第24話 新しい仲間()

 都市間抗争にあって、おそらく数で劣る以上、動くのは速い方がいい。

 俺はさっそくヘラを連れて隣の都市に来ていた。

 なんでもここらで一番冒険者ギルドが大きいらしく、猛者も集うとのこと。


「しかし、もったいないことをしたね。ご主人様が倒したのは、【雷光】のルシアっていうここらじゃ名の通った魔女だったのさ。」


「ああ、だが、あいつは気に入らなかった。昔の自分を見ているみたいでいやになったんだ。表向き降参しつつも隙を窺って背中切りに来る姿勢がむかついた。戦術として正しいのは認めるがな。」


「あー、それで体型が似ているディーナを『蹂躙』してたのか。」


「うるせえ。それより仲間を増やすんだから引き入れたい奴を選んでくれ。【爪紅】で注ぐ。」


「首筋に牙を立てなくてもよくなったのか。便利だね。ただ、酒に混ぜた方が平和だね。」


「分かった。ただ獲物は優秀な奴にしとけよ。お前の代わりが務まるくらいのな。」


「お、あたしを休ませてくれるとは有り難いねえ。いい主を持ったもんだよ。」


 夜警はヘラの仕事で、替えが効かなかったのだ。


「違うな。その減らず口を教育するだけさ。休めると思うなよ。」


「はっ、お嬢さん方と一緒にしないでくれ。あたしはそっちも上手くやるのさ。」


 軽口を叩きながら、地下の下水道から侵入した。




「どうだい?私と一杯やらないか?」


 作戦はこうだ。

 ヘラが一人、仕事終わりの冒険者をギルド内部で待ち伏せし、手ごろな冒険者を酒席に誘う。

 彼女のセーフハウス、あるいは仮住まいは各町にあるらしく、そこで酒席を催すこともしばしばあるらしい。


 ヘラが冒険者としての一面を見せているのはどうも気味が悪い。

 確かに表向きヘラは凄腕冒険者として認識されているから、誘われれば着いていきたくなるのだろう。


 そして、闘縁の誓いを結ぶにあたっては、牙を突き立てる必要までは無いらしく、俺が血の力によって生み出した血を取り込ませればいい。飲ませるだけでも効果があるようだ。これは俺が裏路地で試した。


 もちろん首筋にガブっといったときほど強力な効果は発揮しないが、ちょっとした指示なら聞いてくれる。

 そして断れなくなったところで血入りのワインを勧めて完全に支配下におく。


「君が羨ましいなあ。ヘラさんの下で働けるなんて。分かってるか?凄腕だぜ。」


 なぜだか誇らしそうに喋るのはアーヴィン。

 5人組のパーティ「双頭のグリフォン」のリーダーである。

 優男だが戦う細身の筋肉質。双剣使いだけあって、余分な筋肉は重りになるのだろう。


「はい。正直、凄さのすべてが分かる気はしませんが、凄みは感じますね。」


 女の声って出すの難しいな。まあばれてない。口紅も少し引いたし、頬にも色を指してきた。今のところ少女だと思われているようだ。

 俺はお尋ね者だからな。これくらいするさ。


「そうだろうさ。俺たちも5人でヘラさん一人分くらいの働きはしたいものだよなあ。あ、肉もらってもいいかい?」


 そう言うのはサブリーダーのオイゲン。大楯を振うガードナー。

 その重量感ある盾は鈍器にもなるらしく、それをひょいひょい動かせる膂力は半端ではない。

 大柄で2mくらいはあるだろうか。


「なあに言ってるんだい。褒めたってなにも出ないよ。」


 ヘラが気恥ずかしそうに装っているのが分かる。

 正直ここまで素性を隠し通せているとは思わなかった。

 というより、本当はこっちの方が素なのだろうか?


「アル君、もう一杯頂戴。」


「はい。ただいま。」


「もうエヌタったら、飲みすぎてない?」


「いいの。それに飲みすぎたら、エフチカが治してくれるじゃん。」


「はああ!主の奇跡をなんだと思ってるのよ。悔い改めないなら使ってあげないわよ。」


 女性陣も元気だ。というか「双頭のグリフォン」は男2女3のパーティ。

 魔女のエヌタ、僧侶のエフチカは仲が良い。

 もしかすると魔力で戦う者同士、仲良くなりやすいのだろうか。


「おいおい、勘弁してくれよ。あたしが運ぶことになるじゃんか。こないだ肩に吐かれたんだぜ。いいか、ぼっちゃん。胸に惹かれてこんな女に手を出したら苦労するからな。」


 と言って高笑いしているのは戦士のエルネスタ。斧を振う右肩の可動域を確保したいのであろう、肩出しの露出が多めの服は目のやり場に困る者も多かろう。


「は、ははは。」


 そしてこれはエヌタへの口撃ではない。エフチカへの口撃なのだ。


「ほおお。エルネスタもだいぶある方ですよね。」


「いやいやエヌタほどではないからな。見劣りしちまうよな。」


 かしましいな。だが、仲は良さそうだ。

 社交的であり、実力と将来性はヘラの折り紙付き。

 うん、しもべとして申し分ないではないか。


 その夜はなぜか酔いが回りが早く、酔いつぶれた5人にさらに血を注いだ。


「さて、ご主人様。はしご酒と行こうか。」


「ああ。道中飲んだくれをガブリと言ってもいいしな。」


 そして俺たちは二人、夜の歓楽街へと繰り出した。

 これはその戦利品だ。


・冒険者パーティ「双頭のグリフォン」5人組

・冒険者パーティ「黒曜の錬磨」近接職男性5人組

・冒険者ギルド女性事務員3名

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