第16話 騎士団の壊れ方
さて、火の玉は直径1mくらいの球状。それが6発。俺への直撃コースは1発か。数撃ちゃ当たるで放ったのだから狙いは良いほうか。
「お前だ。」
手近な騎士を捕まえて放り投げる。小太りだから盾にちょうどいいかなって。
騎士は悲鳴を上げながら火球に衝突。両者爆発四散した。
「さて、まだ足りないな。」
俺の後ろに逃げられると厄介だが、ちんたらしてても危ないだろう。敵を探すことも検討しなければ。
「とりあえず魔法攻撃できそうなやつは殺していくかな。」
砦に投射されるとディーナも難儀するだろう。
「さて、悪い子はいないかい?」
いよいよ敵陣深くに入り込んだ。なんかやけに豪華な陣地は荒れ放題で逃げた後みたいだ。ここの監督官は逃げたらしい。炭鉱の看守とはえらい違いだ。
でも血の力は便利だ。血糊で足を取られることもない。
すーっと血が消えていく不気味さにはまだ慣れないが、敵の足元の血だまりは吸わないようにしているので、敵は滑ったり捻ったりしている。
ディーナは「血糊は大事」と言っていた。こういうことだったのか。
「さて、お前で267体かな?だいたい半分やっつけたけどどうなんだろう?ディーナは3割倒したら逃げるでしょうとか言ってたけど、あいつの部下は全員逃げなかったからな。どこまで信じてよいやら。」
でも、どれだけ探しても騎士は見つからなかった。
やることもなくなったので、立派な陣地に残されていた書類一式を持って帰ることにした。血の力で上手いこと運びたいのだが、いかんせん血が滲んでしまうので、しぶしぶ抱えて帰った。
「ただいま。」
「ああ、ご主人様。おかえりなさいませ。」
光の槍がお出迎えしてくれた。なんだろう?俺のことを殺したくなったのだろうか。
「申し訳ありません。先ほどまで、小規模ながら戦闘を行っておりました。」
よく見ると死体が5、6転がっていた。
「人質を確保しようと考えたのかもしれませんね。」
「そうか。よくやった。」
「もったいなきお言葉。」
「あ、お帰り、アル。」
「おう、ただいま。」
帰ってきたらキスをされてしまった。
「悪いな、アリシア、まだ話を詰めないといけなくて。」
「分かったわ。」
「で、ディーナ、これ敵の大将が持ってたと思われる文書なんだが、一応持ってきたぞ。」
「え?残したまま去ったのですか?」
「ああ、かなり慌ててたのか、その辺に散らかっていた。俺は字が読めないから、任せる。」
「かしこまりました。読みはしますが罠の可能性もありますので、そこはお気を付けください。」
「ああ、よろしく頼む。」
解読、といってもディーナには見慣れた文章のはずだが、それを待つ間にもう一働きしてこよう。
炭鉱の生活のせいで、仕事がない時間には仕事をしてしまいたくなるのだ。さぼりと判断されることを避けるためだけどね。
「うーん。ド派手にやりましたね。お兄さん。」
「ああ、まあスピード重視で。」
俗に言う落穂拾いと言うやつだ。
慣れてるのか分からないけど、戦場漁りが趣味の人がいて良かった。こいつは何かしらの犯罪やってそうだけど、まあ上手いからいいのだ。俺だと壊してしまう可能性が高い。
「それに俺は落穂拾いより、落ち武者狩りの方が得意でね。」
ちらちら何かを取りに戻ってきた兵隊がいた。良かった戦闘員が随伴していて。
遠距離戦を見越して、投擲物なら山のようにある。
例えば剣。
「あらよっと。」
やはり卑怯者の武器だけあって遠くまで飛ぶし、そこまで音もならない。
次に槍だ。これも投げてくれと言わんばかりの重さと長さ。
いや、少し軽すぎたな。子ども用の武器か。
「相変わらずやべえな兄ちゃん。何喰ったらそんなになるんだ?」
「炭鉱のメシだな。」
「おい、マジかよ。人間じゃないだろう。」
「おっと、不敬罪とやらじゃないのか?国王も歴史をたどると人外だったらしいじゃないか?」
「いやいや、そもそも王様は人間じゃねえよ。聖律の体現者、神の遣いさ。人間と一緒なわけがねえ。」
「よくわからんな。」
「まあ、分からなくていいと思うぞ。大事なのは、鉄は高く売れることだ。」
「なるほどね。覚えておこう。鉄は高い。」
帰ってきた。
あいかわらず、アリシアはキスをしてくる。
なんだろう。子ども扱いされている?まあいいや。
「ディーナ、解読できた?」
「できました。でも、あまり役に立たなそうです。」
「まあ、聞くだけ聞こうか。」
その内容は本当に他愛のない内容だった。なぜなら今回の戦闘の予定が記載されてただけだからだ。布陣予定図、成り行きごとの部隊展開についてのメモ書きだ。
これは見られてもいいものだな。なぜなら、ディーナの頭の中に入っているような教科書通りの作戦だったからだ。
「と、ただ。敵もこのままでいるとは思いません。既に、400もの騎士を失っています。次は本腰を入れて潰しに来るでしょう。」
「そうか。先のことを考えないといかんな。」
「ただ、動員を掛けたり部隊編成など時間を要する準備が必要ですので、早晩来ることは無いと思います。今日はゆっくりお休みください。」
「ああ、寝ることにしよう。」
その夜。寝室に侵入者があったが、それはアリシアだった。
なんだか泣いていたようなので、同じ布団に入れてやったのだ。
まだまだ子供だな。あ、俺の方が子どもなんだった。
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