第12話 失くしたもの
「この城を案内してくれるかな?」
俺は女の髪を掴んで、尋問している。
俺の方が背は低いのだが、女は今膝立ちの状態だ。
得物は短槍を使っていたが、装飾が立派だったので、大事なものなのだろう。
それに魔術を放てる槍だったので、女の目の前で粉々に砕いておいた。
「あ、ああ!?」
「返事は?」
槍を砕かれたのがよほど応えたのか、茫然自失だ。
掴んでいた髪を放り投げて床に叩きつけて立場を分からせる。
普通なら死んでしまうだろうに、こいつは回復の魔術が使える。
苦労させられたのだ。折ったはずの骨がくっつき、外したはずの関節が治る。
それは戦闘を長引かせた。面倒臭かった。
でも、いいこともある。
その戦闘の余波で女の防具はすべて失われた。布切れ一枚纏っていない。
気絶している間に体の隅々まで調べた。
あるはずのモノがないことに違和感を覚えたが、今は放っておこう。
武器を隠し持っていないことは既に確認済みだ。
何より良いのは、回復魔術は無意識で発動する。
死なれたかなと思ったら、致命傷だけは意思に反しても発動してしまうようだ。
これは拷問に便利だった。
だが、真の痛みは槍を砕かれたことのようだ。さっきからこのザマだ。
「おい、返事は?」
うつ伏せに倒れこんだ女の頭を踏む。
「ぐうううぅぅぅ!」
という情けない声を上げるばかりで、肝心の解答が無い。
だが、俺もこの城の図面とかが欲しい。罠があったら危ない。
基本的にこの城の罠はとろいので、見てから避けるのに苦労をしたことは無いが、戦闘中の粉塵等で見えないこともあるだろうし、探索中は罠ではなく探索に集中したい。
こいつに冷静な判断力が戻るまで、待つしかないだろう。それまでは残党狩りだな。隠れて出てこなかった者どもを粛清する必要がある。
だが、その間にこの女に逃げられても困るな。
「ああ、盾にすればいいのか。」
「あ、ああ、いや、やめて、協力し」
「いや、今さら遅い。皆殺しにするまで、お前は盾だ。」
女を進行方向に蹴り飛ばす。
「ぐは、ああ。」
痛そうな声を上げるが無視。
「立って歩くか、蹴られて進むか。好きな方を選べ。」
そういうと、女はふらふらと立ち上がった。
なるほど、まだ反撃の機会を窺っているらしい。
「進め。」
そう言って女に方向を指定する。
良く鍛えられた体は引き締まっていたが、胴体についた脂肪の塊はそのシルエットが間違いなく女であることを語っていた。
そして、これは実に都合の良い疑似餌であった。
「しかし、お前の家来は馬鹿なのか?こんな見え見えの罠にかかって。」
「ふざけるな。お前が下劣なだけだ。このような蛮行を見逃せるほどの腰抜けがわが軍に居ると思うか。」
ビンゴ。こいつはやっぱり偉い奴だ。
そして狩りの時間は終わりに近づいてきた。
「さて、これで殺したのは138体か。明らかに戦う体つきをしていた奴は128体だったな。だが、それ以上に居るはずだよな。そいつらはどこだ。」
「待て?今なんと、ああああああああああああ!」
肩を握り潰す。骨が砕けた。肉が裂け血が流れる。
「質問ていうのは、上から下へ流れるものなんだ。血と一緒だ。お前、いつから俺より上になったんだ?」
「分かった。話す。降参だ。それ以外は地下牢にいる。戦闘員はみんな死んだ。」
「やっと素直になったか。」
「もう、お前を倒せる見込みのある奴はいない。」
「肩の傷、治していいぞ。」
「……はい。……ありがとうございます。」
治療魔法だけは条件付けが終わっている。俺の許可なく治療魔法を使えば、もっと痛い目に遭うと、これは戦闘をしているときから理解させていた。
なぜ苦悶の表情をしているのかよく分からない。己の弱さが招いた結果だろうに。
まずは牢屋に連れていく。そこに捕虜が居るらしい。地下室に案内された。
もちろん先導させるので、罠対策はばっちりだ。
「あ、アル。」
「アリシア……。ここにいたのか。」
望ましくない再会だ。アリシアも服を着ていなかった。
両手で体を隠している。
「知り合いなのですか?」と尋ねた無礼者はアッパーカット。
そのまま仰向けに倒れこんだ。
これで死なないのだから回復魔術は素晴らしい。
「アル、助けに来てくれたの?」
「いや、違う。こいつらに復讐をしに来たら君がいたんだ。」
「そっか。でもありがとう。」
檻の格子を捻じ曲げて、救出する。ざわざわし出した。みんな起き始めたみたいだな。男も女も全員服を奪われている。坑道より扱いがひどいな。
適宜、敵将女に蹴りを入れながら、全員解放した。
恨みから、殺そうとする奴もいた。アリシアも復讐を試みていた。
別に何をしようが構わないが情報を引き出してからなのだ。
説得して待ってもらった。やっとは話す気になってもらったのだから。
俺の膂力を知ったからか、反対するものは居なかった。
「こちらがこの砦の全容です。」
指揮官用の部屋に移動して説明を受ける。ディーナは地図を差し出した。
こいつの名前はそういうらしい。
そういえば看守のうち数人は紙を燃やしたりしていたが、あれは地図だったのかもしれない。
「万が一の抜け穴からお知らせします。」
ディーナは全裸のまま説明を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます