第21話 冒険者ギルド
俺の討伐依頼を出していた冒険者ギルドにやってきた。
ヘラが請けたのはこのラツァライの街の冒険者のギルドだ。
入口に門番がいるかと思いきやフリーパス。
酒場があり、掲示板があり、受付がある。
昼だと言うのに酒場はにぎわっており、冒険者は皆自分の得物を持ったまま来ている。
大斧、大剣、槍の類は良く目立つ。しかし、服の裏側にナイフやらを隠し持っている者もいるようだ。動き方が左右非対称で怪しいんだ。
そんな中を一人ふらっと入ったのが良くなかったのだろう。
「おい、坊主。ここはお前が来るところじゃねえぞ。」
強面の筋肉ダルマにすごまれている。得物は大斧。両刃の斧で先端は丸くなっている。
服の露出は多めで、いわゆる山賊ってこんな格好をしてそうだ。
そんな風体の男が3人、俺を囲んでいる。
正体がばれたかな?
「おう、そうだ。坊主。ここはな冒険者ギルドっていうところでな、魔物と命のやり取りでしか稼げねえ俺たちろくでなしの来るところなんだ。」
「お前さん見たところ、賢そうな顔してるじゃねえか。こんな仕事してちゃいけねえよ。」
違った。いい人だったみたい。人は見かけで判断してはいけないな。
「こんにちは!『血の獣牙』です!今日は見物に来ました。」
挨拶は大事だ。誰が来たのか?どんな用件で来たのか?
これらを明示しないと不審者と看做され、炎の矢が飛んで来るかもしれない。
「はっはっは。お兄ちゃんもそういうお年頃か?しかし『血の獣牙』ってのはカッコいいな。俺もそういう二つ名が欲しいもんだぜ。」
「兄者には『斧マッチョ』って二つ名があるじゃないですか?」
「おい、待て兄者!『血の獣牙』ってそこの掲示板に張り出されてる奴じゃ?」
「なにい!」
「ホントだ!本物だ!殺せ!」
「ついてるぜ。その色じゃ高いんだろう。」
中には無礼で危険な奴もいて、こちらが挨拶をしているにも関わらず斧で切りかかってくる奴もいる。
それ以外に矢弾を射かけてくる者もいる。そんな奴らの掃きだめ。それがこの冒険者ギルドだ。
「いい斧だ。刃を掴んでも砕けない。頑丈だな。」
「なにい!」
「こいつ兄者の斧を、素手でつかんだ!?」
「何やってんだ兄者!さっさと殺しちまえ!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!ふぬううううううううううう!」
「いいパワーだ。が、殺さないほどじゃないな。」
斧を掴んでいない方の手で【
頭は宙を舞った。血しぶきとは違って。
「「ひ、ひ。ぎゃー!」」
斧を持っていたいい人たちは逃げ出そうとしている。
「待てよ。斧置いてけ。」
「は、はひい!」
辞世の句がそれでいいのかな?
「いい切れ味だ。」
血は舞わない。
そしてこの段になってみんな状況を理解したのだろう。
「殺せ!」
「なんだ?子どもの悪戯、ではなさそうだな。みんな、戦闘たいせ」
「エリン!嘘でしょ!死なないで!」
「何者だ?」
「きゃー!」
「狼藉じゃ、出会え、出会え!」
様々な声がこだまする。
しかし、その中に一人動じない者がいる。
魔女だ。とんがり帽子。赤毛の長い髪は腰まで伸び、豊満さを強調する際どい胸元。肩出しのローブを着込んでいる。警戒が居るのはあいつだけだ。
「斧二刀流もなかなかいいな。つるはしみたいな重さだ。軽すぎなくていい。」
遠心力の効きが手に馴染む。やはり武器はこうでなくては。
槍を避け、魔法を弾き、斧で断つ。
ギルドでいつもと同じなのは色合いだけだ。
悲鳴、怒号、絶叫は響き続けた。
魔女は何をしているんだ?と思ったが、依頼をじっくりと見ている。
まあ、攻撃してこないなら放っておいてもいい。
「おい、貴様!何をしている!」
おっと、偉そうなやつが現れた。
そしてそれなりに強そうじゃないか。
剣と盾を持っている。
「お前がギルドのマスターか?」
「質問で質問に返すな!ぎゃああああああああああ!」
「何を勘違いしている。これは拷問だよ。次は薬指にしようか?器用だろ。」
右手の中指を持っていった。
「……ぐ、そうだ。」
「やけに素直だな。何を待っている?まあいいや。なぜ俺を討伐対象に加えた?」
すでにギルド内の戦力は壊滅した。
逃げおおせたものもそこそこいたが、少なくとも今ここには戦える者は3人しかいない。
「教会から依頼されたんだよ。依頼されたら張る。断る事由も無かった。それが仕事だ。」
「俺が人間かも?とは思わなかったのか?」
「どの口でそれを言うんだ?化け物め。なんだ、依頼を出したことを恨んでいるのか?」
「いや、言葉はちゃんと使えよ。「恨んでる」のではなくて、「懲罰」しに来ただけなんだよ。お前が依頼出したせいで俺が死にそうになったんじゃん。落とし前をつけるのは当たり前だよな?」
「は?」
「ということで、懺悔は?」
「ルシア、助けてくれ!言い値で払うよ。」
ここでやっと魔女が動いた。
「【雷槍撃】。」
「ぬおっ!」
さすがに電気は避けられない。
俺は衝撃で吹っ飛ばされて、酒樽に突っ込んだ。
「その言葉忘れないよね?」
「当然だ。」
二人のやり取りが聞こえた。
やられたな。が、終わらない。不思議なことに終わっていなかった。
代わりに今まで吸った血の残量が減った気がする。
「ずいぶん悠長だな。」
「……嘘?あれを耐える生物はいないわ?」
「赤色?樽は白ワインだったんじゃ?」
どうやら今、俺は赤く染まっているらしい。
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