第20話 神の敵

「昨夜はお楽しみだったな?」


 ヘラである。


「うるせえ。お前のせいだからな。」


「二人はまだ起きてこないのか?」


「昼頃になるんじゃないか?」


 ぐっすり眠っていて起きる気配がない。


「化け物かよ。その割に元気みたいじゃん?」


「血の気が多いもんでな?」


「え?あれって血液が原料なのか?」


「知らん。というかいつまでこの話をするつもりだ。それより報告があるだろう。寝所からも聞こえていたぞ。5人ほど捕まえたんじゃないのか?」


「……うぇ、地獄耳過ぎるだろう。そうだ。5人捕まえたよ。」


「見込みのありそうなやつは居たか?」


「いや、居たら起こしてるさ。私と正面切って戦って勝てるのは正直ザラに居る。でも潜入・隠密に関しては素人だったよ。目も当てられないほどにね。」


「分かった。じゃあ、食事の時間と行くかな。ヘラは寝所の警戒を頼む。あと、掃除もな。」


「ぐええ、分かりましたよ。まったく人遣いが荒いんだから。」


 そんな駄弁を弄して、寝所を後にする。


「さて、君が昨晩の侵入者だね?何か言い残すことはあるかな?」


「黙れ!薄汚い獣め!人の形をしたケダモノが!神が、神が裁きをお下しになるだろう!」


 教会勢力か。情熱的なことだ。


「ディーナに聞いたけど、獣って漏れなく地獄堕ちじゃなかったかな?君のところの宗教では。救いは無いな。」


「ああ、そうだ。お前のような獣に救済はないし、一刻も早く地上から葬り去るのだ。」


「ああ、違うよ。そういう意味じゃない。信者がその考え方を改めない限り、殺し尽くすしかないよね。」


「何を馬鹿な……ひぇっ。」


 俺が本気で言っていることがようやく伝わったらしい。

 俺ならやりかねないと思ってしまったんだろうか。

 どこか馬鹿なことを言っただろうか?俺を殺しに来る集団がいるなら根こそぎ壊すに限るじゃないか。生きるに値しないと決めつけてくるような者たちは、生きるに値しない。お互い様だ。


「さて、じゃあ俺の血肉になろうか?それ以外に利用価値ないしね。改宗者がいれば聞くよ。はい、君どうぞ。」


「くそ、あの女、寝返るなんて想定外だった。あいつも地獄堕ちだ。」プス。


 【血装けそう爪紅つまべに】を首に刺す。頸動脈を捉えた一気に吸おう。

 刹那、げっそりと青白い死体が出来上がる。

 仲間の悲鳴がこだまする。


「貴様、人の心は無いのか!?」


 ほかの信者だ。


「ん?君の教義に依れば無いのでは?もしかして背教者かな?」プス。


「やめて、なんでもする、します。だから殺さないで。」


 こっちは女か。現実が見えてるな。話次第では命を救うのも手か?


「ダメだ。やめろ!」


「でも君、改宗まではしないんでしょ?」


「それは……」プス。


 そこで躊躇ってしまうのではねえ。この宗教嘘をつくのはありなのかもしれないな。


「くそおこんなことがゆる」


「さっきからうるさい。」プス。


「……。」


 最後の一人は、他の連中より年より年を食ったおじさん。40代くらいか。


「覚悟ができたかな。お前の血は信徒狩りに活用することにするよ。」プス。


「はあ。力はみなぎるけど、なんか食事した気はしないんだよなあ。相変わらず血がどこに行くのか分からない。」


 そして死体の方はと言うと、結構水分が残ってる。本当に血液だけ抜いて、それ以外の水は残ってそうなんだよなあ。処分が面倒くさい。


「おはようございます。旦那様、ゴホンご主人様。追剥の方は私がしましょうか。」


「ああ、任せる。しまったな。何人か雑用枠で採用するべきだったか。」


「いえ、少数精鋭がいいでしょう。と言うのもヘラと感覚同調のような違和感があるのです。ヘラの方はそれ以外の刺激と血の力による同調を識別できているからあまり気にならないそうですが。」


「なるほど分かった。眷属は増やしすぎ注意ってことだな。これは先が思いやられるな。」


「あくまで頭の片隅に入れていただける程度でよろしいかと。ご主人様の場合寝技で言うことを聞かせることも視野に入るでしょうから。」


「寝技?おれ多分関節極めるのは苦手だと思うぞ。多分もいじゃう。」


「そういう意味ではなかったのです。女であれば抱いてしまうのも手でしょう。」


「抱く?……そういう意味の方か。ほかにも色々考えよう。服従の首輪を奪ったり作らせたり方法はあるだろう。」


 その感想になるのは多分眷属だからだよなあ。まあいいや。

 体の中に何かを突っ込まれて嬉しいわけないじゃん。


「そうですね。ところで、アリシア様がお目覚めですよ。」


「分かった。思いのほか早かったな。あいつは朝のちゅーをしてやらないと拗ねるから、ちょっと仕事してくるよ。」


「こっちの方がよっぽど仕事だったと思うのですが、お二人の関係は分からないものですね。」


 小声で言ったようだ。


「ディーナ、聞こえてるぞ。」


「失礼しました。」


 お仕置きは後で考えておこう。


 さて、為すべき事は済ませた。




「なあ。そろそろ動かないか?」


「え?」


「だって敵はこっちの位置分かってて来るのきつくない?むしろ殴り込みたいというか。」


「おお、そう来たか。賛成だな。」


「ええ?しかし、行軍というか流浪はなかなか応えますよ。」


「私はアルの隣ならどこでもいいわ。」


 相変わらずだな。


「とりあえず敵を理解したいんだよなあ。教会はぶっ潰すとして。」


「問題は順番ですか?」


「まあそうだな。いったん私の街に行くか。少なくともあそこの冒険者ギルドはご主人様の討伐依頼を出してたから敵であることは間違いないし、あの街の闇なら私より詳しい者はない。」


 話は決まりだな。

 安全圏など無いことを、分からせてやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る