第12話 人生ゲーム
高校生になってから4週間が経ち、そろそろゴールデンウイークになって一息つけるようになる。
まずは、月曜日である今日を乗り越えなければならないと、朝、決意を胸に準備をする。
準備が終わっても時間が余っていたため、何気なくスマホを見てみる。
そういえば、連絡用のアプリを確認していなかったと思い、開いてみると一番上に未読のメッセージが見えた。
【今日遊ばないか?】
黒本からだった。こんな朝早くから遊びの誘いか、と呆れていると、メッセージの上に送信した日付が書かれている、『土曜日』と。
そう、二日前に送られていたものだったのだ。
これはやばい、そう思った俺は連絡を返そうとするが、どうせ学校で会うのだから、その時に謝ればいいかと楽観視して家を出た。
それがいけなかったらしい。
今、目の前には明らかに不機嫌な黒本が立っていた。
「おい。」
怒気をはらんだ「おい」。
「なに。」
こちらも二文字で返す。
「なんで、連絡返さないんだよ。遊べないなら遊べないで、そう言えば良いだろ。しかも未読だし、今も!」
かなり怒っている。
「気づかなかったんだよ。」
事実を黒本に伝えるが信じてもらえない。
「気づかないわけないだろ。連絡送ったらお前のスマホに表示されるだろ?それとも何か、土日はスマホ触らないのか?」
「触るけど、気づかなかったんだよ。」
俺たちの会話を木霊が心配そうに、松下は笑いをこらえながら見ている。
「なんで気づかなかったのか、俺が納得する説明をしてほしいな。」
こいつ面倒くさいな。俺の恋人かよ、浮気するな。
「通知を切ってるんだ。スマホのアプリ全部。」
「は?」
俺の言葉を理解できないのか一文字しか返してこない黒本。
「だから、通知を切っていたから表示されなかった。それで気づかなかったんだよ。」
「え?なんで通知を切っているんだ?」
俺の言葉を聞いて疑問を投げかけてくる黒本。
「通知が鳴るようにしたらうるさいんだよな、音が。マナーモードにしてもイライラするから、通知を切って鳴らないようにしているんだ。」
電話だけはどうしても切れないから、いつも鳴ったらビクッとしてしまう。
「そ、そうか。まぁ、人にはそれぞれ苦手なことがあるからな。しょうがないか。」
かなり理解があるようだ。
これにて一件落着。
「いや、待てよ。通知切ってるんだったら、確認する癖をつけておかないといけないだろ。人間関係が悪くなる要因になるぞ。未読無視は。」
「おっしゃる通りです…。」
落着せず。
「そういえば、あたし
思い出したかのように急に声を上げる木霊。
「そういえばそうだな。」
今日の晩御飯はカレーにするか。いや、シチューに帰ることもできるな。
「いやいや、ここは連絡先交換する流れでしょ!なに興味ないみたいに別のこと考えてるの!」
俺の思考を邪魔して木霊が声を上げる。
「はいはい、教えてあげるから。」
「ムカつく態度ね。」
「お前は黙って無駄な努力でもしとけ。」
急に会話に入ってきた松下に言葉を投げ飛ばしながら、木霊と連絡先を交換する。
「お前には教えないから。」
「こっちから願い下げよ。」
「そこ、空気を悪くしない。」
松下を窘める黒本。そのあと、俺に話しかける。
「ところでさ、ゴールデンウイークのどっかの日に俺の家まで来ないか?」
遊びの提案だ。そこまで俺と遊びたいのか。
「いいよ。いつにする?」
こうしてゴールデンウイークの予定が一つ埋まった。
あっという間にゴールデンウイークになった。
五月なのに夏かと思うほど暑い。ここからさらに暑くなっていくと考えるだけで憂鬱だ。
黒本とは学校外で会ったことがない。
だというのにいきなり家に来いと言われて少し驚いている。
黒本の家は学校から近いそうなので、学校の正門前で待ち合わせをし、そこから家まで向かう。
黒本の私服は黒ではなかった。
家に着くと、そのまま中に入る。木霊の家とは違い、全部押戸だ。二階建ての一軒家に家族4人で暮らしているらしい。
リビングまで案内される。こういうのは黒本の部屋で遊ぶものではないのか?と中学校以前の記憶を思い返しながら考える。
リビングの中には二人、
「環のことは知ってるよな。で、その隣にいるのが俺の妹の
「初めまして。いつも兄がお世話になっています。」
「ええ、いつもお世話してあげてます。空波からなみ雫しずくと言います。」
丁寧に挨拶されたので、ふざけて挨拶を返す。
黒本二葉は中学2年生ぐらいで、赤茶色の髪を短く整えている。
それにしても、なぜこいつらを紹介したのだろう。妹がいるのはいいが、なぜ丸山が。
そういえば幼馴染だったか、家が近いのだろう。
だとしてもなぜ俺と
誰と遊ぶ時も彼女同伴はさすがにどうかと思うが。
いや、待てよ。今この部屋には男女が2人ずついる、つまり。
「今日はダブルデートと言うわけだ。」
「ふざけたこと言ってると殺すぞ。」
怖すぎだろ…。
シスコンか、彼女がいるのに。
「お兄ちゃん、変なこと言わないで。すいません、うちの兄が失礼なことを。」
「本当だよ。もっとしつけないと。」
「お前さぁ…。」
なんか、一をいじってもあまり楽しくない。
八神の反応を見習ってほしいものだ。
「それで、4人で何かするのか?」
俺が問うと、丸山が答える。
「実は昨日私の家で、あるものが見つかってね。」
そう言いながら取り出したのは、人生ゲームだった。
これを今から4人でやっていこうと思うの。
なるほど。パーティーゲームをするから妹までいるのか。
だけど…。
「あれ、あんまり乗り気じゃなさそうだな。もしかして人生ゲーム嫌いか?」
一が心配そうに口にする。
「嫌いではないけど。パーティーゲームって、いつも俺が勝つからつまらないんだよな。」
勝つばかりだと面白くない。負ける可能性もないと。
俺がそう言うと、3人の雰囲気が変わったような気がする。
雰囲気が変わったところで、人生ゲームは運なんだが。幸運の俺が負けるわけない。
ゲームスタート。
順番については無難にじゃんけんで決まった。俺、二葉、丸山、一の順番だ。
人生ゲームでは最初の番が一番大切だと思う。取れた職業カードの給料がその後の勝敗に大きく変わる。
職業カードは基本的に各職業につき1枚しかなく、被った場合は後から取ろうとした人は諦めなければならない。
つまり、順番が早い方が有利なのだ。
俺はルーレットを回す。出た目は7、駒を進めると『スポーツ選手』の職業カードを手に入れた。そのまま、マスの指示に従い、3マス進んで給料日マスにつく。給料をもらい、生命保険を5,000$払って購入した。
「最初から強すぎだろ。」
一が声を出す。『スポーツ選手』は、この人生ゲームの中では一番給料がいい。
次は、二葉が回していく…。
二葉は『医者』、丸山は『美容師』の職業カードを得た。
次は一が回すが、出た目は7、俺と被ってしまった。
「嘘だろ…。」
出た目が悪かった。職業カードは1~9までのマスにしかない。つまり、一は次に1か2を出さなければ『フリーター』になる。
『フリーター』は給料日にルーレットを回し、出た目×1,000$が給料となる。
次点で給料が低い『教師』が15,000$であることを考えると、勝つことはかなり厳しくなってくるだろう。
人生ゲームも中盤まで来た。今の順位は上から、俺、丸山、二葉、一だ。結局『フリーター』になった一
がダントツで低い。
給料に差があれど、踏んだマスの運が良かった丸山は二葉にギリギリ勝っている。
俺はこの三人全員足した金額と、ほぼ同じ額を持っている。
「強すぎませんか?」
「うん。絶対不正してるよね。」
「職業カード、オイテケ。」
自分たちが負けているからと言って、失礼な奴らだ。不正などしているわけないだろう。
あと、一はなんか怖い。
中盤、終盤になるにつれ、得られる金額も失う金額も増えていく。
さらにはマスやエリアにも新しいものが出てくる。
その一つが、『職業選択エリア』だ。踏んだマスの職業と今の職業を変えることができる。さらに、今持っている職業カードと同じマスに止まればランクアップし、給料が増える。
俺はルーレットを回すと出た目は8、『スポーツ選手』のマスだった。
「おかしいだろ!」
一が声を荒げてしまう。
「おかしくない。これが現実だ。」
「うざすぎる。」
「絶対不正だ。」
二葉と丸山は辛辣すぎるだろ。丸山は不正疑いすぎ。
マスの指示で給料日マスまで進む。
二葉は『タレント』に止まったが、『医者』の方が給料がいいので変えない。
丸山は元々、俺を抜かして先頭にいたため、すでに『職業選択エリア』にいたが『医者』を踏んでいたため、変えることができなかった。
しかし、今回の番で出た目は6、駒を進めると『ランクアップマス』だった。ここを踏めばランクアップすることができる。『フリーター』は『会社員』になる。
丸山は『美容師』をランクアップさせ給料面においても二葉を超えた。
一の番になる。出た目は9、『警察官』だ。やっと職を持てたことに安堵しつつ、給料日まで駒を進める。
俺の番が回ってくる。すると、
「1出ろ!」
「1!1!」
「1出て、お願い…!」
三人から「1」が出るように祈られる。なぜかというと給料日の次のマスには『自分探しマス』がありそ
こを踏んでしまえば、どんな職業からでも『フリーター』になってしまう。
これを作った製作者は性格が悪すぎる。
というか、こいつら祈りすぎだろ。まだ「1コール」をしている3人をよそに、俺はルーレットを回す。出た目は4だった。
「つまらない結果すぎるだろ…。」
「がっかりですよ。もっとエンタメを学んでください。」
「やっぱり不正?」
こいつら、マジで。
ゲームが中盤から終盤に変わろうとする場面で、丸山が『復讐マス』を踏んだ。
ここでは「選んだプレイヤーから30,000$奪う」か「選んだプレイヤーを一回休みにする」のどちらかを行える。
なぜ、人生の中に復讐をする機会を与えてしまったのか。
これ、子供もやるんだぞ。復讐した方がいい、みたいなことを教えたらいけないだろ。
そう思っていると、丸山と目が合う。丸山は笑っていた。
一回休みには正直あまりメリットがない。ルーレットには1~10までの目があるわけだし、所持金が減らなければ、負けない。ということは、
「空波君。30,000$もらうね。」
俺から30,000$を奪った丸山。ランクアップしてからさらに運が良くなったのか、俺との差は気づけば25,000$まで近づいていた。
とはいえ、ここから巻き返せばいいだけ。
俺がそう考えていると、一が『復讐マス』に止まった。
…………。
「雫く~ん。30,000$、もらうねぇ。」
キモいしゃべり方をしながら俺から30,000$を奪った一。
「あったまってきたな……!」
「もう、5月ですからね。」
二葉からの冷静なツッコミを受けつつ、ゲームは終盤戦に突入していく。
普通の道か、ギャンブルか。『ストップマス』に止まり、奇数ならば普通、偶数ならばギャンブルの道に進むことになる。
「ギャンブル!ギャンブル!」
「ギャンブルしてください!」
「ギャンブルだと不正しそう。」
俺、今2位なんだけど。1位の丸山はすでにギャンブルコース行が確定している。
俺がルーレットを回すと、出た目は3。
「つまらねぇ…。」
「はぁ、ダメダメですね。」
「不正不正。」
こいつら、黙ってくれないかな。
ゴールまでもうすぐだ。決算日があるが、誰も借金をしていないから関係ない。
ゴールした順で報酬が多くなる。
1位が100,000$、2位が80,000$、3位が50,000$、4位が30,000$、5位以下は10,000$だ。
丸山と二葉がギャンブルコースで足を止めたため、現在ゴールに一番近いのは俺、次点で丸山、一、二葉と続いていく。
所持金額で言えば、俺と丸山がトップ争い。二葉が少し遅れていて、最下位が一だ。
このままいけば、俺の勝ちだろう。そう思っていた時、二葉が『復讐マス』を踏む。
なんでそこにもあるんだよ。
内容は『一人から100,000$もらう』か「1人を一回休みにする」かの二択。
「待て待て待て待て、落ち着いてくれ。」
「し・ず・く・さ~ん。」
俺の静止が届くことなどなく、小悪魔、いや、悪魔のような声で二葉が話しかけてくる。
「100,000$もらいますね。」
かわいらしく言いながら、無情にも俺から100,000を奪う二葉。これで一気に二葉が1位に。俺は3位まで落ちた。
「人間風情が……!」
「正体表しましたね。」
こいつ、ツッコミ切れすぎだろ。
一が最後にゴールしてゲームが終わった。
最後に順位決めを行う。
今の所持金、買った家の4倍の金額、持っているお土産カードに書かれた金額の2倍。
この3つを合計して、勝敗が決まる。
結果は…………。
4位黒本一。327,000$。
3位丸山環。573,000$。
2位黒本双葉。624,000$。
1位空波雫。679,000$。
となった。
「結局、雫が1位か~。」
俺が一と呼び出したから、一も俺のことを名前で呼ぶようになった。
「家、一番高いの買ってましたからね。お土産カードもたくさん持ってましたし。」
2位の二葉にも55,000差をつけて圧勝した。
「不正じゃなかったよね。ごめんね、疑って。」
丸山は、ずっと不正不正うるさかった。
「雫は楽しくなかったか?」
最初に言った俺の言葉を覚えていたのだろう。不安そうに聞いてくる一。
「いや、やってみると案外楽しかったよ。今日はありがとう。」
俺の言葉に顔をほころばせる3人。
「おいおい、何帰るみたいな雰囲気を出しているんだよ。まだまだ遊び足りないぞ。」
「そうですよ。もっと遊びましょう!」
「次は負けないからね。」
太陽はまだ真上にいた。
「だったら、次はなにをする?」
今日はまだまだ終わらない。
ちなみに、この後いろいろなゲームをしたが、調子に乗って全勝してしまった。
3人は少し涙目になっていた。
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