第87話 一致団結との依頼

 先日のいざこざから十日程過ぎた。一致団結のメンバー……特に直接揉めたパーティから何か報復があったらどうしようかなんて思っていたけれど幸いそんな事もなく、逆に不気味なくらいにこれまで通りに過ごす事が出来た。


 この街で稼ごうと考えた目標金額も見えて来て、そろそろクランを抜ける相談をした方が良いかもしれないな。そんなふうに考え始めたある日の事。


「合同での依頼?」

「ああ。フーマがアンタ達をご指名だ」


 ルシアも難しい顔でアカとヒイロに話を持ちかける。


「なんでまたそんな話を。たまたま受けたい依頼に人数が足りなかったのかしら」

「そうならないためのクラン制度じゃ無いの?」

「……まあ、人数と依頼のタイミングもあるだろうが、本命はアンタ達を引き抜きたいって事だろうね。その足がかりだろうさ。どうする?」

「どうするって……そもそも他のクランの依頼を受けてもいいんですか?」

「別に強制するものじゃ無いからね。あと、今日の他のメンバーとの兼ね合いもあって双焔二人が居なくてもこっちは問題なく回るって事情もある」


 なるほどね、と納得するアカとヒイロ。


「ちなみにこの提案を受けるメリットって……」

「報酬は才色兼備そっちの三倍は堅いぞ」

「フーマ。まだ二人から返事を貰えていないんだが」

「まあいいじゃないか。アカ、ヒイロ。いま言った通りで今日二人に参加して欲しいのは二足牛鬼の討伐だ。報酬は銀貨四十枚を人数で頭割りの予定だ」


 二人で銀貨八枚は確かに美味しい。


「お誘いは嬉しいけど、私達はそれを理由に一致団結に入る予定はないわよ?」

「まあすぐにとは言わないさ。ただ、他のクランを知っておくのも悪くはないだろう?」


 とはいえ、ここから段々と二人を取り込んでいくつもりなのは見え見えである。


「そこまで言うなら……」

「おお! 受けてくれるか!」


 近々街を離れる予定なのにここで合同依頼を受けるのはちょっとズルい気もするけれど、「一致団結に入るつもりはない」と改めて宣言しているので後から文句を言われる筋合いも無いだろう。


 ここで断っても今日は才色兼備側で魔獣の討伐依頼の席が無さそうだし、せっかくなのでフーマの誘いに乗ることにした。


◇ ◇ ◇


「というわけで本日助っ人として参加してくれる「双焔」の二人、アカとヒイロだ」

「よろしくお願いします」


 フーマに連れられて一致団結のパーティと顔合わせをする。フーマの他にパーティは二つだろうか。三人組と四人組がなんとなく固まっていて、そのリーダーと思われる人物が軽く頭を下げる。

 あ、これあんまり歓迎されていないやつだとアカはピンときた。そういうの分かっちゃうんだよね、日本人空気を読む民だから。


「こっちの三人組が「気合魂」でリーダーはウィーン。四人組のほうが「青空旅団」でリーダーがナコモ。まあ臨時の同盟アライアンスだけど上手くやっていこう!」


 空気が読めないのか、敢えて読まないのか。フーマは意気揚々と宣言した。


 二足牛鬼の縄張りとされているのはこの街から街道を北に丸二日進んだところにある小さな山らしい。


「遠征ですか」

「そうなるな。俺たちはそのつもりで準備しているが、アカ達はどうだ?」

「一通りの荷物は持ち歩いてるのでこのまま出れます……あ、街を出る前に携行食だけ補充して来て良いですか?」

「ああ、じゃあ街の出口付近にある商店に寄ろう」


 一行はゾロゾロと移動を開始し、宣言通り商店に立ち寄る。


「俺たちは準備出来てるから、ここで待っている」

「ありがとう。じゃあ行って来ます」


 アカとヒイロが商店に入るのを見届けると、気合魂のウィーンがフーマに話しかけた。


「あれがアンタが言ってた面白いやつらか?」

「ああ。手を出すなよ? ……少なくとも依頼が終わるまではな」

「あんなガキンチョに興味はねぇが、戦えるのか?」

「一応才色兼備の中では毎回狩猟依頼をそつなくこなす程度の実力はあるらしい」

「それってどうなんだ? 二足牛鬼はそこらの雑魚とは段違いだぞ」

「まあそこはお手並み拝見ってところだな。ウチに入るなら牛鬼と戦えるぐらいの強さが無いと困るしな。まあやられちまったらその時はその時さ」


 平然と言い放つフーマ。彼は双焔に興味を持っているが、それは先日のアカとのやりとりで彼女達の可憐な見た目にそぐわない実力の気配を感じ取ったからである。その読み通りの強さがあるのならそれで良いし、実力が無いなら無いで野垂れ死んでも構わないと思っている。買い物を済ませて店から出てくるアカとヒイロに笑いかけながら、その目は冷静に彼女達の実力を見極めようとしている。


◇ ◇ ◇


 二日間の道中は特に問題は起こらなかった。もともと無駄話をする面子でも無いし、昼は黙々と歩き夜になったら適当に火を起こして交代で眠る。

 アカとヒイロは以前他のパーティと合同依頼を受けた際に「こっちはこっちで見張っておく」と言ったところそれはそれでトラブルになった(※)ので、今回は大人しくリーダーの言い分に従いローテーションで休むことにした。

(※第1章 第4話)


 ……とは言いつつ、横になりつつも片方は眠らないようにしている。つまり自分たちのスタイルは守りつつ、他のパーティと足並みは揃えるという事を覚えた二人だった。


 そんなこんなで三日目。街道沿いにある古い小屋を見つけると、その側に寄ったフーマは北西にある小さな山を見た。


「あの山だな」

「よく分かるわね。周りの山と大した違いはないように見えるのに」

「二足牛鬼の討伐は初めてじゃないからな。山の形をきちんと覚えておけば繰り返して依頼を受ける時に役に立つだろう」


 そう言ってフーマが見せてくれた巻物にはこの小屋からみたパノラマの風景が簡単な絵になっており、西に見える一際大きな山の隣にあるやや小ぶりな山――先ほどフーマが見た場所である――には矢印を引っ張って「二足牛鬼」と書いてある。


「なるほど、こうして書いておけば忘れないわね」


 今、自分たちが立っている小屋を起点に360°のパノラマ風景を描いてあるのでよほどの地殻変動でもない限り山の形を見ればどこに目当ての魔獣が棲息しているか迷わずに済むといわけだ。見せてくれたのは目の前の山の部分だけだが、恐らく反対側の景色にも何かしら書き込んであるのだろう。


 そういえば、日本にいた時にスマホのカメラを使って同じような事をしたなとアカは思い出す。


 ……。


― アカ、エリカ、どこにいるの?

― だから、南口から出た駅前広場だって

― バスがいっぱい停まってるところだよね、いないよ?

― カナタ、そこ違う! そっちは新南口だよ

― えー、なにそれ!? わかんないよぉ

― 地図アプリで私達の居る場所送ろうか

― 地図とか見てもわかんないもん……。アカ、そこからの景色の写真を送ってよ

― 景色の写真?

― うん、ビルの姿を頼りに二人の元まで辿り着くから!

― え……なにそれ……

― いいから、お願い!

― いま送ったよ

― あ、写真きた! エリカ、ありがとー!

― いっそ私たちがバス乗り場まで迎えに行ったほうが早くない?

― いいんじゃない? カナタがあの写真をもとにここに辿り着くかどうかってのも面白そうだし

― えへへ、すぐ行くから待っててねー


― なんで地図は読めなくて写真を見たらここに来られるのよ……

― ほら、私って感覚派だから

― そんなもんかなぁ……でも現に辿り着いてるだよなぁ……ブツブツ

― アカ、カナタの事は考えても分かんないから

― 私からしたら地図見て場所が分かるアカとエリカの方がすごいと思うよ? よく現物見ないで場所が分かるなって

― 伊能忠敬全否定かよ

― あはは、私とは合わないってだけだよ


 ……。


 そういえば、彼女達は日本で元気にしてるだろうか。いきなり自分が居なくなったことで、心配をかけてしまっているだろうな。


 でも、ものすごく自分勝手で傲慢な意見だけど、親友達には自分のことを心配していてほしいなとアカは思う。この先何年かかるか分からないけれど、いつか日本に帰ることができた時に、自分のことが忘れ去られてしまっていたそれはとても悲しいことだから。


「……アカ、どうしたの?」


 ボーッとしているアカの肩をヒイロが優しく叩く。


「あ、ごめんね。ちょっと昔のことを思い出してた」

「珍しいね。平気?」

「うん、大丈夫。さあ、行きましょうか」


 すでに歩き始めているフーマ達の後を追うように、再び歩き始めた。



第87話 了

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作者より

時系列と関係性が少しややこしいですが、アカとヒイロは他のクラスメイトが召喚されたことをまだ知りません。自分たち二人だけが異世界に投げ出されたと思っています。


時系列

2章・第1部 幕間 召喚された直後あたり

 ↓ およそ 1年半

4章 第54話  ニアミスその1

6章 第76話  ニアミスその2、この時点でクラスメイト側はアカとヒイロも召喚されていると気付き探している

 ↓ 数ヶ月

7章 現在


ネタバレしている通り、将来的にクラスメイト達とは決して喜ばしくない再会をするのですがそれはまだ先のお話になります。

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