第11話 落とし前

 張った。殺した二人が戻らない場合、しばらくして捜索に来る可能性がある。

 だから、せっかく立て直した家には入らず。そこを見張れるところに陣取ることにした。

 だから、家を壊されても燃やされても、何もしなかった。今用があるのは獲物ではない。その巣である。


「こんばんは。」


 挨拶は重要だ。それが夜討ちだった時でも。

 彼らは追跡者がいることなどかけらも気にかけていなかった。

 だから尾行にかけらも苦労しなかった。


 彼らは城に入っていった。こんな森の中によく建てたものだ。

 石造りの立派な城だった。懐かしい雰囲気だ。床が堅そうだからだろう。


 出入りの人数。見張りの人数。夜警の周期。3日ほど観察し把握した。

 この城の兵士は130人ほど。みんなフルプレートメイルを持ってはいるようだ。


「刃物って便利だな。」


 フルプレートメイルの相手は鎧の隙間から剣を差し入れるのが早い。

 特に顔の部分は急所だからねらい目なのだ。

 夜間警備は二人一組。普通に殴ると大きな音が鳴ってしまう。

 静かに殺すことに賭けて、剣に勝る物はないな。

 剣とは卑怯者の暗殺道具なのだ。


「あ、」


 三組目五人目のことだった。

 剣が兜に突き刺さってしまった。

 抜くときに金属音が鳴ってしまった。

 六人目はあわあわして声を上げられなかったようだが、建物がざわつきだした。


「やっちゃった。」


 手刀を首に。これで六人か。

 ……焦ると良くないな。

 からんからんと兜が音を立てて転がっていく。

 月明かりに照らされて、銀の色は赤く染まっていた。


 カンカンカン。警鐘が鳴り響く。

 奇襲は終わり。強襲の時間だ。


「そこのお前!何者だ!」

「敵だ!問答無用で殺せ!」


 夜警が駆けつけてくる。兵舎でもカチャカチャと。

 鎖帷子くさりかたびらくらいは着けているのだろうか。

 城中が殺気立ち始めた。


「あーあ。血気盛んなことで。」

「ぎゃあああああああああ!」


 剣を振る手を捕まえて、そのまま仲間の兜に突っ込む。

 柄を持っていた奴は脱臼。刃を掴んだ方は、血を吐いている。

 頭蓋骨は鞘にならない。


「そろそろ中に入るか。」


 城壁に敵兵が見え始めた。槍でも投げてくるのかな?


「おっと、弓矢もあるんだ。」


 騎士は弓を使わないと思っていたが、誇りなんぞないらしい。

 まあ、剣とか言う暗殺者用の武器持ち歩いてる時点で、誇りも何もないな。

 矢をつかんで投げ返す。なんで弓を使うのか正直よく分からない。

 投げれば当たるだろうに。


「お邪魔します。」


「ふざけるな!」

「貴様、何をしているのかわかっているのか?」

「殺せ!」

「敵襲だ!であえ!であえ!」


「うるさい。」


 大していい動きができているわけでもないのに、声だけは大きいな。

 地味に面倒くさい。

 どうせ話し合いなどするつもりはないのに、なんで話しかけてくるんだろう。


「うーん。こうか?」


 騎士の剣技をパクってみるが弱い。鎧を着込んだうえでの振舞いなのだろうか?

 平服では滑稽なだけの技かもしれない。剣ではこいつらには敵わないな。

 ……素人の俺に切り捨てられているという滑稽さにおいては。


「ひっ!赦して、見逃してくれ!」

「馬鹿者、怯むなあ貴様!あの化け物を撃たずして、何が聖騎士か!主のために死ぬは我らの本望。戦わずして逃げるくらいならここで死ね!」


 仲間割れか?鎧が鎧を殺した。

 ああやって恐怖を上書きしようとしているのか。

 鎧の目から恐怖が消えた。逃げる方が死よりも辛いらしい。


「さて、いつまで持つかな?」


 俺の体力の心配ではない。彼らの戦う意志の方だ。


「もう、終わりか?大したことない者だな。聖騎士というものは。」


 一つ学習したことがある。彼らは紋章を重視するらしい。盾と十字と鷹の意匠。

 それが編みこまれた旗を踏んだら、及び腰だった敵兵が再び突っ込んできた。

 つまり、これはよくできた鎧ほいほいなのだ。


「グンキ、便利だ。」


 隠れて攻撃してくるやつはうざい。

 面と向かって突っ込んできてくれた方が嬉しい。

 月の眩しい夜だ。正々堂々と行こうじゃないか。


「なにか聞こえた?」


 グンキで遊びながら練り歩いた。まるで主の来訪を告げるように。

 そうしていると高い声が聞こえた。

 アリシアかとも一瞬思ったが、奴なら逃げ出しているだろう。


「……我らの怨敵に主の裁きを。【ホーリーランス】。」


「ああ、魔術か。」


 刹那、光の槍が5本横並びで飛んで来た。

 光が槍になっているわけではないらしい。槍が光っているのだろう。


「避けるなら、前。」


 ぎりぎりで躱して飛来した方向を見る。

 まったく無粋な奴もいたものだ。今宵は月の眩しい夜なのだ。


 主役を奪われた怒りか?月光が不埒者の居場所を暴く。

 いた、あいつが撃ってきたらしい。100m向こう。

 つまり、駆ければ到達は2秒後。


「おらあ!」

 

 その女はカウンターに槍を突いてくる。

 軍旗を盾にして目隠し。そして間合いに入って、腹部にパンチ。


「ぐぼおっ!!」


 血を吐いた。


「お前がこの鎧の群れのリーダーか?」


 だんまり。首が吹き飛ばない程度に張り手。

 平衡感覚がいったらしい。立ち上がろうとしては、倒れこんでを繰り返している。

 ビンゴだ。こいつが一番強い。多分トップだろう。少なくとも戦闘力では。


「ゲホッ!おのれ、虫けらが、殺してくれるわ!」

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