第3話 【鉄琴】
まずいことになった。なにやら奇跡の子とか言われている。たしかにちびの頃から働かされてたのは俺だけだ。みんな死に絶えた。でもそれだけのことじゃないか。
「だから、言ってるだろう。俺はダン爺さんのために怒ってんだ。その共産主義だかあなあきずむとか、なんだか美味そうな食べ物は関係ないんだ。こんなとこなくなった方がいいんだ。あと、つるはしよりもスコップの方が武器としては優秀だと思う。振り回しやすいだろ。いや、勝手にすればいいけどよ。」
はあ、投獄されていたものの中には厄介な人種がいるもんだ。これはダン爺さんを殺した奴らへの復讐なんだ。すべて俺の気持ちの問題なんだ。みんなは何のために戦っているのかさっぱりわからなかった。でも、どんどん合流してくる。
とはいえ数は力だ。バールで、スコップで、つるはしで、俺たちは坑道を切り拓いた。かつては深く掘るために岩盤に穴を開けた。今となっては外の世界に出るためにに人体に風穴を開けている。
目の前には山ほどの看守。なんか服装が違うが、まあ看守だろう。そいつらがたむろしていた。
「邪魔。」
近くにあったトロッコをぶん投げる。盾を構えていようが関係ない。防御陣形に穴が開いた。立て直そうとしているが遅い。囚人たちの波は殺到するし、俺は囚人からひょいひょい渡される金物をばんばん投げていた。
つるはしは盾を貫いて、肉を切り裂いた。スコップとバールは少し軽すぎた。
でも人命はもっと軽かった。
「閉じ込められる心配はなかったな。早く上に上がれてよかった。さすがにここから先全部は埋めたくなかったんだろうぜ。」
彼らはカネが好きだ。看守よりも、俺らよりも。だからこそ封鎖に伴うダメージを吊り上げてやれば、勝手に自縛してくれるのだ。
「よっしゃ外に出たぞおおおおおおお!!!」
囚人が感極まって猛ダッシュ。ずっと出たかったのだろう。その感動は察するに余りある。彼は外の世界が故郷であり、俺はここが故郷だった。
外の世界はずっと眩しかった。こんなに強い照明が世界を照らしているんだなあと思った。
いの一番に飛び出した彼は爆ぜた。
「え?」
俺は理解できなかった。どうやら周りのみんなもそうらしい。
「むっふっふっふ。いけませんねえ。モグラの分際で表に出ようなどと。お前らのような社会のごみが太陽の光を浴びようなどと、神への不敬極まりない。さあ、太陽神カガヤケル様にその汚い顔を見せたこと、死んで詫びてこい!」
変な奴がいた。風でも引いているのか毛布にくるまったような服を着ている。
そいつは看守と違って妙な気配を持っていた。
「うわ、やばいぞ。【鉄琴】だ。【鉄琴】が出た。だれか魔術師は居ないか。あいつに金物は効かな
発言者の頭は吹き飛んだ。速いな。鉄の塊が鼻をへし折りながら破砕していった。
「ほう。モグラどものくせに魔術を知る者がいるとは、これもまた無礼千万。詫びなさい。この私に。」
こいつ、癖強いな。戦闘能力的にも強いけど。
「ほらほら、塵に帰りなさい。私は慈悲深いのですよ。当たれば即死の場所しか吹き飛ばしませんよ。」
直径20㎝の鉄塊が高速で飛んで来る。死体が吹っ飛ばされて覆いかぶさってきた。好都合だ。身を潜めてみるか。奴はずんずん坑道の入り口に近づいている。
だいぶご満悦な表情をしているな。
しかし奴の魔術と言うやつ厄介だ。地面から土を集めて鉄球を生み出し、それを一瞬で加速させてる。規則的に正確に球を放ち続けるその様はまさにプロフェッショナル。俺たちが石炭を掘りだすように、奴は命を刈り取っていく。
ところが、囚人側にも対抗手段が居たらしい。水の塊で受け止めている。水面に当たった瞬間、球が粉砕されてしまうようだ。
「おやおや、これは「水草」でしたか?あなたがなぜここに居るんです?宝の持ち腐れではありませんか?」
「ふざけるな。貴様の
「滅相もない。私にはなんのことかさっぱりですね。」
ざんげん?よくわからないが、皮肉たっぷりな語気からするとあいつがなにかしたせいで、あの水草の人は苦労してたんだな。
「ですが、その水の盾は弱点がありますよ。」
そういうと【鉄琴】は、土で鉄の槍を作って回転させながら放った。今回は低速だ。しかも、事前に土の球を地面にぶつけて土煙を挙げておく徹底ぶり。
「ぐああああああああ!」
絶叫が聞こえた。煙が腫れると水草の人の手足に槍が突き刺さっている。
「あなたは少々いたぶってあげましょう。積る話もあるのです。」
勝利を確信した【鉄琴】がつかつかと近づいていく。岩の針で手足を小突きながらだ。
だが、虐めに夢中で死体で覆われた俺には気づいていないようだ。
時が来たな。
「な?伏兵?小癪な死ね!」
球が飛んで来る。が、こちらは発射の予備動作、タイミングまで完璧に把握している。
規則的すぎる。
「な?に?なぜ躱せる?貴様、どうして?いやだ。来るなあア!」
落ち着きを失ってばら撒いてくるが、余計に規則的に打ち出してくる。
焦っているからこそ、日ごろの癖が出てしまうのだ。
発射された槍を掴んで投げ返す。それは心臓に吸い込まれ【鉄琴】は砕け散った。
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