第15話 血の力

 騎士団が攻めてきた。俺が砦を落としてから7日後の朝である。


「随分早いな。」


「すみません。私が陥落前に損害多数、ほぼ確実に陥落する旨を伝えたからですね。」


 と謝るのはディーナ。何を言ってるんだ。きちんと仕事をした証じゃん。

 砦の物見櫓に立って、敵情を観察している。


「砦の補修はどうにか終わったのだけど、これ持つかな?敵軍は500くらいは居そうだよ。」


 そう言うのは牢につながれていた大工だ。罪状は悪魔との通謀。

 これは逮捕のための口実を意味するらしいので、つまり無罪だ。


「いや、まあ俺がどうにかしよう。」


「切り込まれるのですね。ご主人様。ご武運を。」


「あ、もういっちゃうの、アル。死なないでね。」


「行ってくる。大丈夫だ。俺は死なない。それよりディーナ、この砦を任せた。誰も死なせるな。」


 そう言って俺はアリシアにキスをした。

 アリシア曰く、出陣前にはこうするものらしい。

 周りがざわついている。

 アリシアは赤面しているが、今はそれを揶揄う暇はない。


 敵軍は少し離れたところに布陣開始。布陣が完了次第、攻撃に移るのだろう。

 なんとなく掴んできた血の力。彼らに見せてやらないとな。

 冥途の土産話にでもしてもらおうじゃないか。

 さて、攻撃開始だ。


「おはよう諸君!」


 挨拶は大事だ。特に今回のように襲撃しに来たことを知らしめるために。

 砦の防御は貧弱だ。戦闘員がディーナしかいない。加えて広い。

 とても守り切れないのだ。それは砦の防衛能力の低さということではなく、防衛能力を発揮するための人員が足りないということらしい。

 ディーナ曰く、最低でも50人は居ないと意味がない。


「爽やかな朝には、鮮やかな赤が良く似合う。そう思わないか?」


 陣地を見張っていた騎士の前に現れて、話しかける。しかしその騎士からの応答はない。あったら俺もびっくりして、生首を放り投げてしまったことだろう。

 首だけで喋れる奴など、おとぎ話の世界にしかいないのだから。


「敵襲!敵襲!」


 そうそう

 騒いでくれ。やばい奴がいる、蛮行が行われている。

 それらは広く、早く伝わることが重要だ。仲間を呼べば袋叩きにできるし、証言者も増える。良くない知らせは早めにということだ。

 最もそれは諸刃の剣だな。犠牲者予備軍がわらわらと寄ってくる。


「面妖な!悪しき獣だ!」

「本当だ!浄化されざる獣の血だ。殺せ!」

「なんだ?」


 王家の伝説の力と聞いてたのに、なんか敵意を満々にしてるのには気になるが、まあいい。恐れおののき服従してくれるならそれまで。

 そうでないなら殲滅戦に移行するだけだ。


「さて、上々の仕上がりだが、いつまで持つのかな。この血の刃は。」


 【血装けそう爪紅つまべに】。俺が唯一使えるようになった血の力だ。

 血の刃を生成し、つけ爪のように纏う。長さは10㎝ほどだが、極めて鋭利。

 切れない物は見当たらなかった。俺の体から離れるほど威力がが下がり制御が難しくなるので、実用的にはこれが限界だ。

 鮮血の赤色が爪紅のようだと歌われているらしいのでこの名前が付けられたらしい。


「まあ、10㎝もあれば心臓も頭も壊せるから、十分すぎるんだけどね。」


 それ以前に必要だっただろうか?今のところ騎士たちは俺のスピードに対応できていない。炭鉱の作業をさぼるために、予備動作を極限までこそぎ落としたのでそれが原因だろうか?


「くそ、こいつ、まるで殺気を感じない。何してくるのか分から」


「最後の言葉がそれでよかったのかな?まあ戦士としてはいいのか。」


「うおおおおおお!」


 鎧の無い奴が剣で突っ込んできた。

 だんだん分かって来たかな?

 鎧の意味がないことに。盾が重りでしかないことに。


 剣の腹を手の甲で打つ。砕かない程度に。

 体制が崩れたところに拳を叩き込む。これは頭を砕いた。

 【血装けそう爪紅つまべに】は格納取出しが自由自在なところも便利だ。


「ああ、いいね。動揺してるじゃん。」


 敵は虚を突かれたのか、あるいは時間稼ぎか、わらわらと騎士たちがやってくる。

 ディーナ、もしかして舐められてる?

 騎士どもの戦い方が、あいつの報告を真に受けたと思えないのだ。俺が短期で砦を落としたことは知っているはずなのに、なんで10人いれば倒せるだろうみたいなノリでわらわら殺されに来るんだろう?

 上と現場の認識の違いってやつなのか?


 だが、そろそろ遠隔攻撃も来る頃だろう。こちらも対抗手段を確保しておこう。

 といっても、相手の陣地の入り口で陣取って動いていないので、周囲には敵の武器やら盾やらが転がっている。

 投げモノには困らないな。


「魔力反応か。」


 数にして30。密集している。魔力反応の数は魔法使いの数を意味する。

 ディーナによると一人当たりの投射物の数はだいたい3つらしいから、100くらいの魔法の槍なり矢なり剣なり玉なりが殺到する可能性がある。

 それはまずい。


「俺も遠隔攻撃できるよってところ見せつけようか。」


 今目の前にいる騎士は鎖帷子を纏っているだけか。物足りないな。

 死体を使おう。


「立て!」


 一番最初の方に死んだ、鎧をしっかりとまとっている騎士を立たせる。

 中の血液を操って、動かすのだ。

 死んだそばから吸っていかないのはこれが理由だ。


 周りの騎士が死体が立ったことに驚いているが、巻き添え上等で魔法を撃たれかけてることに気付いた方がいいのではないだろうか?


「おらあああ!」


 全力で腹部をパンチ。鎧は砕け、四肢がその場に残された。

 砕けた鎧は肉片血しぶきとともに魔力反応に飛んでいく。

 鎧とは可動式の矢玉。騎士とはつまり爆片の原材料なのだ。

 胴と離ればなれは不憫だから四肢も同様に殴り飛ばしてあげる。

 まあ、彼も喜んでくれるだろう。

 頭はどこかに行ってしまったから殴り飛ばせないけどね。


「な、なんと野蛮な!何としても殺せ!」


 俺の周りの騎士はいきり立っている。お前らはむしろ感謝しろよ。

 俺がこうしていなかったら、飛んで来る火の玉は6発では済まなかっただろう。

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