第22話 魔女の全身全霊
俺の体を見ると、赤い装甲が胸の辺りに形成されていた。
血でできた鎧だろうか?これが雷の直撃を和らげて、衝撃のみのダメージにしたのだろうか?
いまはいい。それより奴の攻撃は雷だが、前兆はさっきので把握した。
加えて、ぶつかってもそこまでのダメージにならないのだ。
「よくもやってくれたね!」
魔女の杖から黄金の雷光が放たれる。幾重にも。
雷光の無規則な発射と軌道は予測不可能性を高めるものではなかった。
予測不可能性に基づいた焦燥と恐怖によりとにかく撃ち出すものでしかなかった。
「まず、杖をもらおうか。」
肉薄された魔女に拒否権など無かった。
魔力を感じる木の杖。
自然の木を削り出しただけの無骨な印象を受けるが、妙に美しい。
匠の技なのだろう。
「ああ、そんな。」
「いい杖なんだろう?耐久性がありそうじゃん。」
「ぎゃあああ!」
近くにいたギルドマスターを撲殺。頭が割れている。もう動かないな。
しかし杖は無事だ。
「いい武器だね?さて、お姉さん。おっと。」
やれやれ背中を向けた瞬間これだよ。
手に電撃を纏わせて、心臓に触れに来ていた。
手首を掴んで、骨を砕く。
「あああああああああ!!」
「さすがにもう投降してくれないかな?殺すよ?」
凄んでみる。
「ご、ごめんなさい。もう逆らいません。」
土下座だ。脱帽してひれ伏す。
「たく、次やったら許さないからな。」
「はい。ありがとうございます。」
「おっと。」
すごいな。土下座の態勢から前方に宙がえりから踵落としを狙ってきた。
しかも雷の魔法で威力を底上げしている。
正直参考になる。
「おい。なんの冗談だ。」
捕まえて右足の踵を砕く。
「ああああああああ!!!」
「分からされたよ。もうちょっと躾けないといけないよな。」
「ひぃっ」
まだ無事な手を砕き、足を折る。鳩尾にもパンチを一発。
あとは適当に抓って、痛みだけ与えておくか。
服はというと、ローブは所々穴が開き、素肌が露わになっている。
ディーナは全裸になったがあれは回復魔法のせいで、そこまで叩くと死んでしまうのだ。
「許じで、ぐだしゃい。何でもじます。全身全霊で償います。だから命だけは……」
分かってくれたようでうれしいよ。
「どうやら外の方は布陣が完成したようだな。もう暫くすれば突入部隊も用意できるかもしれない。」
まずは逃走経路を塞ぐところから始めるだろうからな。
市民も逃がさなきゃいけないし。
「じゃあ、さっそく働いてもらおうか。」
胸元のローブを引きちぎる。
なにか勘違いをして、目を閉じ胸を強調してきた。
俺がしたいのはそれではない。
頭を殴りつける。と言っても脳を揺らすことに意味がある。
うっかり砕かないように細心の注意を払った。
目を見ると焦点が合ってない。良しいいだろう。
遠目からでも人質にされた敗北者の印象を植え付けるためなのだ。
この姿を晒す者が仲間だとは思われまい。
「さて、じゃあ行こうか。」
魔女を担いでギルドの建物を出る。
片手に杖、もう一方に魔女だ。戦利品ぽく掲げておこうか。
先ほどから声がしていたとおり、ギルドは包囲されている。
俺が姿を現すや否や罵声と怒号が飛んで来る。
中には胸が見れて喜んでいる馬鹿の声も混ざっているが、俺には筒抜けだからな。
ここで重要なのは人質は有効に機能していることだ。
矢玉はまだ飛んでこない。
「え?あ?嫌?なんてこと!」
「おう、気が付いちまったか?強いのも考え物だな。」
「お願い、せめて胸は隠させて。」
魔女は屈辱に顔をゆがめているが、別に辱めるためではないんだ。
俺の直感が正しいなら、彼女が生き恥を晒すことも、死に恥を晒すこともない。
「おいおい、全裸にしてやっても良かったんだぞ。それに全身全霊で償うと言ったじゃないか。つべこべ言うな。真面目に働け。」
本当のことを言うと全裸だと運びづらい。
だから腰のベルトで運べるようにしておいた。
が、それを言う必要は無いな。
「よっと。」
一瞬魔女を手放す。もちろん解放ではない。
「いやあああああああああああああ!!!熱い!痛い!」
うつ伏せに倒れこんだ彼女の後ろ腰から手を突っ込んで背骨を鷲掴み。
そのまま掴んで前に立たせる。これ幸いと投げモノが飛んできても困る。
「お前の魔法を見ていて気付いたんだ。全力で魔力を噴出させてないだろう。魔法使いと言うものはそういうものだと思うんだが、全身全霊で撃たせたらどうなるんだろうと思ってな。ここに血の力を流し込んでやると」
「ダメ、それは、やめて。いやあああああああああああああああ!!」
「【雷葬撃】!」
絶叫は雷轟が掻き消した。
魔女自体を杖にして、魔力を暴走させる。
本来持っている、出し切れば死んでしまうだけの力を吐き出させる。
血も、肉も、骨も、全て引き換えにして魔法を撃とうじゃないか。
天は応えた。
ギルドの周囲に雨雲が湧き立ち、土砂降りの雷を落とした。
いや、悪魔の方が適切か。
魔女は血を失い、肉を失い、骨を失った。塵一つ残らなかった。
残されたのはボロボロのローブだけだ。
すべてを雷に変換した絶命の一撃。
轟きはそれだけで窓を破壊した。
雷光は軍隊を焼き払い、街を灰燼へと変えてしまった。
ギルドの周囲は跡形もなく消え失せた。
ただ俺の立っているところを除いて。
「なるほどね。これは予想以上だ。魔法使いが全身全霊を懸けるとこうなるのか。覚えておこう。」
何より、魔法が使えないはずの俺でも疑似的に魔法が撃てる。
実に心躍る出来事だった。
さて、これでこの街から戦力と呼べるものはなくなっただろう。
アリシア達と合流しようか。
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