第5話 生徒会長
昨日、昼休みの平穏と男の友情を手に入れた俺、そらなみ《からなみ》
授業が終わってからすぐに来たはずなのに、階段の一番上にはすでに、八神銀の姿が見えた。
どんだけ教室にいるのが嫌なんだよ。
八神は弁当を食べることなく、新聞を見ている。
「その新聞どこから持ってきたんだ?」
「学校の図書館。」
「図書館から持ち出してよかったっけ?」
「いや、だめだけど。だから無断で持ち出した。」
俺の問いに答える八神。こいつマジか。
俺が引いていると、八神は言葉を続ける。
「読み終わったら返せばいいだけだろ。それに図書館の司書は、俺の顔を見たら怒っていても許してくれる。」
常習犯であることをカミングアウトする八神。
そういえば図書館司書は女だったことを思い出す。
俺は八神の後ろに回り込み、新聞の中を覗き込んだ。
ある大企業が特撮の撮影に全面協力しているらしい。
ここの近くで男の死体が見つかった?物騒だな。
あとは怪盗からの予告状がきてたり…………、怪盗!?
この時代に?フィクションじゃなくて?
俺が驚いていることに気づいたのか八神が声をかけてくる。
「お前、もしかして『怪盗α』のこと知らないのか?」
「誰だよ。」
俺が即答すると、八神はあきれたように言う。
「お前さぁ、ニュースはちゃんと見とけよ。この社会、情報を集めるのは重要なことだぞ?」
説教じみたことを言いながら話を続けてくる。
「『怪盗α』は一年前ぐらいに登場した正体不明の泥棒だ。毎回盗む前に、予告状を出すから怪盗だなんて呼ばれてる。」
ここまで言うと、一呼吸置き再度話始める。
「重要なのはここからだ。『怪盗α』が盗んだ後、盗まれた奴の悪い噂が流れ始めるんだ。中には実際に悪事を働いていた証拠なんかも流出したりしている。
これに『怪盗α』が関わっている、そう考えるのが普通だ。だから一部では義賊だという人もいるらしい。」
そうして説明が終わる。
「馬鹿馬鹿しい。犯罪者が犯罪を暴いてるのをを正義の味方扱いかよ。」
俺の辛辣な意見に八神は苦笑いをしながら答える。
「まぁ、そんなやつのところにしか盗みに入らないから、一般人は高みの見物みたいに物事が言えるんだろうな。」
そんな話をしていると、誰かが近くまで来ているのがわかった。
その人物は迷わずこの階段まで来て、
「おお!一年生が新しく来てるじゃないか! 八神ぃ、教えてくれてもいいじゃないか。水臭いな~。」
そう言いながら階段を上り、八神の肩に腕を置くと、八神の頬を指で何度も触る。
こいつ、どこかで見た気が…………、あぁ、生徒会長だ。確か名前は、
「夜桜…
「そうだ、夜桜千草だ。この学校の生徒会長をやっている。入学式の時もあいさつしたからな、私の言葉印象に残ってくれたか!うれしいなぁ。」
立ち上がりながらそう言う夜桜。身長が高い、175ある俺と同じぐらいじゃないか?
整った顔の中でもひときわ目立つキラキラとした赤い目。その奥からは自信と好奇心が感じられる。
俺が会長の名前を憶えていたのは、クラスメイトの一人がこいつのことを好きで、俺に何度も相談してきたからなんだが。
正直、入学式でなんて言っていたのか、全く覚えていない。
「え、えぇ、ものすごくとても印象に残っていますよ。」
「お前、覚えてないだろ。」
俺の態度にジト目になりながら突っ込みを入れる会長。
その目を躱すように、俺は疑問を口にする。
「なんで、一年生だってわかったんですか?」
中学校までは胸に名札を付けていたから、そこを見れば学年がわかる。
だけど高校生になってからは一目見ただけでは何年生かなんてわからないと思うんだが。
俺の言葉を聞いて、きょとんとした後、会長は八神の方を向く。
「お前、話してないのか?」
「昨日来たばかりなんですよ、こいつ。昨日はいろいろあったんで話す機会がなかったというか……。」
八神は昨日泣いていたからな。号泣。泣きすぎて日本の川が増えるところだった。
「それで、話してないこととは?」
俺が言葉を促すと、会長が答えてくれた。
「実は、この学校には『七不思議』があるんだよ。」
七不思議?フィクションでしか聞いたことのない。
ネタ切れになることを防ぐため、てきとうな謎を作っておき、なにも思いつかなくなったら、その謎を明かして時間稼ぎするためのものじゃないのか?
実際にあるものなのか?
俺の疑問をよそに話を続ける会長。
「その中の一つが、『学校の階段』だ。毎年一年生が一人だけこの階段に、誘われるようにしてやってくるんだ。一昨年は私が、昨年は八神が、そして今年はお前が。」
これ残りの6個が出てくることはあるのか?
そこまで考えた後で、思考を会長の言葉に戻す。
なるほど、だから俺が一年生だと思ったわけか。
「そいえばお前、名前はなんていうんだ?」
「空波雫です。」
会長の様子から少なくとも5年は同じようなことが毎年起こっているのだろう。
「でも、『七不思議』として知られているのであれば、他にも誰かがここに来そうですけどね。」
俺の当然の疑問に笑いながら会長が答えようと、
「なんで俺の時は最初からため口だったのに、会長には敬語なんだ!?」
…………、する前に八神がどうでもよいことを言ってくる。
「うるさい。そういうところだぞ。」
「そうだぞ、今私が話そうとしていたのにしゃべるな。残念イケメン。」
俺と会長からの辛辣な言葉に心がダメージを受けたのか崩れていく八神。
「それで、さっきの空波の疑問なんだが、一般の生徒は『七不思議』を知らない。
そもそも『七不思議』と言い出したのがこの階段に昔きた人たちらしい。」
八神を無視して俺の疑問もに答えてくれた会長。
なるほど。だとすれば他の生徒が来ないのも納得か。
「ちなみに、他の七不思議について教えてくれますか?」
俺はさらに疑問を投げかける。
「いや知らない。」
「は?使えな。」
「え?」
「いや、何でもないです。」
会長の答えについ本音が出てしまった。
「なんでも、階段に集まった3人で探してくれというのが、初めて言い出した人の意志らしい。私たちは探すつもりがなかったから、ここのことしか知らないんだ。」
ただ、と言葉を続ける。
「私は今年卒業だし、謎を抱えたままで終わりたくないんだよ。
というわけで、如月もきたわけだし、探すとしようか。『七不思議』のあと6つ。」
「頑張ります、会長!」
会長の提案に、先ほどまで崩れていた八神が復活して元気よく答える。
「空波、お前は気にならないか?」
会長の問いかけに対して俺は、
「七つわかってないのに、七不思議っていうのキモすぎるんで絶対知りたいですね。」
それを聞いた会長は満足そうに笑う。
「そうかそうか。では今から………、そいえば5時間目体育だった。では、また明日会おう!」
そう言うと走って教室に戻ってしまった。
なんというか、自由人だな、といった印象を受ける。
それにしても、会長がきてからずっと思っていたことがある。
「会長、あいかわらず自由奔放な人だなぁ~。それでいてついて行きたくなるというか、カリスマ性があるよ。空波もそうは思わないか?」
…………、こいつだよ、八神。
ずっと様子が変だ。
昨日「女嫌い」って言いながら大号泣していたくせに、なんで女の会長には嫌悪感のある態度じゃないんだ。
というか、「一人になるためにここに来た」って言っていたじゃないか。
会長が、今は卒業したもう一つ上の先輩がいたのに、なんで一年間残っているんだよ。
!まさかこいつ、
「おい、なにニヤニヤしてるんだよ。気持ち悪いぞ。」
八神の言葉を受けつつ、俺は八神のモノマネをする。
「オレモテスギテオンナキライ」
「!そんな顎しゃくれてねぇよ!!!」
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