第7話 訪問者
「おはよう、アリシア。大丈夫かね?何か手伝うことはあるかね?」
翌朝、訪問者があった。軽めの朝食を食べていた時に、玄関が開いた。
「ああ、イバンさん。おはようございます。ええ、おかげさまで何とかなってます。昨日拾ってきた子が力持ちで助かっちゃいました。」
イバンというらしい初老の男がやってきたのだった。
なんだかいけ好かない奴そんな印象を受けてしまう。
しかし、その印象が湧き起こる理由はよくわからなかった。
「ん?おや見慣れない子だ。なるほど、修繕がだいたい終わっているからどうしたものかと思って様子を見に来たのだが男では足りているようだね。村のみんなもここまで派手にやられなかったから、困らない程度には終わったのだよ。建物に関しては、一段落といったところか。」
「そうですか、それは何よりです。しかし、ご両親が連れ去られてしまって、さぞお辛いでしょう。何かあったらすぐこの私に言ってくださいね。」
ああ、あの賊め。連れていくなら私にすればよかったのに。などと呟きながらイバンは帰っていった。
「あの人は誰?」
「あの人はお隣のイバンさん。悪い人じゃないんだけど、私の胸を見ちゃうのよね。」
「それが何か問題なのか?」
「そこからか。男の子は、胸をじろじろ見ちゃいけないんだよ。」
「ふむ。そういう決まりがあるのか。分かった気をつけよう。でも、あのお隣さんは守れない奴と言うわけか。」
アリシアはなにやら小声で、いや、まあ、同居人ならいいのか?とか呟いている。
「うーん。決まりだけどあまり守られてないというか、なんというか。」
「うーん。よくわからない世界だ。ルールを破ったら鞭打ち以上の罰があるところだったからなあ。俺は打たれなかったけど。」
「そっか。大変だったんだね。」
おっとこれは言わない方が良かったか。砲撃とやらをしてきた連中がここに来るかもしれないしな。
「まあ、とりあえず、朝ご飯を食べたら村のみんなに挨拶周りに行こうか。」
げ、まずいな。なんて言い繕おうか。
「あ、ああ分かった。」
気のない返事をしたときのことだった。カンカンと警鐘が鳴る。
そして隣人のイバンが飛び込んできた。
「おい、アリシアちゃん。逃げろ、ゴブリンが出た!いったん教会に集まろう。」
「ゴブリンですって。それは大変だわ。行くわよ、アル!」
ゴブリン?妖精か?どんな生き物なんだろうなあ。
「うわあ!もうそこまで来ている。」
先に玄関を出たイバン
俺も行こう。たいがいの生物なら
「へえ、あれがゴブリンか。」
イバンの心臓に向かって飛んで来た矢をキャッチ。
弓を引いたのは、緑色の肌を持つ子どもくらいの背丈の生き物だ。
髪はない。耳は長く、口は大きく裂け犬歯がぎらついている。
目はパッチリとしているので清潔感さえあればそこそこいい顔なのではないだろうか?
「え?あ、ああ助かった。私はアリシアちゃんを連れて逃げるから、時間を稼げるかい?」
「そんなおじさん。この子は私より年下なのよ。」
「いや、任せとけ。慣れてる。負けるビジョンが見えない。」
「分かった。アル、死なないでね。」
情熱的な視線を送らないでほしいな。聞いたことあるぞ。泥棒が貢物を盗むと約束して盗みを働いたら、捕まって囚人になったんだ。
そいつが来たときには肘から先はなかったから、すぐ死んだけど。
「すぐ追いつく。大丈夫だ問題ない。」
こう言っておけば安心だろ。さて、ゴブリンちゃん。血の色は赤いんだ。次はどんな断末魔を上げる生き物なのか教えてくれないか?
「おらあ!」
大きく振りかぶって矢を投げつける。鏃が大きく作られた矢は、作りが粗く、あまり精密狙撃には向かないのかもしれない。
しかし、圧倒的速度の前には誤差だ。頭に当たれば爆ぜた。かすめた個体はバランスを崩して倒れた。胴に受けた個体は、五体だけは満足だ。
「運がいいな。3枚抜きか。」
辛うじてかすめただけの個体は戦意喪失。先ほど矢を射た個体も遁走を開始した。それを止める者はいなかった。
「こいつら、けっこうアホだな。」
勝てると思ったのか、情勢判断ができないのか、数に任せて俺に肉薄を試みてくる。
「上等だ。」
ちょっと気が立っているんだ。よく眠れなくて。いい香りがする場所で。
粉塵まみれの坑道にいるときの方が気楽なんだ。
血しぶきを浴びている方が、俺の居場所にふさわしい気がするんだ。
「ああ、とても、落ち着く。」
アリシアは俺の視界からいなくなっていた。敵の総数が見えないから、いったん引いた方がいいかな。
でも、アリシアの家を壊されるのは嫌だな。なんでかは分からなった。多分、俺にとっては居心地が悪くても、彼女の故郷だからだろう。
「さて、上手く引き連れながら下がるか。」
家も守りつつ、彼女も守りつつ。両方同時にやる。
ゴブリン相手ではさほど苦労しない。
「まずは、俺への関心を失ったやつに剣を投げてと、近づいてくる奴は剣を振らせてからパンチと。」
生物と無生物とを隔てる壁は容易く瓦解する、さっきまで元気にしていたゴブリンは今や肉塊となっているのだから。
これが俺になることもあるのだから、気をつけないとな。
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