第31話 武闘会

「待ちわびたぜ相棒。」


 こいつ呼び方が安定しないな。

 セルジュの無茶ぶりに応えて至急戦闘したい者を集めた。


「でもいいのか?本気でやってしまって?」


 双頭のグリフォンのリーダーであるアーヴィンは爽やかな笑顔を見せている。

 彼の得物の代わりを担う二刀のブロードソードを大事そうに撫でながら。

 愛刀を刃引きするわけにもいかないからセルジュの軍から借りたのだ。


「ああ。それくらいでちょうどいいんじゃないか?むしろ相手は活躍の場を奪われた騎士様だからな。」


「そうか。ならば胸を借りるつもりで戦うとしようか。お貴族様の高雅な剣にも興味がある。」


「おっと、うちの連中にはあまり期待しないでほしいな。勝てば良かろうなのだとかきっと思ってるぞ。」


「そうだそうだ。どんな悲惨な勝ち方をしても死人に口なしだからな。きっと獅子奮迅の戦闘の結果、華々しく散ったことになるのさ。戦史は勝者が作るものだからな。」


「え?本当に和睦を結んだんですよね?アルテーム様?」


「ほら、第一試合が始まるぞ。死ぬなよ。」


「え?ちょっと。和睦したんですよね?アル様?アル様?」


 叫びながら連れられて行った。

 まああいつなら殺気に気づくだろう。

 よしなにやってくれ。


「はっはっは。お前も酷いことをするじゃないか、相棒。」


「君ほどじゃないよセルジュ。」


 急ごしらえで改造された野戦陣地をしげしげと眺める。

 ここはセルジュと俺の専用観戦席だ。


 しかしこの軍、俺とヘラの夜襲に気付かなかったとはいえ、やはり優秀だ。

 陣地の基本的な構造ががらりと変わっているはずだ。

 ラツァライの街前に布陣したときに遠目から見ていた陣地はこんな形状をしていなかったはずなのだ。


「始め!」


 しげしげと陣地を眺めていたら試合が始まった。

 開会の辞はこの後にやるらしい。

 血気盛ん過ぎない?これは武闘会じゃないのか?という疑念が頭を過ぎったがそんなことはどうでもよくなった。


「なかなかやるな。アーヴィン。」


 それはもちろん普通の人間にしてはという留保がつく話だ。

 しかし、不規則な双剣の軌道はかなり対処しにくいようだ。

 相手の騎士はフルプレートアーマーでラウンドシールドとブロードソードを使っているが、なんどもひやりとする瞬間がある。


「ほう独特なリズムだ。8分の3.7拍子といったところか?」


 セルジュは何を言っているのかよく分からないが、多分リズムが独特ってことが言いたいんだろう。


「しかしうちのも負けてないぞ。俺が鍛えたからな。剣戟の嵐を凌ぐ技量はすごいぞ。」


 言われてみればアーヴィンの対戦相手もなかなかだ。

 フェイントに引っかかったりしているが一本がなかなか決まらない。

 攻勢とは裏腹に手間取っているように見えるのはアーヴィンにも見える。


「きゃー、アーヴィン様!頑張って!」


 観戦しに来た冒険者ギルドの受付嬢だ。

 お前戦わないじゃんと言ったがどうやらアーヴィンのファンらしい。

 「双頭のグリフォン」の魔法使いエヌタが教えてくれたのだ。 

 彼女曰く「あいつは狙ってるよ。うちのリーダー。」


 まあいいんじゃないかな。自由恋愛で。

 しかし、黄色い歓声でお相手はご立腹のようだ。

 無理やり攻勢を開始してきた。

 フルフェイスのヘルムで顔は確認できないが、アーヴィンほど色男でもないのだろう。


「はっはっは。灼けるじゃねえか、この色男!」


 セルジュはヤジを飛ばしてる。

 こう見ると年相応のオヤジだ。


「それにしてもあの騎士、怒ってるな。それもすさまじく。」


 形成が逆転しつつある。特に盾を絡めた武器破壊がいやらしい。

 アーヴィンがじりじりと後ずさりを余儀なくされている。

 まあ一進一退の攻防は演じたというところだろう。

 にやりと仄暗い笑みがアーヴィンの顔に浮かんだ。


「【デュアルブレイク】!!」


 なんか叫んだ。二刀を十字に重ねてぶっ叩くだけの技。

 出が早くさっきまで守勢だった人間に出せる速度ではない。

 盾を持つ手を吹っ飛ばした。


「おい、あいつ骨折れてないか?」


「おう、本当だな。でもまだ止めさせないぞ。」


「え?本気か?」


「戦場で骨が折れてますなんて通るわけねえだろうが。折れてでも勝つんだよ。」


 セルジュの奴熱くなってるな。俺もこのあと戦う羽目になりそうでどうにも嫌だ。


「おいおいマジかよ。」 


 騎士は盾を捨てた。

 アーヴィンが驚いていることからすると、覚悟の表れなのだろうか?


「ん?ああ、意味を計りかねているのか?基本的に盾を捨てることは許されないんだ。自分だけでなく味方を守れなくなるからな。」


「なるほど。その大事な盾を捨ててでも勝つと言うことか。」


「まあそうなるな。やれやれ勝っても怒らないといけないじゃないか。」


 セルジュはそう言ってはいるものの、裏腹にニヤリと笑っている。


「だが、アーヴィンも本気になったみたいだな。」


 覚悟を知ったからだろうか?本気で応えるようだ。


「【クロノスパイラル】!」


 相変わらず何やら叫んでるが、要するに回転切り。

 しかし、左右の剣は相変わらず不規則な軌道を描いており、回転周期が違うのだろうか?


 俺の目にはゆっくりに見えるのだが、剣の回転の向きが急に反転する。

 体の動きからは予想できないタイミングで変化。

 しかも左右の剣速も一致していない。


「うお!伝説の剣技、ありゃ大物だぜ。」


 セルジュの歓声が響いた。

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