第18話 招かれざる客

 あれからずっとディーナと出会った砦にいる。

 単純に屋根と壁がしっかりあって過ごしやすいこと。

 そもそも砦なので侵入ルートが限られること。

 以上の点から動かなくていいのではないかということになった。


「つまり、こうなるわけですね。」


「なるほど。こうすればいいのね。」


 アリシアとディーナが何かしている。


「あ、ご主人様。今、アリシア様に魔術を教えているところです。」


「見てみて、壁が作れてるのよ。」


 魔力の壁」を展開している。薄紫の半透明な膜だ。

 直線的で、幕や布にしてはあまりに不自然なものだ。


「おお、凄いな。」


 触ってみた。たしかに反発してくる。


「へぇ、おもしろいな。」


「ああ、ちょっと。」


 いかん。力を込めすぎて壊してしまった。

 どうも炭鉱の時は出来ていた力のセーブが下手になっているかもしれん。


「いや、まだ初歩ですからね。すぐ壊れてしまうのは仕方のないことです。どんどんやっていきますよ。」


「はーい。」


 結構なことだ。俺も血の力を洗練させたいな。

 ディーナを返してほしいところだが、今はアリシアに貸しておこう。


 その夜のことだった。3人で寝ているところに招かれざる客があった。

 あろうことか寝所のドアを開けて、正々堂々たる侵入を決めてくれた。

 いや、たしかに警衛とか置いてないし、教会や王国と敵対するリスクを恐れてたいていの囚人はここから脱出しているから、誰にも知られることなくここに入って来ることなんて容易いことなんだけど。


「気づかれていないとでも思ったのか?」


「なに?どうやって?」


 後ろからナイフを押し当てる。10代後半くらいの背格好の男だ。


「ばかか?そんな殺気を立ててくれば馬鹿でも目覚めるだろう。素人か?」


「ぐ、降参だ。」


 手を上げて得物のナイフを床に落とした。


「仲間は?」


「いない。一人で来た。ぐぅ」


 そのまま心臓に一突き。背骨?砕け散って肉を切り裂いていく。お粗末な防御能力は持たない方がいい。

 せっかくコミュニケーションしてやったのにおじゃんにするなんて、救いようのない馬鹿だ。

 ディーナによると、普通拳を見せても命を握ったことが伝わらないらしい。

 だから生殺与奪をこちらが握ったことが分かるようにわざわざナイフを突きつけてあげたのにこのザマだ。


 人の親切を無碍にされると、すこし寂しい気持ちになる。

 まるで猫に餌をやったのに毒と疑われて弾かれたときのような気持ちだ。


「嘘が下手だな。足音からして、あと4人か。」


「ん?ご主人様?敵襲ですか?」


「ああ、起こしちまったか。アリシアを頼む。」


「御意。」


 さて狩りの時間だ。お前らの心臓はもう覚えた。どこへ逃げようと無駄だ。


「【血装けそう爪紅つまべに】もだいぶ馴染んできたな。」


 4つ目の心臓を左手が貫く。鮮血がほとばしり、死化粧を施した。

 男5人のパーティだったようだ。

 といっても魔術師やら回復役不在の近接戦闘職ばかり。

 さらにいえば潜伏や伏撃の訓練は受けてないようなので、冒険者かというごろつきが金に目が眩んで、のこのこやってきたのかもしれない。


「この血を吸ってみる。あ。」


 みるみるうちに血が霧散していく。と同時に力がみなぎって来るのを感じた。

 この血はどこに行っているのだろう?考えたら負けなのだろうか?

 【爪紅つまべに】の赤がより鮮やかになった気がした。


「ん?」


 心臓を一突き。きれいに骨の間を縫って。背後からの一撃だ。

 下を見ると胸から短剣が生えていた。

 口から血を吐く。俺もまだまだだな。

 

「気づかなかったよ。やるな。」


「なに!?なぜ喋れる。確かに心臓を突いたはず。」


 驚いたのだろう。

 ナイフを抜かれた。しかし血はもちろん、噴き出さない。

 女の声かな?とりあえず面を拝ませてもらおうか。

 シルエットでは女か男か判別できない。


「まあ逃げるな。話せばわかる。」


 即座に退散を決め込むあたり殺しには慣れていそうだ。

 が、当然俺ほどのスピードはない。


「ぎゃああああああああ!!」


 彼女の足を切り裂いた。あ、動脈切ったかも。鮮血が噴き出す。


「いや、止められるはずだ。」


 いけた。

 血の力、やはり便利だ。止血には成功していないが、俺の能力で血管の代わりを果たしている。

 このままいけば流血を許さずに痛みだけを与えることもできるだろう。

 この効果範囲はさほど広くはないが、ゆくゆくは拡大させたいものだ。


「ほらほら抑えておかないと死ぬぞ。」


 長く結った髪を捉えた。

 そのまま首を絞めて気絶させる。死の恐怖のゆえか、失禁してしまっているな。


「あわよくば血を使って歩かせたいのだが、それは望みすぎか。」


 首筋に歯を突き立てて眷属にする。効果のほどは後で確認しよう。

 今はディーナに治療させたい。血の流れを制御するのは結構疲れるし意識を使うのだ。血管から血管へと適切に繋げないと、俺の力によって生み出された流れによって血管を切りかねない。


 肩に抱えて暗殺者を運んだ。こいつもでかいな。俺より20㎝くらい上だ。

 早く背伸びないかな?そんなことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る