第85話 VS フーマ
「理由を聞かせて貰えるか?」
フーマがアカに問いかける。
「そもそも、あなたは誰よ?」
「おっと、そういえば初対面だったのに自己紹介が遅れたな。俺の名前はフーマ。クラン「一致団結」のリーダーを務めているものだ。君は?」
「……アカ。「双焔」ってパーティのリーダーをしてるわ」
「アカか。いい名前だな」
「どうも」
軽薄な褒め言葉を受け流す。どうせ誰に対しても言ってるんだろうし。
「それで、素材を渡さない理由を教えて貰えるかな?」
「渡す理由がひとつもないからよ」
「おい、アカっ、」
「ルシアは黙っていてくれ、俺は今アカと話をしている。……渡す理由が無い、か。うちの所属のパーティが君たちに素材を盗られたと言っているんだがね」
「盗られた」
「ああ、だとすればその素材は本来彼らのモノの筈だ。だから返して欲しい。俺たちの要求はそれだけだな」
「盗人に対して随分優しいのね」
「お望みとあれば鞭も付けるが、生憎とこちらもそこまでしたくは無い。聞けば君たちはまだ新人ということで行き違いもあったのかも知れないという事情を考慮して、大人しく返してくれれば大事にするべきでは無いと判断したわけさ」
「ふーん」
アカは少し考える仕草をしてみせるが、顔を上げて振り返ると少し離れたところにいたヒイロに声を掛けた。
「ヒイロ! なんかもう面倒だから、それ納品しちゃって!」
「心得た!」
ヒイロはそのままズタ袋に入った赤鉄カブトムシを受付に持っていく。その様子を確認して、アカは改めてフーマに向き直った。
「……こちらは穏便に済ますつもりだったんだがな」
「あら、奇遇ね。こちらとしてはその嘘つきさんを拷問してでも本当のことを言わせたいところだけど、ここで引き下がるならあなたの顔に免じて一回だけ許してあげるわ」
「なるほど、うちの者が嘘をついているというわけだ」
「そういうこと。盗んだなんて酷い言い草」
「そうなると困ったな。君か俺の仲間のどちらかが噓を吐いているわけだが、俺としては仲間を信じたい。彼らが嘘をついている証拠はあるのかい?」
フーマはニヤリと笑って訊ねる。こいつ、こちらの反応を楽しんでるな。アカは大きくため息を吐いた。
「じゃあ私達に盗まれたって言ってるパーティを連れて来て貰えないかしら? どうせその場しのぎの嘘をつくような奴らですもの。ちょっと尋問したらすぐにボロを出すに決まってるわ」
◇ ◇ ◇
フーマに連れられてやって来たのは、紛れもなく昼間いちゃもんをつけて来た5人組だった。
「やっぱりお前達、才色兼備だったんだな。……あまりいい気になるなよ。フーマさん、俺たちの素材を盗んだのはコイツらで間違い無いです!」
リーダー格の男がフーマに言った。
「だ、そうだが」
「私達が盗んだって証拠は?」
「そんなもの必要ない! 俺たちがこの目で見ていたんだ!」
「証拠無し、と。じゃあ今からその5人を順番に別室に連れて行って、それぞれに素材を盗まれた時の状況を確認して貰えるかしら? その目で見ていたなら全員はっきりと答えられるでしょうし」
「なっ……!」
「誰か一人でもその時の辻褄が合わないことを言ったら、それはつまりあなた達が嘘を言っているって証拠になるわね。今から5人で会話したら口裏を合わせていると判断するわ。はい、ヨーイドン」
パンッと手を叩く。どうせクランリーダーに泣きついた時に「縄張りで勝手に採集をしていた」だとちょっと弱いとか考えて「盗まれた」と話を盛ったのだろう。そんな浅慮な事をする連中が予め辻褄の合うストーリーを作って認識を合わせておくとは思えない。確実に素材を奪うために盗まれたと言ったのだろうが、それによって墓穴を掘ったということだ。
「ほら、どうしたの? 最初の一人はあなた?」
「ぐっ……」
ちなみに「縄張りで勝手に採集していた」と言われても素直に引き渡すつもりは無かった……とはいえ、予めクラン同士で取り決めがあったのだとしたら、知らなかったとはいえ場合によってはこちらが折れざるを得ないかもしれないなと思っていた。そういう意味では相手が明確な嘘をついてくれたお陰でこちらも強気に出る事ができたのは正直僥倖であった。
……。
…………。
………………。
「彼らから素材を盗んだのは君たちでは無かったそうだ」
「そう。誤解が解けてよかったわ」
5人の聴取を終えたフーマは戻って来てアカに告げた。まあ盗まれたという話自体が狂言なのだと思うが、嘘をついて
「無関係の君たちを疑って悪かった。彼らに代わって謝罪する」
「受け入れるわ」
アカとしても別に制裁を加えたいわけではないのでもう絡まないでくれるならそれで良い。
「寛大な対応感謝する。それでは我々はこれで」
「ええ、お疲れさま」
「……ところで君達、
「いきなり勧誘? 悪いけどお断りさせて貰うわ」
「そうか、まあ返事は急いでいないからよく考えてくれ。ではまた」
そう言うとフーマは虚言パーティを連れてギルドから出て行った。
◇ ◇ ◇
「フーマさん、良かったんですか?」
ギルドを出たフーマに、虚言パーティのリーダーが声を掛ける。アカ達が彼らの素材を盗んだと言うのは確かに嘘であった。しかし彼らの主張としては、一致団結の縄張りで素材を集めていたのだから直接ではないにしても彼らが集めるべきであった素材を盗ったには違いがないというものであった。
「まあ、縄張りを荒らしたという事実を強調しても良かったんだが、もうギルドに納品してしまっていたからな。それを取り返すとなると相応の理由が必要だ。うちの縄張りと
「ですが……」
「そもそも俺はお前から「素材を盗まれた」と聞いていたんだ。そのせいであちらに付け入る口実を与えてしまった。初めから正直に話してくれれば違う攻め方もあったのになぁ?」
虚言リーダーをぎろりと睨むフーマ。
「す、すみません……」
「まあお前達の言い分も分からないではない。だからクランとして罰を与える気もないし、次からはきちんと報告しろ。まあ今日の依頼に足りなかった分の罰金くらいは大人しく払っておけ」
「は、はい……。ところで最後にアイツらを勧誘してましたが、あれって社交辞令ではなく……?」
「社交辞令で引き抜きをするやつがいるか」
「じゃあ本当にウチに来て欲しいと思ったってことですか?」
「ああ。話してる最中も度胸があって面白い女だと思ったがお前達の話を聞いて決心した。
フーマはアカとのやりとりを思い出す。
自分達のクランリーダーであるルシアがオロオロしているというのに、一歩も引かずに堂々と意見を主張する胆力。こちらが嘘をついていると見抜いた瞬間に行動を起こす決断の速さや、証言をした5人を呼んで嘘を暴く手際の良さ。どれもこれもそこらの新人冒険者が持ち得るようなものではない。
それに、と虚言リーダーを見る。
「お前達と山で会って揉めた時に、あっちは何ならやる気満々だったんだろう?」
「そうですね。あの場はこっちが引きましたが、あのまま口論が続けばお互いに武器を抜いたかもしれません」
「5対2で、だろう? 面白ぇじゃねぇか」
所詮コイツらは採集依頼が中心の雑魚だ。だがそれでも2人しかいないパーティが、5人パーティに正面から喧嘩を売るなんて、そんな事をするのは何も考えていないバカか、余程腕に自信があるか――それでも普通はしないだろうが――のどちらかだ。
そしてフーマはアカと話した中で、彼女が何も考えていないバカでは無いと確信している。ということは彼女達はこの5人組と戦いになった場合、勝つ自信があったと言う事だ。
クックックとフーマは笑う。
「頭が良くて実力もあって気が強ぇとか、全くもって俺好みだ。是非とも俺の女にしてぇなあ」
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