第13話 処遇
「お願いします。何でもします。殺さないでください。」
すべての引継ぎを終えたところで、ディーナは土下座を開始した。
しかも、服従の首輪とかいう物騒な代物を自分で装着したうえでだ。
月光を受けて、赤く細い首輪が爛々とした輝きを放っている。
そしてディーナは今、俺の足を舐めている。
「やめろ、なんだいきなり。」
気持ち悪い。思わず蹴飛ばす。
それでも這いつくばるのをやめない。
「殺さないでください。なんでもします。……双子の妹がいるんです。私が生きている必要があるんです。お願いします。殺さないでください。」
さっき助けた囚人たちが殺気立ち始める。
「何言ってるんだ。あんたらのせいでひどい目に遭ったんじゃないか。それこれもあんたの命令だろう。せめて死んで詫びろ!」
中年の男が怒鳴る。全裸の女を見ても全く催してないところを見ると、害獣くらいにしか認識して無さそうだ。
「まあ、待て。こいつはおれの戦利品なんだ。処遇は俺が決めていいだろう?」
そう言うとみんな黙った。
この理屈で言うと、この人たちも戦利品になっちまうか?
まあそんなつもりは毛頭ないんだが。
「分かったよ。でもね、あばずれ女、覚えておくことだね。この恨みは忘れないよ。あんたはうちの旦那を殺したんだからね!」
30歳くらいのお嬢さんがそう言い放って、囚人たちは皆、部屋を後にした。
アリシアだけが残っている。
「ねえ、アル?どうするのこの人。生かしておいた方が面倒じゃない?」
「それは時と状況によるかも。人質として機能する場合もあるし。」
「私は侯爵家の娘です。魔術が使えますし、侯爵家の家内教育程度の内容であれば教えられます。夜伽、水汲み、掃除、曲芸なんでもします。だからお願いです、命だけは助けてください。」
「なぜそこまでする?何が目的だ。」
「妹です。」
即答。凄まじい気迫を感じる。武器を持ち死合っていた時以上だ。
なぜ、戦闘の際にこれほどの覇気を感じなかったのだろうか、不思議なくらいだ。
「私の妹は双子です。いわゆる【
「そりゃあ、血は近いだろうさ。」
「……双子の呪い、とでも言いましょう。片方が死ぬときもう片方も連動して死にます。」
「え?」
「そんなことあるの?」
初耳だ。アリシアも知らないらしい。
「この国の貴族、なかでも侯爵家以上の古い家なら確実に起こります。伯爵家以下では新参もいますから、確実に出るとは思いませんが。」
「信じがたいな。」
だが、ディーナの表情が揺らがない。
「これを信じる必要はありません。ご主人様が信じるべきは、私が使えるか否かです。これは私の死ねない理由であって、ご主人様が私を生かす理由にはならないでしょう。」
「ほう、俺がお前を生かす理由とは?」
「ねえ、アル、絶対危ないよこの女。ご貴族様のご令嬢でしょう。こんなことをしてたってなったら、私達殺されちゃうわよ。」
貴族とかいう上流階級を奴隷化している事実に耐えられないのだろう。アリシアは今までの生活では、長いものに巻かれて生きてきたのだから無理もない。
「いえ、それは気にしなくてよいでしょう。どのみち、この砦に居たであろう人々は殺されるでしょう。聖タピセリエ教会は騎士団の壊滅を許さないでしょうし、私の家も同様でしょう。今回の襲撃は、教会も世俗権力も両方を怒らせるものです。」
「なんでよ!私は何にもしてないのに連れ去られたのよ。何も悪いことしてないじゃない。」
アリシアは喚く。
そうか、お偉いさんの横暴を見て来ずに済んだのか。運が良かったんだな。
「それは私にはわかりません。名目上隊長でしたが、実際の指揮は教会が執っていましたから。ただ、なんらかの犯罪をでっち上げている可能性が大です。教会はともかく騎士団はいい噂を聞きませんし、奴隷として売られるくらいはあり得ると思います。」
「分かった。お前を生かそう。まずは服を着ろ。裸で話す内容じゃなさそうだ。」
「ありがたき幸せ。」
そう言うとディーナはひざまずいた。
アリシアは複雑そうな顔をしていた。
「それで、お前は何ができるんだ?」
言っとくが許したわけではないし、信じたわけでもない。
特に、名ばかり指揮官だったなどということは、皆殺しにした以上嘘をつきたい放題だし、部下がやらかしたなら上司の責任であるはずだ。
新米がやらかしたときの罰は、同じ部屋の囚人が連座で罰されたのだ。
本来は死刑だろう。
「はい。私は神聖魔法が使えます。回復も槍で戦うこともできます。そしてなにより、ご主人様の血の力を目覚めさせることができます。」
「「血の力?」」
「そのご様子ではご存じではありませんでしたか?今まで返り血がいつのまにやら消えていたりしたことはありませんでしたか?」
「……あ、心当たりあるな。なぜ分かった。」
「そうですか。勘もありますが、私の出血量の割に床が汚れていなかったことでしょうか。もっとド派手に血しぶきが舞っていたはずなのですが、そこまで血痕が見当たりませんでした。」
「最後に、その血の力とやらが目覚めれば、俺は強くなれるのか?」
「はい。確実に。」
「良かったな、アリシア。これでお前を守れそうだ。」
アリシアの顔が少し明るくなった。
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