第25話 領主軍
都市群は中立を宣言した。
厳密には、「勝手にやってくれ」とのこと。
「町長、何があったんですか?」
「ああ、ようやく彼らにもこの街の実情が伝わっただけですよ。」
冒険者ギルドを中心に直径1.5㎞が円状に消失。
いや、確かにやりすぎたけどさ。
「連発できる力ではないのかもしれませんが、それほどの奥の手を持つ者相手に進んで喧嘩を得るほどの馬鹿者は、他の街に居なかったと言うことでしょう。」
「なるほどね。彼らが好戦的だったのは、こちらの力を知る前ということですか。」
「ええ、お陰で私が自分の街をあそこまで破壊したのかと怖がられましたからな。私は上手くやるように脅されているだけだと強調しておきました。」
「概ねその通りだしいいんじゃないでしょうか。街からすれば、あなたが暗殺された方が困りますからね。それを知らしめておく方がいいでしょう。」
「で、次の問題なのです。要は事実上の中立と言いましたが、放置しただけですから、当然仲間になったわけではありません。すると、多少時間を置いたのちに、領主軍が攻めてくることになったときは領主軍に協力せざるを得ないわけです。こちらは他の市長と違って止まることができません。」
「なんとなく想像がつくけど、なぜですか?」
「前市長は、一応領主の委任を受けて統治していたわけですから、その代理人というか使者を追放してしまったわけです。言い換えれば、領主の命令に謀反の意思がある、というメッセージになります。」
「ま、そういうもんですよね。そして領主に命ぜられて人間なり武器なり出せと言われれば、戦わざるを得ないと。」
「そういうことになります。ただし、他の都市が躊躇するほどのプレッシャーは与えれているわけですから、領主軍の編成にも時間が必要でしょう。」
「ああ、最後に、ここの領主って誰なんだ?」
「セルジュ・アルデリアン様ですね。」
ということで、猶予ができた。
街に出ては血を盛り、戦利品のメンバーにも血を盛らせた。
そうして10日ほどが過ぎた。
この10日間は何もなかったわけではない。むしろヘラの活躍が目覚ましかった。
たいていの密偵は彼女が捕まえた。
そしてそこから先はディーナの本領発揮の時間だった。
「で?君は誰に頼まれて、誰を殺すように頼まれたのだ?」
「言うわけないだろう。」
「そもそも隣国の密偵かな?」
「……。」
「そうか心変わりしたらすぐに言ってくれ。」
そう言うとディーナは剣を持って切り裂いた。血の集まるところ。普通は失血多量で死ぬだろう。
しかしディーナは回復魔法のスペシャリスト。
二日間耐えた者は敵味方問わず賛辞が与えられ、俺の戦利品にしておいた。
「おお、壮観だな。」
眼下に五千の兵がずらり。
これはいわゆる正規兵だけで、他に雑多な装備の冒険者集団も近くにいる。
ラツァライの街の近郊まで進軍していた。
なにせ冒険者ギルドの事務方は、既にこちらの手の内。
派遣した冒険者の数だけでなく、名前、得物、戦闘スタイル、依頼の達成実績まで筒抜けだ。
そして、「黒曜の錬磨」、「双頭のグリフォン」も当然の如く俺討伐作戦に参加していた。
しかも、実績と伸びしろの双方があるパーティだ。
他の冒険者隊を指揮する立場でもある。
つまるところ、領主軍の動きなど筒抜けであったわけだ。
「じゃあ、ちょっくら行ってくる。」
「留守は頼んだぜディーナ。」
「はい。お二人ともご武運を。」
俺とヘラは夜陰に乗じて切り込む。
あらかじめ敵を攻撃して数を減らしておこうという算段だ。
敵はまだ街を視認していないせいか、油断している。
彼らはまだ、自身が狩人だと信じてやまない。
教えてやらねばならないだろう。獲物の一生は短く惨めだ。
スニーキングで陣地に潜入する。
【
突き刺して血を一気に吸う。
門番の背後を取り、首筋。隣でヘラも黒い刃を突き立てる。
そちらも血は飛び出さない。
俺が吸ってしまうからだ。相変わらずどうやって吸うのか、吸われた血はどこに行くのかが分からない吸血だが、その吸収可能範囲、備蓄可能量は増えてきている。
成長を感じるな。
そして成長を感じる点はこれだけではない。
ヘラ流の気配の消し方が身についてきた。
人間には他人の心音など聞こえないらしいので、止める必要は無いこと。
力んだ筋肉は存在を気取られやすくなるので、脱力しきり、自然な呼吸をすること。挙げればきりは無いのだが、無音は結構うるさいらしいのだ。
それが自然音であると錯覚させる。空気が撫でるように、死を押し当てる。
死神の所作が身についてきた。
やはりヘラも抱いてみたのが、良かったのかもしれない。
体の使い方への理解が格段に深まったのだ。
もっとも格付けには失敗した。これが一日の長と言うやつか。
しかし、様々な目的とそれに適合した体の使い方があることを理解できた。
傾向と対策を繰り返して、攻略・蹂躙を実行できるように研鑽を積もう。
……今日は早く帰るか。
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