第11話 イケメン先輩の恋路

霊夢だまゆめがクラスメイトと馴染み始めたため、そろそろ昼休みは自由に過ごしてもよさそうだ。




最近はクラスメイトから相談されることも少ない。




というより、クラス内でいくつかのグループが生まれたのか、俺に相談せずにグループ内の友達に聞くようになっている。




俺は今まで、昼休みというクラスメイトと仲良くなれる時間に、別の場所に行っていたため、どのグループにも入っていない。




とはいえ、これからの学校生活を考えると、複数人と仲良くなるのは悪くないだろう。




手始めに黒本が入っているグループに行ってみるか。




黒本、黒本…、いないんだけど。




あいつもしかして、彼女のところに行ってるのか?




毎日行っているのだとすれば、友達はできているのだろうか。




そんなことを思っていると、隣から話し声が聞こえてくる。




木霊もグループに入っている。そのグループのメンバーと机をくっつけて弁当を食べていた。




「木霊さんはどうやって悩みを解決したの?」




木霊は不登校になっていた理由を、大きな悩みがあったから、と具体的なことははぐらかして説明していた。




口を開こうとする木霊を見て、俺は嫌な予感がしたため、静かに席を立つ。




空波からなみが毎日来て、私の悩みを解決してくれたんだ。…ちょっと強引だったけど感謝してる。」




そこまで言うと照れたように、チラリと俺の席の方を向く。




すでにそこには誰もいなかった。








あいつ絶対「空波のおかげ」とか言っているの違いない。




いつもの階段へと向かいながら、俺はそんなことを思う。




それでまたつまらない相談が増えたらどうするつもりだ。




黒本といい、小中の道徳の授業で「恩は仇で返しましょう」と習ったのかよ。




一階から四階まで上がり、反対の校舎へと向かうと、かなり時間がかかる。




階段までつくと八神銀が一人で弁当を食べていた。




八神は俺に気づくと声を出した。




「おぉ!空波か。久しぶりだな。最近は来ていなかったが何かあったのか?」




こいつもしかして毎日来てるのか?




「不登校だった生徒が来たんだが、席が隣だったから慣れるまでいろいろ手伝ってた。」




「お前も意外と面倒見がいいというか、お人好しなところがあるんだなぁ。」




俺は階段を上ると、八神の隣に座り弁当箱を開く。




「会長は来てないみたいだけど。」




俺の質問にため息をつきながら八神が答える。




「そうなんだよ…。生徒会が忙しいみたいでなかなか来てくれなくて。」




そういえば、こいつ生徒会長のことが好きだったな。




前にからかってから触れてこなかった話題だ。




俺はそのことを思い出して八神に聞いてみる。




「会長のどんなところが好きなんだ?」




俺の言葉を聞いた八神がご飯を吹き出した。汚い。




階段の下の廊下にある手洗い場から雑巾を持ってきた八神は、自分が吹き出したものを拭きながら声を上げる。




「きゅ、急に何言ってんだよ!す、好きなわけないだろ!」




初心うぶかよ。




こいつモテすぎて、女と距離を置いていたから人よりもこういった話題に耐性がないらしい。




「はぐらかさない方がいいぞ。俺のクラスにも会長のことが好きな奴はいる。学校全体で見たら何人もいるだろうな。それだけ会長の人気は高い。」




この前、会長と話をしながら歩いていた時感じた視線から、会長の人気はある程度把握している。




生徒会長というだけでは、あれほどの人気は得られないだろう。




見た目がいい、性格が面白い、有能、などなど様々な要素を会長は持っている。




俺の言葉に八神は、ハッとして言葉を出す。




「そうだ、そうだよな…。俺は会長のことが好きなんだ。誰にも譲りたくない。」




まっすぐだ。相当思いが強いらしい。




「俺が手伝いますよ。先輩の恋路。」






「急に敬語になられたら気持ち悪いな。」




「お前が女子に頼んで女子更衣室の盗撮していたこと、会長にばらすぞ。」




「やってねぇよ!!」




「でも、できるだろ?」




「…………、できそう。」




こいつ洗脳してるのかと疑いたくなるぐらいモテるからな。




「それはいいから。」




八神はくだらない会話に区切りを入れると、真剣な顔をして、改めて俺に話しかける。




「本当に手伝ってくれるんだな?俺の恋を。」




「あぁ、手伝うよ。面白そうだから。」




俺の言葉に嬉しそうに八神は笑う。




早速、作戦会議でもしようかと考えていたら、足音が聞こえてきた。




「会長がきたな。」




なんで足音でわかるんだよ。




俺が八神の言葉に引いていたら、本当に会長である夜桜よざくら千草ちぐさが来た。




「いやぁー、最近は来れていなくてすまないな。」




「いえ、大丈夫です。会長が忙しいことは知っていますので。来てくれただけでうれしいです。」




会長に対しては、かなり丁寧にしゃべるな、こいつ。




他の三年に対してもこんな感じなのだろうか?




「お前たちはいつも二人でいるのか?仲良しだな。」




含みのある笑みを浮かべる会長。




「いや、違いますよ。いつもは八神がぼっちで食べてます。」




「おい!?」




俺の言葉に驚く八神。事実だろ。




「そうかそうか、八神は相変わらずだな。」




笑いながら話す会長の言葉に、八神は少し顔を赤くする。




八神に対して前々から思っていたんだが…。




ふと、顔を動かすと会長と目が合う。




その赤い目からは、俺の考えを読み取っているような雰囲気が伝わってくる。




会長が俺に笑いかけてきた。




やはり、会長も同じことを思っていたのか。




八神をからかうのは面白い、と。




いうならばおもちゃだ。いじっているとすごく楽しい。




「な、なんですか。二人してニヤニヤして。」




楽しみを共有した俺と会長の顔を見て不審に思う八神。




「いやいや。」




「別に~?」




俺たちの言葉にさらに不信感を積もらせていく。




直感的に恐怖しているのだろう。おもちゃだと認識されていることに。




しかし…、会長からの八神への評価は恋愛とは程遠いな。




これは道のりが長くなりそうだ。




先ほどまでニヤニヤしていた会長は、思い出したかのようにポケットから何かを取り出す。




「お前たち、まだ昼食は残っているか?」




会長の問いかけに俺と八神は自分の手元に視線を落とす。




俺は3分の2、八神は4分の1ほど残っていた。




「何かあるんですか?」




俺が聞くと会長は、不敵な笑みを浮かべながら、右手に持っているものを俺たちに見せてくる。




「弁当ですね。」




「前々からそのピンクの弁当入れ、可愛いと思っていました。」




「なんで左手を見るんだよ!あと八神!恥ずかしいこと言うな!」




照れながら左手に持っている弁当を隠す。




確かにウサギのイラストがあってかわいかったな。




そう思いながら会長の右手を見る。




「鍵?どこのですか?」




八神が口にした疑問に対して、会長が答える。




「屋上だ。」




そう言うと、俺と八神の後ろにある扉を指さす。




この階段は屋上へとつながってはいるが、




「屋上は生徒が無許可で入ってはいけませんよね?たとえ会長でも。」




八神が確認すると、会長はうなずいた。




「そうだ。だからバレないように無断で持ってきた。」




こいつマジか。




八神といい、なんで無断で持ってくるんだよ。




「それって大丈夫なんですか?」




心配そうに口にする八神。




お前、新聞無断持ち出し常習犯だろ。…、今日も持ってきてるー。




階段と屋上の間には狭い空間があり、そこには使われていない机が二つ置かれている。




その上に、当然のように今日の新聞が置かれていた。




「あのな、八神。校則はバレなければ破っていいんだよ。」




こいつ、なんで会長が務まっているんだ。秩序の敵じゃねぇか。




「確かに。」




「八神は黙っとけ。」




「なんで俺だけ!?」




俺たちの会話をニコニコと見守っていた会長が話を続ける。




「というわけで、屋上で昼食を食べようではないか。」




「そうしましょう!」




「俺も同罪か…。」




正直、面白そうなので、止めずに賛成する。




俺と八神の言葉に満足そうに頷くと、会長は屋上の扉を開く。




あまり出入りがないのか、埃が舞う。




扉の先には、静かで開放的な世界が広がっていた。




この高校で最も空に近い場所。




屋上というのは夢見る学生にとって、憧れの場所なのだ。




そんな屋上に上がって、初めて出た感想は、




「「「汚い…。」」」




全員の言葉が被る。




そう、汚かったのだ。先生たちであってもほとんど来ない場所なのだろう。全く掃除がされていない。




「日差しが強いな…。」




会長が呟く。




その言葉通り、いつもよりも日差しを強く感じる。太陽に近く、日光を遮るものがないからだろうか。




俺たちはすぐに引き返し、扉を閉めた。




「思っていたより嫌なところでしたね。」




夢を打ち砕かれたみたいで、あまりいい気分ではない。




落ち込みながらも、階段の上に座り、3人で弁当を食べ始めた。




「だが、諦めたくないな。何か方法を考えておくよ。」




食べながら、会長がそんな前向きなことを言う。




こういうところも八神が会長のことを好きになった理由の一つなのだろう。




そろそろ5時間目が始まる。




弁当を食べ終わった俺たちは、それぞれの教室へと戻っていく。




八神の恋を手伝う。改めて俺は、そう決めた。










教室に戻ると、なぜか疲れた様子の木霊に睨まれた。




なんで?




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