こ!」




「八神君。私とも!」




「私も。私も。」




「八神先輩~。一緒に行きましょ~。」








クソが。




今日も俺は階段へと行く。










《新キャラは突然に》




体育、様々なスポーツを行う、学生にとっては日々の勉強から解放される至福の時間である。




「それでは3人1組になってくれ。」




ペアを組むなんてことのも簡単簡単…3人?




珍しいグループ分けだ。




俺はすでに黒本と一緒にいたが、俺たちと同様のことをしている生徒ばかりだと考えると、あと1人を探すのは難しい。




悩む俺たちに誰かが話しかけてきた。




「空波と黒本はまだ3人目決まってないよな?俺を入れてくれ!」




誰だっけ。印象が薄い。とりあえずモブ男と呼ぶか。




「良いぞ。なぁ空波、頼政入れても。」




頼政はモブ男というらしい。




違えた、モブ男は頼政というらしい。




「あぁ、もちろんだ。頼政?を入れてもいいぞ。頼政を。」




「もしかして俺の名前覚えてない?頼政よりまさわたるだよ。」




頼政が苗字なんだ。




全員が3人組を作り終わったようなので、先生が今日の授業について説明していく。




「今日は、体力テストを行う。3人で協力して計測していくように。」




だったら2人でもいいだろ、というか2人の方がいいだろ。




そう思いながらも体力テストを行う。








「空波、握力たっか!」




「俺の父さんゴリラなんだ。」




「じゃあ、ゴリラの学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラに合わせてミドルネームをゴリラにしろよ!」




「え?まぁ、そうかもな…。」




「…………」








「黒本、体硬すぎだって。」




「そんなに笑うなよ~。」




「まるで鉄を人間の手で無理やり曲げようとしているときと同じらいの硬さかよ!」




「は?まぁ、そうかもな…。」




「…………」










「反復横跳びで分身の術するから見とけ。」




「ジャパニーズ忍者かよ。」




「忍者は日本にしかいねぇよ。」




「いやいや、もしかしたら日本以外にもいるかもしれないだろ!というか、ジャパニーズ忍者って生き物の学名みたいな感じがして…」




こいつ、さっきから…、




「お前、ツッコミ長いんだよ!!」




「テンポ!!!!」




俺と黒本はついにキレた。




「えぇ!?」




頼政が驚くが無視する。




「もっと短くしろや!」




「テンポ!!!」




「見ろ。この変わり果てた黒本の様子を。」




「テンポ!!」




「お前のせいだからな」




「テンポ!」




「テを〇にしてみて。」




「〇ンポ」




俺と黒本の鬼気迫るというより、奇々怪々な様子に頼政はしりもちをつく。




こいつはどうやら人付き合いが苦手のようだ。




高校デビューを狙ったが上手くいかなかったと。




原因はすぐにわかる。苦手なことをすぐに得意にできるわけがない。




「そこまで気を張ったところで空回りするだけだ。もう少しゆとりを持て。」




俺の言葉に感動したように頼政が声を。




「ごめん。ありがとう。空波のこと自称天才の痛い馬鹿だと思ってたの間違いだったわ。」




「辛辣すぎだろ。」






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