第8話 村の中心は教会と相場が決まっている

 さて、家を守るとも言っていられなくなったかもしれない。

 村の中心部にあったはずの警鐘が聞こえなくなった。


 中央の戦力の方が多いのか?もう30は殺したのだが。


「ええい、くそ、無事でいてくれよ。」


 こうなったら家を守るとか言っていられない、全力疾走で中央に向かう。


「あの一番高い建物に集まってそうだな。石造りだし。」


 思わず声が漏れる。余裕がない。

 見たところ、玄関のところで攻防が繰り広げられているようだ。

 ゴブリンの包囲網は100を超えている。

 これだけの数が一瞬で現れたら、瞬く間に壊滅だろう。


「おらあ!」


 砂利を持って投擲。近くの家にあったのを拝借。投石はいい。

 【鉄琴】がその生き様と死に様によって教えてくれた。

 硬いものを高スピードでぶつけると相手は死ぬ。

 ゴブリンは防具を着ていない。ゆえに、この手の投げモノにめっぽう弱いはずだ。

 この予想は的中した。当たり所を問わずに骨を砕いた。頭に当たったものは死んだ。

 しかし、投げ返されると厄介だ。なにせ向こうは数が多いのだ。


「ほら、お替りだ。」


 ならば投げ返される前にもっと投げる。単純だ。

 砂利は一掴みで10粒くらい掴める。遠いが横一直線で投げつけるしかない。


「ぶぎゃ!ぐぎゃ!」


 卑怯にも味方を盾にしていたゴブリンも倒した。当たり前だ。

 小石が一つ的を外して、石造りの壁に当たったら、軽く跡が残った。

 肉塊など貫通する。


 俺こんなに肩強かっただろうか?自分でも不思議だが、便利だ。

 この圧倒的面制圧力を前に、ゴブリン軍団は及び腰になりつつあった。

 玄関前の攻撃はどうにか凌いだらしい。しばらくは大丈夫か?


「おっと、後ろからも来てたっっけな。」


 後ろから飛んで来た矢をキャッチ。それを前に向かって投げる。

 弓でいるより投げた方が早い。

 しかし、指示を出している奴はどこにいるんだ?

 撤退の合図とかくらいは最悪あるんじゃねえかなあ?

 敵の投石も鬱陶しくなってきた。

 挟まれてるってのはけっこうきついもんだ。


 「おっと、ちょうどいいものがあるじゃねえか。」

 なんて一発逆転の方法が転がっていようはずがない。

 一匹一匹、懇切丁寧にすりつぶしていく。

 石は避ける。俺は当てる。これを繰り返すしかない。

 力の差だな。砂利同士がぶつかった場合、俺の投げたものが勝つ。

 地道に屍を積み上げたものが勝者だ。

 

 しかし、敵の指揮官は死んでいるかいないと見える。

 敗色濃厚になっても、つまり残り30匹になっても、ゴブリンは撤退しなかった。

 故郷を焼き払ってからでも来たのか?俺のように?


「おらあ。よくもやってくれたな!」


 建物に籠城していた人たちがわらわらと加勢しに出てきた。

 正直ばらばらに離散されると追撃できないので、人手の追加はありがたい。


「よし、これで全部だな。」


 殲滅は終わった。というよりは鏖殺おうさつだな。

 脳漿、髄液、臓物がまき散らされ、大地に紅い染みを作った。


「ふう、助かったよ。」


 槍を持って追撃してくれた村人が声をかけてきた。初見だが好意的に接してくれているようだ。

 と思ったのもつかの間。


「おい!離れろ!あ、あいつは悪魔だ!悪の申し子だ!」


 聞き覚えのある声だった。


「ちょっと、なにを言うのイバンさん。彼はこの村を守ってくれた恩人よ。」


 アリシアが抗議する。


「いや、どうだか。みんなも見ただろう。あの化け物じみた膂力。小石を投げただけで石壁に穴を開けようほどの威力。どう考えても人外じゃないか!ゴブリンの群れだってこいつがけしかけたに違いないんだ。」


「何よそれ、言いがかりだわ!彼は優しい人よ!」


「子どもは黙ってなさい。これは村の存続に関わる問題だ!」


 イバンが激昂し、アリシアに手を上げそうになったので、止める。


「ひい!いつの間にここまで来た。」


 いや、そりゃあんたが口論に夢中で回りが見えてなかっただけだろう。

 瞬間移動はしてないよ。槍のお兄さんが驚愕するくらいには静かに走ったけど。


「そうじゃ、それに奴はよそ者じゃ。この村にとどめおくことはせん。」


 おっと、もっとよぼよぼした小さいのもそんなことを言い始めた。

 ダン爺さんよりも二回りくらいちんちくりんだ。


「おい、そこの坊主、ゴブリンを倒したのは事実じゃ。だがお前の差し金でない証拠がない。じゃから、村を襲撃した罪人の可能性もあるわけじゃ。しかも悪魔ともしれない異常な強さを持っておる。村にはふさわしくない。今なら断罪せずに追放にしてやるがどうじゃ。」


 おうおう。随分嫌われてやがる。看守みたいなやつだな、このちんちくりん。


「俺はそれでいいが、アリシアはどうなる。」


「それは村のうちの話じゃ。よそ者に話す道理はない。だが、これだけは言っておくぞ。アリシアはわしらの家族も同然じゃ。お前と違ってな。」


 アリシアは沈黙していた。

 なるほどイバンの言うことには逆らってもいいが、このちんちくりんの言うことは絶対らしい。


「分かったよ。俺が出ていけば丸く収まるんだな。じゃあなイバンのおっさん、世話になった。」


 そうして俺は追い出された。まあ、ここは坑道じゃない。監獄じゃない。

 誰を入れるか選べるし、拒絶もできると言うことだろう。


 こうして俺はゴブリンがやってきた森の中に入っていくことにした。

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