第23話 ラツァライの闇

「ああ、ご主人様、おかえりなさい。随分派手にやりましたね。」


「ああ、今戻った。こっちは大事ないか?」


「ああ、アル、おかえり。」


 お帰りのちゅー。欠かすことは出来ない。そんな恐ろしいこと考えたくもない。


「おかえりなさいませ。ご主人様。大丈夫です。」


「そうそう手筈通り、政治犯は解放しておいたよ。」


「それはなによりだ。都市の首脳部を破壊してしまったからな。賢い奴ほど逃げ出してるだろう。」


 そこに一人の老紳士がやってきた。


「ああ、あなたがアルテーム様。まさかおひとりでやっつけてしまわれるなんて、さすがですね。」


「ああ、この人が前市長か。たしかヘラによると無実の罪で投獄されたとか?大変でしたね。」


「おや、一目でお分かりになるとは大人物ですな。」


「いや、人を見る目が無いと死んでいく場所にいたんでな。嫌でも身に付きましたよ。」


「では、私はこれで上に戻ります。事態を収拾する者が必要ですからな。」


「ええ、後片付けを丸投げするようで申し訳ないがよろしく頼みます。」


 前市長はそう言うと地上の都市に戻っていった。

 そう、ここはラツァライの地下。日陰者たちの巣窟。

 どうやらヘラはここらの元締めで、顔が効くらしい。

 なぜ彼女が前町長等を知っていたかと言えば、正義を信じ裏切られた者の受け皿でもあったためだ。


「この街はずる賢い連中に乗っ取られちまったんだよ。おかげでしばらく商売には困らなかった。ご主人様ならその意味が分かるだろう。」


 都市の掌握に暗殺者が用いられる時点で、その血生臭さは想像に難くない。

 最初は金払いが良かったが、街から金が失われていき、ここに集うようになったということか。


「まさかヘラが義賊になってるとは思わなかったな。」


「当たり前だろ。私達日陰者はな、おてんとうさまが居るから日陰者でいられるのさ。太陽が隠されたら困るのは一緒なのさ。」


 ちょっと恥ずかしそうにしている。

 この作戦の発案者はもちろんヘラだ。

 血の力以外でも味方を作ることが必要だろうと相談したら、このプランが提示された。


「そもそも国がしっかりしてないから正直者が馬鹿を見るのさ。獅子身中の虫はあたしたちだけでいいんだよ。お国が虫になってたら世話ないよ。」


 つまり、この都市は独立を宣言する予定だ。

 それほどまでに国内の荒廃は進んでいるようだ。


 まあ、それはどうでもいい。はっきりしていることは、体制まるごとひっくり返さないと俺はお尋ね者でしかないということだ。

 俺はいいが、アリシアに危害が及ぶ可能性があるからなそれは避けたい。


 じっとアリシアの顔を眺めていると、はにかんできた。

 やっぱりかわいいんだよなこいつ。

 顔を引き寄せてキスをした。俺の方が背が低いせいで困るな。

 そろそろ伸びてもいいお年頃らしいが、人によっては15歳から伸びる奴もいるようだ。将来に期待しておこう。


「ディーナ、血の力について2,3聞きたいことがある。今いいか。」


「はい。」


「雷の魔法を受けた時に防御用のマント?みたいなものが展開されたんだ。これ何か聞いてるか?」


「【血装けそう赤備あかぞなえ】だと思います。極めて防御力の高い装束ですが、短時間しか展開できないと聞いています。というか、それを出すほどの相手と戦ったのですか?」


「ああ、雷魔法を扱う魔女だった。初撃は避けられなかったな。」


「お怪我は?」


「ない。そんなに心配するな。それに発見もあったぞ。魔法使いは杖にできるんだな。背骨を掴んで全身を代償に魔法を発動したんだ。一発限りとはいえ、いい威力だ。壊しすぎたかもしれないがな。」


「ああ!それで一瞬、闘縁の誓いが生じたわけですか。」


「え?仲間が増えたのを感じたのか?そういう仕組みだったのか?血の力でぐいっといっただけだからよく分かってなかった。あれも闘縁の誓いなんだな。」


「おそらくはそうですね。一瞬だけ支配下においてそのまま使い切ったのでしょう。」


「分かった。ところで俺は一度寝る。少し疲れた。お前も寝所に来い。」


「はい。お供します。」


 興奮が冷めないのだ。手伝ってもらおう。

 アリシアと目が合ったが、俺を見てヤバいと思ったのだろう。声はかけなられなかった。


 どれほど眠っただろうか。隣ではディーナが泥のように眠っている。

 無意識の回復魔法発動が長引かせるのは、苦痛だけではなかったということだ。

 服を着て、外に出ると、ヘラがいた。


「お目覚めかい?」


「ああ、少し寝すぎたかな?」


「いや、ちょうどよかった。市長がお話ししたいことがあると。」


「分かった行こう。」


 話は想像通りだった。まず守備隊が足りない。裁判を行うだけのインテリも逃げ出してしまって足りない。という無いないづくしでなかなか復興も前に進まないだろうと言うことだった。


 しかし最も問題なのは周辺都市がこの街を潰してくる可能性が否めないということだ。

 ほかの街に逃げ込んだインテリ層が他の都市を焚きつけて軍事行動に出かねないし、そしてほぼ確実に領主の軍と敵対する見込みだそうだ。


「だから俺は領主軍を叩き潰せばいいわけね。」


「まあそういうわけだが、気がかりなのは敵の順応かな?」


 ヘラには懸念事項があるそうだ。


「敵さんは今回の襲撃でご主人様の攻撃手段を多少なり見知ったはず。不意打ちを許してくれるのでしょうか?」


「それなら任せてくれ。考えがある。」

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