第132話 依頼の詳細

 ギルドの打ち合わせスペースに移動したアカとヒイロ、それにロックの三人。打ち合わせスペースとは言っても丸いテーブルがいくつか置いてあるだけで周りからは丸見えだし、聞き耳を立てれば隣のテーブルで話している内容は丸聞こえであり、本当に重要な話はこんなところではしない。逆にそのぐらい気楽な話でもあるという証左ではある。


 アカとヒイロはさほど気張らずにロックから話を聞く。


「依頼ってのは街の南東にある遺跡の調査だ」

「遺跡の調査? あんなところ、調べる部分もないんじゃないですか?」


 南東の遺跡はアカとヒイロも行ったことがある。古代文明の遺跡とかいう大層な名前の割に、まあまあショボい石碑があるだけの広場というイメージだ。ちょっと奥の方に祭壇があるらしいがそれだけである。


「お、行ったことがあるのか。多分嬢ちゃん達が想像している祭壇部分なんだが、あそこはまあ入り口だな。じつは祭壇の裏側に地下へ降りていく階段があって地下の方はかなり広い遺跡……迷宮みたいな様子になっているんだ」

「そうなんですか。確かに祭壇のある部屋は外からちらっと見ただけでした」

「とは言え、遺跡の中も何十年も調査されていて浅い層についてはしっかりした地図もあるし今更調査して新しい何かが見つかるようなもんでもないんだがな」

「浅い層って事は、何層もあるんですか?」

「ああ。一応五層まではある事が判明している。そこより下については未知の領域ってところだな」


 ロックによると、四層より下には幽霊ゴースト種の魔物が多く徘徊しているらしく、奴らに対して高い効果をつく聖水を山ほど持っていかないととても探索はままならないらしい。一応五層がある事は確認されているが、碌なお宝があるわけでもない遺跡を聖水を大量に持ち込んでまでさらに奥まで探索するような者は居ないということだ。

 

「ということは、今回は五層より下を探索するって事ですか?」

「いや、今回は一層の探索だな」

「一層は地図があるんじゃないですか?」

「ああ。だけどそれを見られるのはBランク以上の冒険者だけだからな。若手冒険者は手探りでマッピングしないといけないだろう」

「若手……私達のことですか?」

「一緒に来るならそういうことになるな」

「あ、なんか分かってきたかも」


 アカの言葉にロックは頷いて詳細を説明してくれる。


「今回俺がギルドから依頼されたのは、若手冒険者の育成指導だ。近頃の若いやつは楽に倒せる魔物ばっかり狩って小金を稼いでるだけってのが多くてな。まあ一定数そういうのが居ても構わないんだが、ギルドとしては有望な若手にはもっと上を目指してほしいという考えがある」

「全体の一割ぐらいはBランクが居ないと困るってやつでしたっけ」

「ああ。指名依頼が来た時に対応できる奴がいないといけないからな」

「それで、若手冒険者の成長のために遺跡の調査をさせてロックさんがその引率をするってわけですか」

「引率というよりも一緒に仕事をする感じだな。遺跡を調査して若手にダンジョン内での進み方やマッピングの仕方を教える。あとは何かしら成果を持ち帰れればいいがそうで無い場合の引き際を考えさせたりして、魔物討伐だけじゃ覚えられないようなノウハウを伝授するのが目的だ」

「Bランク冒険者になろうと思ったらそういう技術も必須なんですかね」

「必須とまでは言えないが、出来ないよりは出来たほうが良いだろうな。だからこそギルドも有望な若手にそういった経験を積ませようとして俺みたいなロートルに育成指導の要請が来るわけだ」


 なるほど。先ほどロックが言っていたアカとヒイロにも悪くない誘いというのはそう言った意味か。今はナナミの指導のもとで様々な魔物を狩っているけれど本格的にBランクを目指そうと思ったら今回の遺跡調査に同行させてもらえるのは決して悪い話ではない。


「話は分かりました。それで、どうして私たちを誘ったんですか?」

「嬢ちゃん達もBランクを目指しているんだろ? だったら……」

「そういう話でなくて、私たちが同行することでロックさんにもメリットがあるんでしょう?」


 アカの指摘に、ロックはバツの悪そうな顔をする。彼としてはアカとヒイロに同行するメリットだけを提示してついてきて貰うのがベストではあった。誘った本音を話したら断られる可能性もあると考えているからだ。しかし目の前の二人は美味しいエサにパクリと食いついてくれるほど無警戒ではなかった。さて、どうしたものかと思案するロックではあるが、ここで嘘をついても仕方がないと観念、正直に話すことにする。


「実はギルドに推薦された若手パーティがこの調査に乗り気じゃなくてな。まあほとんど金にならない仕事だからある意味当然なんだが……」

「まあ、私たちもお金を第一に仕事をしていたら確かに渋るかもしれないですね」

「でもその人たちもBランクを目指してはいるんじゃないの? だったら昇格に有利になる依頼は受けたほうが長い目で見て得になると思うけど」


 ヒイロの疑問は最もである。しかしロックは苦笑いをして首を振った。

 

「血の気の多い若手なんてそんな長い目で見て得かどうかなんて考えないのさ。俺たちは高く売れる魔物をいつも狩れるからそのうちギルドから昇格の声がかかるはず! なんて根拠のない自信を持ってるのが若手冒険者ってやつだ」

「遺跡調査ができるようになるメリットは提示してるんですよね?」

「それでもなんだよ。今回ギルドから声がかかってるのは今年冒険者デビューしたCランクの若造で、昨日顔合わせしたんだけどちょっとばかり生意気なやつらでね。まあ俺はこれでも冒険者歴だけは長いBランクだから表立って反抗はされないけど、それでもこの遺跡調査がイヤイヤなのは手に取るように分かっちまう」


 こうやってメリットを前向きに受け取ってくれる嬢ちゃん達の方が珍しいもんなんだよ、とロックはお手上げのポーズをとってみせた。


「そんな人達との調査に、私たちを同行させるんですか……?」

「そんなやつらだからこそなんだよ。自分たちより若くてか弱い女の子達が真面目に調査していたら、嫌でも気合が入るだろう? それでいて実は実力も折り紙つきと来たもんだ」

「認めてもらえるのはありがたいですけど、肝心の若手冒険者達は私たちを舐めてかかるんじゃないですかね」

「ある程度は俺が睨みを利かせるから大丈夫だろうし、日帰りの調査依頼でそうそうトラブルも起こらないだろう」


 これで俺の言いたいことは全てだと言わんばかりに両手を広げたロック。あとはアカとヒイロがどう判断するかである。


 アカとしては悪くなさそうに思えるが、ヒイロはどうだろう? そう思ってヒイロの方を見ると、彼女は少し考え込んで、ロックに訊ねる。


「実はこっそり私たちとその冒険者をくっつけようとか考えたりしてないですよね?」

「そんなこと考えちゃいないさ。勝手にそんなことしたらバアさんに殺されちまうぜ」

「ふーん……まあいいか。私は良いと思うよ。街のお掃除をするよりは実利がありそうだしね」


 街の掃除もコツコツこなす事でギルドや街の人々の覚えが良くなるというメリットはあるが、Bランクを目指すなら確かにロックの依頼は魅力的だ。


 まあわざわざロックの依頼に同行しなくてもそのうちナナミから教われば良いとも考えられるが、彼女の修行のスパルタっぷりを思えばまだ自分たちに甘そうなロックから色々と教わるのは悪くない。


「それじゃあせっかくなのでお誘いを受けさせて貰おうかしら」

「よしきたっ! 助かるぜ、ありがとうな」


 ロックはニカッと笑って頷いてみせた。

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