第32話 舞踏会?踊れるとでも?

「いやあ、良い戦いであった。」


 セルジュが止めに入った。

 勝負あったな。「双頭のグリフォン」のリーダー、アーヴィンの勝利だ。

 セルジュはそのまま開会宣言やらなんやらやっている。


 事務方のために用意された天幕を見るとディーナが忙しそうに調整しているな。

 アリシアも後学のためにディーナに着いて来たようだ。

 ちらりと目が合った。楽しそうで何よりだ。


「しかし、暇だな。」


 することが無い。まあそれはそうだ。俺の専門は暴力。

 見ることではなくする側であったのだ。

 いや、する側でしかなかったのだ。


「おう、待たせたな。次は誰だ。あの黒い人が出るのか?」


「ああそのはずだ。たしか『黒曜の錬磨』とか言ったか。」


「次の試合は魔法対決のはずだが、しかしあいつ本当に魔法使いか?」


 セルジュが言うのももっともだ。

 魔法使いに筋肉質な印象はない。でっぷりと太っているかやせぎすか、両極端の印象だ。


 しかし、「黒曜の錬磨」のリーダーにして長男のアクバルは違う。

 細身ながら筋肉質な印象。しかしそれは198㎝の高身長のもたらす錯視であり、実際の腕や胸周りはかなり分厚い。

 そう俗にいうインテリマッチョなのである。


「しかしよく仲間になってくれたな。『黒曜の錬磨』って世界の果てを目指して旅行中のパーティーと聞いてたぜ。」


「はは、まあ意気投合してね。」


 ヘラの肌色もそうだが、このあたりだと黒い肌は珍しい。

 日差しの弱い地域だからあまり長居はしたくないと言っていたな。

 彼らの母語であろう掛け声が聞こえるとアクバルは中央に出てきた。

 対戦相手は待ちきれないのか既に出てきている。


「あれあいつら五つ子なのか?」


 セルジュのやつ目ざといな。この距離で気づくか?


「いや、双子と3つ子らしい。アクバルとイクバルが双子でその弟に3つ子のウクバル、エクバル、オクバルだ。」


「なんだその名前の付け方適当だな。」


「ほかにも子供がたくさんいるらしいぞ。そもそも母親が6人くらいいるらしい。」


「ひゅー。すげえハーレムだな。めまいがするぜ。」


 セルジュは食費が、食費がとか言ってる。

 もしかして貴族って金にならないのか?


「あ、もう決着着いてるじゃん。」


「見逃した。」


 水煙が沸き上がり、セルジュの騎士が敗北していた。

 アクバルのやつ初手から太陽の魔術を使ったらしい。

 白い歯がきらりと光った。


「おうおうおう。また負けか。おめーらしっかりしろよ。まあ今の二人は事故みたいなもんだが。」


 セルジュが荒れてきた。なんとなく予想は着いてたけどこういうやつだよな。

 ちょっと安心してきた。俺に対してだけヤバい奴じゃないんだ。


 武闘会は進んだ。相互理解も進んだ。

 「双頭のグリフォン」の魔法使いエヌタは敗北したし、ウクバルも負けた。

 印象深かったのはエフチカだ。小柄な体格に見合わず棍を振り回して相手の僧侶に勝利していた。

 君、大丈夫だよね。奇跡、使えるよね?


 かくして舞踏会はつつがなく終了した。

 閉会のあいさつで棒読みをかまし、ぼっちゃんに過ぎないことを露呈させた後、セルジュが爆笑している事態を何事もなかったと言い切る胆力があればの話だが。


 まああるんですけどね。

 ラツァライの街に戻ってきた。

 セルジュは明日の朝にここを発つらしい。

 しかし、うちの冒険者は宴に参加してきて飲めや歌えやしてきたようだ。


 あれ、エフチカって酒飲んでいい年齢だっただろうか?

 いや待てよ。聖職者って酒いいのか?知らね。

 気づかなかったことにしよう。


「それよりディーナ、今とんでもないことに気付いたんだけどさ。」


「はいなんでしょうか。」


「俺、なんで字が読めるの?」


「え?そんなことあります?」


「え?そもそも読めるの?ああ読んでたわね。」


 ディーナとアリシアが驚く。まあそれはそうだ。


「うん。俺もさっきまで気にしてなかったんだけど、冷静に考えておかしくないか?」


「うーん。正直よくわかりません。いいんじゃないですか血の力ということで。」


 何?ディーナなら何かしら知っていると思ったのに。残念だ。


「まあ現状それしかないよなあ。不思議なものだ。今までの普通が気づいた途端不気味になる。」


「まあそういうものですよ。人生って。何かを知ることは、今までの自分ではなくなることなのですから。」


「分かったようなことを言うじゃないか。」


「ご主人様に嫌というほど分からされましたから。」


 おお、これは手厳しいね。


「こら、ディーナさん。アルをからかうんじゃありません。」


 え?からかわれていたのか。


「ふっふふ。面白い顔をなさるのですね。最初は敵でしたからね。あのくらい普通だと思いますけど、気を許していいただけたようで何よりです。」


 く、いっぱい食わされたな。

 やはり年上と言うものは厄介極まりないな。


「ご主人様?今何か失礼なことを考えませんでした?」


「ん?別に考えてないぞ。」


 アリシアとディーナの空気が一瞬凍った。

 不必要に怒らせないようにするのが身のためだな。


 あれ?俺、主人だった気がするんだが。


「まあいいか。平和が一番だ。」


 それを聞くとアリシアは笑った。

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ブラック労働・奴隷的苦役にぶち切れた俺は世界を血で染めることにしたのだが、愛を知ってしまった。~露暴の意思~ 戦徒 常時 @saint-joji

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